本編

第1話 出会い(1)

時は帝歴359年


その日、人類の宇宙領域の覇権をかけて二機の戦いが行われていた。

一機は帝国最新鋭の技術を駆使した戦闘機グラン・ノヴァ、もう一機はレーシェ国が秘密裏に開発していた戦闘機エクリプス。


暗い宇宙空間の中、地球だけが青く輝き、火花を散らす二機を照らしていた。

両者の実力は切迫していたが戦闘が進むにつれ、僅かずつではあるが確実に一機の方が優勢に立ち始めた。

しばらくの戦いの後二機は向かい合い、動きを止めた。それはほんの一瞬のことだったが、永遠のような時の流れであった。次の瞬間、一機が動く。

「ライダー・・・!」

その名を呼ぶ声が強く、そして空しく宙にこだました。


------------------------------------------------------------------------------------------------


帝歴369年

行き交う人々の賑わいは、目前に控えた宇宙開発自治区開会式への期待や高揚を表していた。

開発自治区は広大な平野の上に位置しており多様な人種の人々が交易を行っている。

「アクセル、機体チェックはもういいのか?」一人の青年が遠巻きに声をかける。「ああ、もう充分だ。」

アクセルと呼ばれた青年も機体横に取り付けられたゴンドラから降り呼びかけた人物の元へ向かった。

「いいよな。グランパイロット。セレモニーの華だぜ」

「まあグランじゃなくて実際に乗ってるのはそれを真似ただけのマグナだけどね。でもライダーゆかりの地でこうやって同タイプの機体に搭乗出来ると思うとっ・・・!」

「また出たよ。アクセルのライダー自慢。会ったっていってもほんの一瞬なんだろ?」

「ああ、でも俺にとっては、すごく大切な思い出なんだ」


そんな他愛ない話をしながら歩いていると、ふと不思議な感覚に襲われた。

あたりを見渡したが違和感の正体は掴めなかった。


「なんだ・・・?」

「どうしたアクセル?…あの子か?」

「あの子?」


そう言われてテオが示す方を見るとフード付きマントに身を包んだ人物が整備場の隅にいた。


あの様子だと女の子だろうか。

言われるまで気づかなかった自分もそうだが、恰好が地味だったから目につかなかったのだろう。


「珍しいな。こんな整備場に女の子?」

テオは不思議そうに眺めていた。

たしかに、マグナや他の国の機体の搭乗員や整備士といった様子でもないし、フードを被っていて遠めにしか確認できないが、そういった関係者ではないように見える。

「話しかけてみようぜ」

「え!?」

テオの言った言葉の意味を理解する前にすでにテオはフードの人物のいる方へ歩いて行ってしまった。

するとその人物はやっと誰かが近づいてくるのに気づいたのか機体整備のための製材が置いてある方へ隠れて行ってしまった。


「ねえ君、、、あれ?」

テオがさっきまでその人物がいた場所に着く頃には完全に見失ってしまっていた。


―ちがう、多分そっちじゃなくて・・・-

アクセルはテオの向かった先とは違う方向に踏み出してみた。

すると自分の向かった棚の陰から人が出てきたので思わず腕をつかんでしまった。

「待って!」


フードの人物は驚いたようにこちらに目を向ける。

澄んだ二つの青い瞳が、フードの影から真っすぐにこちらを向いたので思わずたじろいでしまった。


「ごめんっ!」

アクセルは握っていた腕を反射的に放した。

「搭乗員には見えなかったから、つい引き留めてしまって」

そう言うと少女は居住まいを直し遠慮がちに答えた。

「セレモニーの、レースに興味があって、、、」


明日の開発自治区正規運営開始を祝うセレモニーは大々的に行われる。レースのファンがレース前に会場に見学に来るということに別段不思議はない。

有名な搭乗員であれば会いたいというファンも多いし、機体に興味がある人もごまんといる。そうでなくても世界で1つになって宇宙開発に取り組もうという大事業だ。レースに興味がなくても会場を見にきたいと思う人は少なからずいるだろう。

それらの人のすべてが入場出来るわけではないが、記憶が正しければ一部の一般人やセレモニーの関係者は試合前の様子を見に来られたはずだ。


「なーんだ、グランレースかよ。アクセル、お前のご指名だぜ」

話しているとテオがつまらなそうな、茶化すような顔で近づいてきた

「俺!?」

「こいつこうみえてセレモニーの出場選手なんだ。グランレースに興味があるならこいつに話を聞くといいよ」

自分の知らない間に話がどんどん進もうとしている。

完全にテオのペースだがまだ遠慮がちに戸惑っている少女に向かって声をかけてみた。

「もし時間があれば、せっかくだし案内するけど、どう?」

「いいの?」

少女が不安げにではあるが、こちらの提案に肯定の意を示してくれとことに安心しアクセルは答えた。

「ああ、勿論」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る