第4話 セレモニー/帝国の新兵器(1)
セレモニーの当日はグランレースにはぴったりの快晴となった。アクセルにとっては後半で行われるレースがメインの様なものであったが、セレモニーの真の目的は全く異なっていた。
ラナ鉱石の効果が発見されてから人類は飛躍的に宇宙進出への歩みを進めたが、それは宇宙空間での新たな領地や利権の奪い合いの緊張をも高めた。その象徴とも言えるのが10年前の帝国軍と連邦との宇宙空間での戦闘である。それまで宇宙領域での主権や利益を巡る論争や睨み合いこそあれ、実際に戦闘へと至ったのはその時が初めてであった。
これに危機感を覚えた各国は宇宙空間での開発事業の透明化を図る条約を締結。宇宙開発自治区を設け、一定の規定を満たすロケット・宇宙船の離陸を自治区から行うものとすることに取り決めた。そうすることで例えそれがあくまで気休めや表向きの面でという意味を多分に含んでいたとてしても、この取り決めが一つ大きな抑止力となり、当面の宇宙開発を平和的に行う為の足枷となるよう目論んだのだ。
今回のセレモニーは今後の宇宙開発を各国手を携えて友好的に進めていくことを宣言するものであり、それと同時に、飛躍的に進む宇宙事業分野においてパワーバランスを極端に損ねることのないよう各国互いに牽制し合うという意味合いものであった。
前半のセレモニーは滞りなく行われ、帝国総統による挨拶、コンサート、パレードも全て滞りなく進み、そしてグランレースが始まろうとしていた。
着々とレースは進行し、アクセルは昂まる気持ちを冷静に抑えつつ、自分の出場順を待った。
−−すごいな、こんなに沢山の観客がいる中での試合は初めてだ。
観客といっても、ほとんどはメインのセレモニーの為に集まった参加者だが、
この中にユリシアもいるんだろうか?
アクセルはユリシアを見つけ出したいという気持ちに駆られていたが、このドームの中で1人の人間を見つけ出すのは到底不可能だと感じ気持ちを切り替えることにした。
−−今はレースに集中しよう。
「さあ、次は第3レース!この組の出場者は第1レーン、デゴウス王国 ドラゴアナ・D・フォース選手!第2レーン ピノン クゥー・ペッカー選手!第3レーン アーバーン帝国 アクセル・スター選手!第4レーン レーシェ アルゴ・ツィスト選手!第5レーン ガ ジュ・ヴォラ選手です!!」
アナウンスが流れ会場からは歓声が沸いている。
「じゃあな、行ってこいよ、アクセル!」
そう言ってテオはアクセルの背中を叩いた。
「ああ!」
グランレースの試合形式は国や地域によって様々だが、基本的にはグラン(今回用いるのはグランを模したマグナであるが)で空中に設置されたゲートポイントを通過していき、その速さや精確さを競うというものである。今回は時間の都合もありかなりオーソドックスなコース設定だ。
「レディ、ゴー!」
開始のブザーがなった。昨日ユリシアと思い切り遊んで過ごしたことが良い息抜きになったのか、とてもリラックスした、良い走り出しが出来た。
アクセルは深く考えずにただ目の前の空が真っすぐに開かれていくのを感じていた。
−−これは、良い記録が狙えるんじゃないだろうか、、、
他の走者の機体の走行の様子はわからなかったが、別日に予め行われていた予選の記録会の自身の走りと比べても、今日は断然良い飛行をしている。
飛行を終えて地上に戻りコクピットを出ると一気に歓声が聴こえた。
「アクセル選手、自己ベスト記録更新です!2位で決勝進出です!」
「2位か、、、」
結果表示のモニターを見て息を落ち着かせていると向こうからテオが駆け寄ってきた。
「ああ、1位はデゴウスのフォースだ。でもすごいじゃないか!今までで一番良い飛行だった!」
「ありがとう。」
−−悔しいけど、これはまだ1走目だ。決勝がある。気持ちを落ち着けよう。
そう思い会場の端の控え場の方へ辿り着いた時、異変に気づいた。
第4レースのメンバーが揃っているのに一行にレースが始まる気配を見せない。
「どうしたんだろうか」
「次の組の機体トラブルか何かじゃないのか?」
中々レースが始まらないので観客も少しざわつき出した。
なんだ。一般の観客はざわついているだけだが、特に国賓席の付近では各国代表達は動かないがSPや付添人が何人か連絡を取り合い動いているのがわかる。
会場の方を見ていると軍からの通信が来た。
「アクセル。」
「ロードさん!」
ロードはアクセルの属する隊の班長である。
「会場から3㎞ほどの場所から爆発物が発見された。ラナフロートの台座に乗って遠隔操作で来たらしい。爆弾は処理班が処理しているから問題ないが、俺たちは他に障害がないか改めて周囲を見る。会場にはまだ極秘の案件だがメルファン議長だけ対策の為これから本部に向かうところだ。」
爆弾!?そんな。そう思って国賓席を見上げると確かに帝国総統は変わらず着席していたが開発自治区の総取締である議長メルファン・ヤースの姿は見当たらなかった。
「お前もこれから本部に向かってくれ。残念だが試合は中止だ。」
「わかりました。」
テオに事情を話してアクセルは会場から自分のバイクで本部に向かうことにした。
会場から一歩出ると街中のいたるところから狼煙のような煙幕が上がっていた。
「一体どうなっているんだ。」
そう思い横を見ると、会場の方から煙がものすごい勢いで噴き出して来た。
「そんな!?」
あれはもしかすると議長が出てくると言った裏手口の方かもしれない。
「会場も襲撃されているのか!?」
会場内の狭い通路で行き場を失っていた煙幕は外に出たことで勢いを増したのかすぐアクセルのいる方へも広がってきた。
「だめだ。のまれる・・・!」
周りはもう何も見えなくなっていた、混乱の声が遠くで聞こえたが煙が深くて何も確認できない。
口と鼻を腕で覆って煙を吸い込まないようにするだけで必死だったが、そうしていると、何かが近づいてくるのがわかった。
アクセルは咄嗟にバイクを盾に身をかがめた。
近づいてきた何かもこちらの存在に気が付いたのか動きを止めた。
足音で気づいたが恐らく複数人の人間が歩いてきている。
撃たれるかと思ったが、相手も動かない。
何かを判断しようかとしているのだろうか。俺が、何者か・・・
こちらも相手が何者か確認したいことはやまやまだったが相変わらず煙幕が邪魔だし、盾にしたバイクで視界が遮られていることもあって相手が見えない。
このまま戦闘になるかもしれない。覚悟を決め飛び出すために身をかがめようとしたとき、相手が先手をうった
「動くな!」
女性の声だ。
「動けば帝国議長、メルファン・ヤースの命はない!」
なんだって!?
両手を上げて恐る恐る立ち上がると、そこには宇宙開発自治区最高責任者 メルファンが抱えられる形でいた。
議長の顔からは殴られた後が見えた。
議長は低くうめき意識は薄そうだ。抱えている人間とは別にもう一人が議長に銃を突き付けている。
俺を制止したのもそのもう一人だ。
いや、、、俺はこの人物に見覚えがある。
何が起きているのか全く理解できないまま、アクセルは呆然と立ち尽くしていた。
「ユリシア・・・」
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