第2話 出会い⑵

結局アクセルがこの少女を案内することになりテオは残りの仕事をすると言って去っていった。

自分は仕事があるのに街の案内を買って出るなんて、なんて薄情な友人だ。

そんな風に心の中で悪態つきながらもさて、どうしたものかとアクセルは悩んでいた。

自治区の案内をさりげなく格好良くできたら良かったかもしれないが

自分も3週間前にここに赴任してきたばかりで自治区のことはまだ正直そこまでよくわかっていなかった。


ーあんまり黙っていたら不安になるよなー

「君名前は?」

「ユリシア、、、、私の名前は、ユリシア・ミストレイ」

そう言ってユリシアと名乗るその少女はフードを脱いだ。

フードを脱いだことで表情がよく見えるようになっただけでなく、その中に入っていた長いロングヘアーの髪も露わになった。

「ユリシア、俺はアクセル。帝国軍のグラン型部門に所属してるパイロットなんだ。」

「じゃああなたは帝国の兵士なのね」

「そうなるかな。ここには3週間前から赴任してきたんだ。君は?」

「私も自治区の住民というわけじゃなくて、セレモニーだけ参加しに3日前にここに来たところなの。」

「そっか。」

明後日に控えられたセレモニーは宇宙開発自治区の正規運営開始を記念した式典であるため自治区関係者だけでなく世界各地から関係者が集まる。

グランレースはその大会の目玉でもある。


セレモニーに使われるのは普段は自治区防衛の訓練場にもなるセントラル・ドームだ。

およそ8万人を収容できるそのドームに数日後宇宙開発関連機構の関係者、自治区市民、一般枠の観客が一同に会する。

宇宙開発自治区の正式な運営開始の記念式典では前半に帝国総統の開会の挨拶やコンサート、パレードなどが行われ、グランレースは後半のメインの演目に組み込まれていた。

開始前に会場に入れたことから考えてもユリシアは一般の観客ではなく実はそれ相当のVIP関係者なのかもしれない


「ユリシア、、、自分もここに赴任したばかりでこの街のことは正直まだよくわからないんだ。でも、それでもよかったら、これから一緒に大通りの方へ行ってみない?」

「・・ええ!」

それまで緊張した面持ちのユリシアだったが、目を輝かせて微笑んでくれた。


大通りはセレモニーの行われるドームから少し離れた場所に位置していたが

街路樹の作る木漏れ日も海からの港風もとても心地が良かった

街路樹の途中には地球をかたどったモニュメントが置かれている


「ここ宇宙開発自治区は帝国の英雄と呼ばれるライダー・グランフェルトのゆかりの地でもあるんだ」

「10年前の戦いで命を落とした、あの」

「うん。あそこにある像もあの戦いの後、この先の平和な宇宙開発や人類の繁栄を願って建造されたんだ」

―――そう、そして俺はライダーに憧れたからグランパイロットになったんだ―――


大通りに着くとセレモニーを数日後に控えているだけあって、かなり賑わっていた。

木陰の中とはいえ、それなりの距離を歩いてきたので着く頃にはかなり汗をかいていた。

そんな自分たちの状況を知ってか知らずか、ありがたいことに通りに入ってすぐの場所にアイスクリームの出店があった。

「ユリシア、、、」

「ええ、!ここでアイスを食べましょう!私たち干からびちゃうわ」

味が沢山あるので悩んでいると、店の奥でずんぐりと佇んでいた店主が声をかけてくれた。

「おう!2人とも初めて見る顔だね。開発自治区へようこそ!味で悩んでるならこのスペシャルミクッス味がオススメだよ!」

店主の威勢のいい商売文句に2人ともそれだけで暑さも忘れてほころんでしまった

「じゃあそれでお願いします」

「あいよっ」

コーンの上に乗ったアイスの色はスペシャルミックスというだけあって確かに色とりどりだ。

ためしに少し舐めると冷たさと甘さで今までの疲れが嘘のように吹き飛んだ。

暑い中ここまで歩いて来たのはこうしてここでアイスを食べることで全てを完成させる為だったのではないかとさえ思える。

アイスって最高…!

「甘い、でもその中になんだか少し苦い甘さもあって…素晴らしいわ!」

「ありがとうよ、それは抹茶って言って昔友達に教えてもらった味なんだ」

抹茶?と思ったがユリシアはうんうんとわかっている様だった。

なんにせよユリシアが喜んでくれているようでよかった。


アクセルとユリシアはそれから通りをのんびりと歩いて2人で楽しんだ。

開発自治区に出資している国々で共同開発した名物品や宇宙開発の歴史を展示で説明する店など様々で、アクセルも途中から案内のことは忘れて一緒になって楽しんだ。

通りを一通り歩くと昼下がりと夕暮れ時の間のちょうどいいような時間になっていた。


「本当にありがとう。アクセル。こんなに楽しかったのは久しぶりだわ」

ユリシアは穏やかにそう言って微笑んだ

「喜んでもらえたならよかった。もしまだ時間が許すのならあれにのってみない?」

そう言ってアクセルは空を指差した。




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