第5話 セレモニー/帝国の新兵器(2)

「ユリシア・・・」

信じられない。数日前一緒に自治区を回ったユリシアがなぜ。だが何もわからないなか、別れ際にユリシアが見せたどこか寂しそうな表情の理由だけが今ここで解決した気がした。


「アクセル・・・」

ユリシアも複雑な表情でこちらを見ている。

「う、うぅ」

抱えられていたメルファン議長が呻きつつも少し体制を取り直そうとしている。意識が少し回復に向かっているのだろうか。

ユリシアもそちらに目を向けたが今度は議長を抱えている男が鋭いまなざしでこちらを睨んできた。

恐らく俺がここでユリシアを抑えても、また、議長が意識を回復し抵抗したとしてもこの場はこの男に制されてしまうだろう。そう思わせるほどの気迫がこの人物にはあった。

俺からはこうしてここで手を挙げて攻撃の意思がないことを示す以外なにも出来ない。


議長の意識が少しずつだが回復しつつある。

呻きながら議長は目を開け、両手を挙げる自分の姿をみて状況を察したようだった。

「議長、受け答えができるなら我々の質問に答えてください。」

ユリシアが議長に問いかけた。

「我々の目的は、セレモニーで公表される予定の帝国の新兵器です。」

帝国の新兵器…?

なんの話だ。少なくとも自分は聞いたことのない情報だった。

議長も眉を潜めている。しかし、それが兵器とは何かわからないからなのか、それとも存在を秘匿したいからなのかの判断はつかなかった。

「君たちが、、、狙うような兵器は、ない。」

やっと意識が回復した議長がなんとか言葉を絞り出した。


ユリシアと連れの男も、その言葉を受けて判断しかねるという表情を見せていたが、ユリシアは議長を拘束していた男に命令した。

「銃を降ろしなさい」

そう言われて男は突きつけていた銃をおろした。

「議長、このような卑怯な方法であなたを脅した非礼をお詫びいたします。ですが議長、帝国軍がこのセレモニーに合わせて開発した新兵器を、世界の安寧の為に、引き下げて頂きたいのです。」


「新兵器…君たちは何か勘違いをしている。ついて来なさい」

ユリシアともう1人の男は顔を見合わせた。


議長に促されるままユリシア達が持っていた軍事用トラックに乗った。

トラックの中では誰もが何も言わなかった。

ユリシアに何か声をかけたかったが、向こうも気まずそうにしていて話しかけることは出来なかった。


「ここだ」

議長が案内したのはセレモニー会場から少し離れた倉庫のような場所だった。

案内されるまま薄暗い倉庫の中に入ると、一機の機体が倉庫に射し込む薄明かりを受け、確かな存在感を放っていた。


「これは、、、」

「そうだ。これが、帝国が自治区制定にあたって公表予定だった、グラン・スピカだ。自治区防衛の要となる機体だ。」

ライダーが戦死して以来、製造中止になっていたグランだ。それは、グラン・ノヴァに通じる荘厳さを持ちつつも、より洗練された機体になっているように感じられた。


「グラン、、、だったの」

ユリシアは驚いた顔で機体を見ている。

「君たちの探しているものは、“ユニバース”、かな」

!?

その瞬間その場の空気が揺らいだ。

「ユニバース実験は禁止されているし、我々はその遺産も持っていない。今後行う計画もない。君たちのボスにもそう伝えるといい。」

そう言われてユリシアは複雑そうな顔をしていたが、頷いて去って行った。

別れ際ユリシアと目があったが、お互いもう何も言うことが出来なかった。


「君は、グラン・レースの、帝国代表枠で出ていた隊員だね。」

「そうです。議長。」

「マグナに乗れる、ということはグランの操作もわかるかな。私をこれで帝国本部まで送り届けてくれないか。」

「え、、、!?」

何もかもが突然のことで戸惑ったが、アクセルは議長の命令に従った。

初めて操縦するグランはマグナと違いより細かい操作性があり正直怖いところもあったが、基本のシステムはマグナと共通で、駆動性が優れていることが操縦してすぐにわかった。

夢にまで憧れたグランシリーズに乗れたことはいいが、こんな形で操縦することになったことは複雑だった。

高度を上げると自治区が小さく一望出来た。つい先日同じ景色をユリシアと見たのに。

頭の中ではただユリシアの楽しそうな笑顔と、寂しそうな表情だけが反芻していた。



かつて、遠い昔、現人類の文明の基礎となる文明を築き上げた別の人類がいたという言い伝えがある。彼らは遠い惑星、遠い宇宙から、ユニバースと呼ばれる技術をもってこの星に来たという。

ユニバースは人類に恩恵をもたらすと唱えるものもいれば、人類に大きな災いをもたらすと言うものもいた。

これは、2つの月と鉱石を守る地球に住むもの達の物語である。

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