第23話「甘い時間と決断の朝」
23話「甘い時間と決断の朝」
その夜、水音は体の変化を感じていた。
胸元にポカポカとした優しい暖かさを感じたのだ。
その暖かさの原因を水音はわかっていたけれど、それでもそれを確認するのが億劫なぐらいに、体は幸せな疲れを感じていた。
彼の肌と自分の肌が触れ合う感覚も、一緒に伝わってる。
その2つの熱で、また眠気を感じ、水音はそのまま瞳を閉じた。
「水音………。」
やさしく名前を呼ばれたような気がして、夢の中へと行く前に、水音は微笑んだのだった。
「ん………。あれ……。」
辺りを見ると、夜明けの時間なのか、部屋の窓から少しずつ光が入ってきていた。
いつの間につけたのか、ベット近く貴石には火が灯っておりぼんやりと部屋を明るくしていた。
視界がはっきりとしていくと、自分を抱き締める褐色の腕が見えた。
ふと横を見ると、静かに寝息を立てて、幼い寝顔のシュリがいた。
とても安心して眠っているようで、水音が少し動いても起きる様子はなかった。
水音は、彼の顔を見つめながら昨日の事を思い出しても恥ずかしくなり、ひとりで顔を赤らめてしまう。
それでも、彼に求められた事が、そして何度も名前を呼ばれたり愛を囁かれた事がとても嬉しくて、思い出してしまうのだ。
彼の熱はとても熱かった。そして、視線も熱をもって潤んで色っぽかった。体には綺麗な刻印が2つもあり、彼からの熱を体で感じながら、その内の1つが自分にも与えられると思うと、少しだけ嬉しく感じてしまう。
けれど、彼の体には沢山の傷跡もあった。稽古をしたり、殺し屋としての仕事を多くこなしていれば、仕方がないのかもしれない。それでも愛しい人の痛々しい傷は、見ているだけでも辛くなり、体に触れると彼は「もう痛くないから大丈夫だ。」と、微笑んだ。けれども、怪我をした時はいたかったんだからと言うと、「これからおまえをそんな顔にさせないためにも、怪我しないようにするよ。」と、頭を撫でながら優しく笑うシュリを見ていると、水音は少しだけ安心できたのだった。
そんな事を思い出しているうちに、どんどんにシュリが愛しくなっていき、思わず彼の胸に顔を埋めてしまう。目の前には、彼の偽りの黒の刻印。それに頬を当てる。すると、その感触がくすぐったかったのか、「ぅん……。」と、寝ていたシュリがゆっくりと目を覚ました。
「水音……起きてたのか?」
「ごめんなさい……起こしちゃった……。」
「いや、いい。………おまえ、なんで泣いてんの?」
シュリは、心配そうに水音の目を親指で擦って涙を拭き取ってくれる。
自分が泣いていた事に今さら気づいた水音は、少しだけ恥ずかしそうに笑って答えた。
「幸せすぎるからかな。嬉し泣きみたいに。」
「……なんだそれ。」
泣いたのは、きっとそれが全てではないとわかっている。けれども、昨晩は幸せすぎて泣けたのだ。こうやって朝起きて、大好きな人と一緒に寝て、起きてから一番始めにその人を見れるのは、とても幸せだったのだ。
それを思い出しては、水音はまたうるうるとしてしまう。
「シュリ?」
「……おまえの事、好きすぎる。」
「な、なんでそんな事……」
突然すぎる愛の囁きに、水音は言葉を失ってしまう。
そんな水音をシュリはギュッと抱き締めた。照れ顔を見られるのが恥ずかしいのか、シュリはそうなる前に水音を抱き締める事が多いと、気づいていた。
裸のままで寝ていたので、肌と肌とか触れあう。
昨晩は、あんなに裸で抱き合っていたのに、今の方がとても恥ずかしかった。けれども、トクントクンと彼の鼓動が少し早くなっているのがわかると、水音は少し恥ずかしさが落ち着いてきた。
「雪香の娘を守りたいと思ってたし、彼女の娘だってことで運命を感じたのも確かでしたけれど……。湖で見て一目惚れしたし、一緒にいれば好きは増すし、昨日のお前は可愛すぎるし。どれだけ俺にを惚れさせるんだよ。」
「シュリ………それは、恥ずかしすぎるよ。嬉しい、けど……。」
「本当に事だ。」
「もうっ!」
水音は、シュリから離れて布団をかぶって隠れようとするが、シュリはそれを許してくれずに、顔をずらして近距離で水音を見つめた後に、キスを繰り返した。
朝から、シュリは甘い時間を水音にくれる。
今はそれを味わっていたくて、陽が昇るまではシュリを堪能しようと水音は目を閉じた。
水音の刻印は、胸元に出来ていた。
シュリが偽りの黒の刻印を胸に刻んだ場所とほぼ同じところにあった。
夜に感じた、あの優しい暖かさを今は感じることは出来なかったけれど、水音はその刻印がを見るのが好きになっていた。
シュリから与えられた刻印。
それは、シュリのものになったという印でもあるようで、水音は少しだけくすぐったい気持ちになった。
「白蓮の刻印だな。……当たり前なんだけど。」
「うん。とっても綺麗だね。私は肌が白いからあまり目立たないけど。シュリは、とても肌に映えるよね。」
「刻印だけなら、いいけどな。」
そんな事を言いながら、シュリも服を捲って刻印を眺めた。
シュリと水音は、早めの朝食を食べた後だった。
そんな話しをしながら、刻印を見せ合っていた。
久しぶりに元の世界の服に袖をとおした。やはり、しっくりもくるし、安心感を水音は感じていた。
「刻印が現れたから、あとは刻印を交換するだけだけど。その方法はどんなものなの?」
「お互いの刻印があの湖の水に浸けて、願うだけと、昔の記録には書いてあった。」
「………刻印の交換でいいの?」
「それは………まだ、わからないんだ。」
シュリは、はぁーとため息をつきながらそう答えた。
シュリは、水音がいた元の世界に憧れているのを、昨日の話してくれた過去の事で、水音はわかっていた。
みんな平等に働き暮らしていく。困った人がいれば助けて、いざ苦しくなったら助けて貰える。
そんな世界を。
元の世界でも、難しいことだったけれども、助け合いも多いのは事実であったし、ここの生まれたときの刻印で生活がかわるという理不尽さはなかった。
その事を考えていた時に、水音はあることを思い付いたのだ。
「あのね、シュリ。1つ考えていたことがあるの。」
「なんだ?」
水音は、まっすぐにシュリの目を見て、真剣な面持ちのまま彼に考えをつ伝えた。
彼ならきっとわかってくれる、と。
「全ての刻印を青草の刻印にしよう。」
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