第7話 クラウス・エリアデス(2)
ロード達と別れて帝国本部に行くとそこには昼間のガングルスさんがいた。
「おお!よく来てくれたな。道がわからないだろうから、ここからは俺が案内する。」
「ありがとうございます。」
そういってガングルスさんに車で案内してもらうと、会場は港を臨む公園地帯にある建物だった。
開発自治区には新規に開発された建物も多くあったが、多くはかつてからある帝国の建造物などが残されての開発であり、公園地帯にあるその建物も古い帝国の建築様式のものだった。
「肝心の議長が途中からの参加だから少し肩身が狭いかもしれないが、俺についていればいい。」
車から降りるとガングルスさんがそう声をかけてくれた。レセプションといっても突然の話で何をどうしたら良いのか少し困惑していたので、そうやって声をかけてもらえたことはありがたかった。
「ありがとうございます。」
中に入ると会場は広く華やかな空間が広がっていた。テレビで見たことのある政治家や国の元首がいるだけでなく、各国の自治区に赴任している軍のトップの人間がいた。
「ほら、アクセル。あそこにいるのがレーシェ連邦のエース、クラウス・エリアデスだよ。」
ガングルスさんはそう言うとロビーの、舞台側とは逆の後ろの方を指さした。指さされた方向の先には部屋の隅でそっと佇む仮面の男がいた。
それを見たアクセルが一瞬戸惑っているとこう続けた。
「エクリプスのパイロットさ。」
エクリプスは10年前の戦いで、無敵と言われていたライダーのグラン・ノヴァを撃ち落とした機体だ。グラン・レースには出場しないが、まだ現役でエクリプスに搭乗しているらしいという話は聞いていた。
「あれが、、、」
そう思うとまた別の議員がこちらに声をかけてきた。
アクセルがやってきた議員の為に食事をよそおうと目線を下げ再び顔を上げると、クラウスの姿はいなくなっていた。
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レセプション会場からそう遠くない場所にその広場はあった。
芝生が広がるその場所を、夜の月が静かに照らしていた。
何もない広場だったが、ただ一つ違ったのはそこに白い大理石で出来た記念碑があることだった。
男は何も言わずに佇んでいた。
どれほどそうした頃だろう、遠くから足音が、しかし真っすぐとこちらに向かう様子で近づいてくる。
物思いに耽っていたというのと、こんな時間にこんな場所に人が来るわけないという思いからか気づくのが遅れてしまったのだ。
どこかへ隠れようかと思い辺りを見渡したが隠れようにもこれといって隠れる場所がない。
仕方なく男は立ち尽くし顔をそむけることにした。
そっとここを立ち去ろう。
「珍しい。先客なんて。」
少し離れた場所からであったが、ちょうど今立ち去ろうと思っていた彼にその人物は先に声をかけた。
ちらと目をやるとそこには手に花束を抱えた女性が一人立っていた。
「この夜更けに、本国の墓石じゃなくてこっちの方に来るなんて。中々のファンの方かしら」
だめだ。何も言い返すことが出来ない。一つ確かなのは明らかに軍服とわからないよう上にローブを羽織っていてよかったということだろうか。
何も言えずに黙っていると女性は花束をそっと記念碑に供え話を続けた。
「もう10年になる。あの頃は、ライダーのいない世界なんて、想像も出来なかったけど、気がついたら世界は進んでいて、各国手を携えての宇宙開発なんてところにまできた。」
この話ぶりからして、古くからライダーを知っているようだった。この女性はおそらく昔からいるこの自治区の住民ではないかと彼は思った。
「やはり、みんなに愛されていたんだろうか。ライダーという男は」
気が付けば思わずそう聞いていた。自分でも何故そんなことを聞いてしまったんだろうと話しかけてから後悔したが、不意に言葉が出ていた。
女性は話しかけられたことに驚いたのか一瞬目を見開いたが、すぐに懐かしそうな顔で記念碑に目をやった
「そうね。破天荒なように見えて筋が通っていて、頭も良くて統率力があって、、、まあ早くに死んでしまったから、粗が目立たなかったのも大きいのかもしれないけど、みんなライダーを慕ってた。
ライダーはもういないけど、ライダーの未来に向かう意志や、弱気を助け強気を挫く、そんな気質がこの街にまだ残っているからこそ、今回の自治区設営が実現したと思ってる。」
懐かしそうに微笑む女性の眼差しがライダーという人間がどれほどこの国や街にとって大きな存在だったかを思わせた。それと同時に未だに消えることのない鈍く思い罪悪感が彼の心を締め付けた。
「ライダーのことを話せる人も最近はいないから、つい話しすぎたわ。邪魔したわね」
「あ、」
そういって微笑むと女性は去っていった。
穏やかな風だけがその場に残った。
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セレモニー会場ではメルファン議長到着してからしばらく経っていた。というのも、やはり今回の宇宙開発自治区の代表であるだけあって議長には登壇挨拶や各国トップ層への挨拶などやらねばならないことも多く、アクセルのところに真っすぐに来る訳にもいかなかったのだ。
待っている間こちらに話しかけてくれる親切な人もいたが、基本的に立場が全く違うので会話もそう長くは続かなかった。
このまま会場にいてもエスコート出来る自信もなく、不用意な発言をして問題になってしまったらという思いからアクセルはバルコニーで夜風をあびて待つことにした。
そうしてしばらくバルコニーで待って、会も終わりに近づいたころ、ようやく議長がこちらにやって来てくれた。
「アクセルくん。すまない。待たせてしまったね。先日はありがとう。助けてもらったというのに、取り調べなど、負担をかけるばかりで申し訳なかったね。」
「議長、いいえ、助けただなんて。それより、議長こそ怪我は?」
「怪我?ああ、大丈夫。この程度では根はあげんよ。
…君が駆動したグランだが、昨日も聞いただろうが、あれは軍用機としてこの自治区の防衛に主に使用する予定だったものだ。パイロットはまだ決まっていないが、是非君のような若者に乗ってほしいと思っているよ。」
「グランに、俺が、、、」
グランはずっと憧れてきた機体だった。こんな事件でもなければ、きっともっと純粋にグランに憧れて、搭乗者になることを志願していたのだろうか、、、。
「強制はしないよ。正式な搭乗員となるためには試験もある。」
アクセルは宇宙とそこに瞬く星々を見つめた。
ユリシアはどうしているだろうか、同じようにこの夜空を見上げているのだろうか。
彼女は何故あんなことをしたのだろうか、議長を拘束している彼女は本当に嫌そうな顔をしていた。彼女もまた宇宙開発反対派の一味かなにかで、誰かに命令されて議長を拘束したのだろうか。
思いをはせたが、答えの出る問題ではなかった。
だが何故だろう、アクセルの中にはユリシアを守りたいという確かな思いが胸の中にあった。そして新しいグランの登場が、ライダーの思い出が、この街が、その思いを、そう思う自分を後押ししてくれているような気がしていた。
「議長、俺、グランに乗ります。」
思いは固かった。
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古い作りのその城には、隠された地下室が存在した。
その地下で闇に包まれながら話す3人の人影があった。
「姫、申し訳ありません。」
「いいえ、今回の計画は失敗に終わりましたが、引き続き監視を。
・・・私たちの活動に、人類の命運がかかっています。」
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