第22話「甘えて欲しくて」






   22話「甘えて欲しくて」






 ☆★☆





 「長くなったけど、こんな感じだな。まぁ、昔話だ。」

 「………シュリ、話してくれて、ありがとう。」



 水音は、シュリの話しを相槌をうちながらも、ずっと聞いていた。驚いたり、そして泣いたりしながら。

 自分の母親の過去。そして、シュリやレイトの辛い経験など。母や彼は、この世界で必死に生きていたのだ。自分の運命に戦い、そして、世界に抗おうとしながら。


 それを知ってしまうと、自分はいかに何もしていないと思い知らされてしまう。

 自分も何かしなければ、と話を聞きながら強く思っていた。

 シュリに頼るだけではない。

 自分が思う道を探さなければ、と。



 「それから、ずっとレイトとは別々に生きているの?」

 「いや。時々は会っていたよ。刻印の交換について、本や昔の日記でわかったことを聞いたり、白騎士のについても教えてもらってたしな。」

 「レイト……。白騎士の隊長にもなって、白蓮のみんなにも好かれてるぐらい馴染んでいるなんて。すごくすごく努力したんだろうね。」

 「あぁ。俺もそう思ってんだ。俺が白蓮の領地に行ってたら、誰とも関わらないで、ただ黙々とおまえが来るのを待っているだけだっただろうな。……まぁ、ここにいても、俺は黒の刻印を体に入れただけだったけどな。」



 シュリはそう言い、苦笑しながら自分の胸の刻印を見つめた。

 シュリはここでずっと待ち続けていたのだ。黒のスラムの暗くて寂しい町で。ずっとずっと一人で。



 「そんな事ないよ!この黒の刻印だって、自分が白蓮だってバレないようにって、痛いのにしたんでしょ?それに……私の事を1番始めに見つけてくれたのは、シュリだよ。」

 「………そう、だな。」

 「ありがとう、話してくれて。そして、私を見つけて、助けてくれて。」


 

 我慢していた涙が水音の頬をつたって、テーブルにポタポタと落ちた。

 すると、「おまえ、さっきから泣いてばっかりだな。」と、苦笑しながらシュリはイスから立ち上がって、目の下についた涙をペロリと舐めた。



 「シュ、シュリっ!?」


 

 水音は、驚いて顔を染めながら目の前のシュリを見つめると、シュリは「おまえに泣かれるのは、なんかイヤなんだよ。」と、シュリが泣いているかのような表情を見せた。


 そして、シュリは水音を抱き上げ、ゆっくりと歩き出す。



 「シュリ、どうしたの、急に……もう、歩けるよ?」

 「ずっと話を聞いていたから疲れただろう?少し横になろう。」

 「私、大丈夫だよ。」

 「俺が疲れた。今はおまえとゴロゴロしたいんだ。せっかく、俺のものになったんだし。」

 


 そういうと、シュリはゆっくりと水音を小さなベットにおろして、自分もその横に体を倒した。

 そして、水音の肩を抱き寄せて、水音と離れないように抱き締め始めた。



 「このまま聞いてくれ。」

 「うん………。」

 「俺は一人になってから、いろいろ考えたんだ。刻印の交換をしても、何も変わらないじゃないかって。また、同じ事の繰り返しなんじゃないかって思った。この刻印がある限りは。」



 シュリは、自分の気持ちをゆっくりと丁寧に、だけれど強い口調で話し始めた。

 一人で考えていた事を、他人に話すのは勇気がいる事だと、水音は理解し彼の話しを真剣に聞いた。



 「だから、本当にそんな事をしていいのか、迷うようになったんだ。けど、レイトは白蓮の領地に行ってから、ますます白蓮に興味を持つようになったし、今の白蓮に、そして家族に仕返しをしたい気持ちが強くなっていったみたいなんだ。」

 「………レイトも、華やかな白蓮の家で必死に戦っていたんだよね。」

 「あぁ。でも、俺はやっぱり白蓮の助けを受けるのがイヤだった。レイトは俺に食料や着る物とか沢山の物をくれたよ。自分だけ裕福なのはイヤだって。けど、俺はそれが嫌で……。だかは、レイトに会わなくなった……。そして、生きていくために、殺し屋をし始めた。」

 「………シュリ。」

 「そして、あいつを裏切って、勝手に無色を手に入れた後に隠れた。そして、人を殺す仕事をしてる。……そして、あいつにも相談せずに刻印の交換を止めようとしてる。レイト、怒ってるだろうな。」



 抱き締められてるので、シュリの表情はわからない。けれど、彼の声で、そして息づかいで彼が辛そうなのはわかった。


 「そんなに昔からの仲間なら、話せばわかってくれるんじゃないかな。」

 「あいつ、俺に剣を向けていただろ?あんな事をするやつじゃなかった。それに、あの短剣を……俺は、あいつに投げたんだ。」 

 「…………もしかして。」

 「あぁ、あいつ。雪香さんを殺した白騎士を、俺が殺した時の短剣なんだ。初めて人を殺した思いとか、それに雪香さんを忘れないために、ずっと持っていた。それなのに。あんなに大切にしていたのに投げつけたんだ。レイトに……。」

 「シュリ………。」

 「俺はまだ、迷ってるんだ。レイトを裏切ってまで、刻印の交換をやめていいのか。そんな風に。俺じゃなくても、いつか誰かがこの世界を変えてくれるんじゃないかって。俺が黒の刻印になって我慢すれば………。」


 シュリは、迷い苦しんでいる。それが水音に伝わってきた。

 彼を助けてあげたい。彼の力になってあげたい。


 



 「シュリ。かっこよくないっ!」

 「えっ………。」

 


 水音の言葉を聞いて、シュリは思わず顔を上げて水音を見つめた。驚きのあまり、黒の目は大きく開いている。



 「そんなクヨクヨしているシュリは、私の好きなシュリじゃないわ。」

 「………。」

 「私が手伝う。私も、この刻印の交換は意味がないって思ってた。苦しむ人が変わるだけで、憎しみは増えていくだけだよ。」

 「………殺し屋の俺でもいいのか。俺は、沢山の血を浴びてきた。おまえに触れる資格なんかないかもしれないんだ。」

 「この世界を変えていく事で、お詫びをしよう。死んでしまった人は、もう助けられないから。甦った時に、幸せな世界になっているように。」

 「あぁ……。そうだな。そうだよな。」



 少しずつ表情にいつもの明るさが戻ってきてシュリをみて、水音は安心して微笑む。



 「それに………。私は、シュリに触れてほしいよ。温かくて優しい、シュリに。」

 「………水音。」



 優しく名前を呼ばれ、水音は幸せを感じてしまい、目を細めると何故か涙がこぼれた。

 嬉し泣きとか、幸せすぎて泣けるというのは、本当なんだな、と感じてしまい更に気持ちが高まった。


 「本当にこんな俺を受け入れてくれるんだな。」

 「今日のシュリは、シュリらしくないね。」

 「……なんでだ?」

 「そこは、「俺を受け入れろ。」って、普段だったら言いそうだわ。」

 「確かに、そうだな。でも………。」



 水音の隣で横になっていたシュリは、大切な物を触るように優しく髪や輪郭を指でなぞった。

 そのくすぐったいような、痺れるような感覚に水音は身をよじると、シュリは愛しそうに水音を見つめながら微笑んだ。



 「今日は、お前を甘やかしたいんだ。」

 「シュリ……。」

 「水音、俺に甘えろよ。」



 そう言って水音の唇に落としたキスは、今までのどのキスよりも甘くて、深いものだった。

 味わったことのない感覚に、水音はまた涙を溢す。すると、シュリは「泣くな。その顔に弱いって言ってるだろ。」と言いながらも、キスを止めてくれない。



 「水音……。」

 「シュリ、もう聞かないで。」



 シュリが言いたい事は、水音はわかっていた。

 これ以上、深い関わりも持てば、水音は無色ではなくなり、白蓮になってしまうのだ。

 けれど、水音はそんな事はもう気にしてはいなかった。

 刻印で、生き方を変える必要はないのだ。シュリのように、自由に生きていけるとわかったのだから。



 「水音、愛してる。離したくない。」

 「離さないで。傍にいてね……。」



 水音の言葉に、シュリはキュッと1度目を閉じた。すると、次の瞬間には、激しくキスを繰り返し、水音の服の中に手を入れて、水音を求めた。

 あっという間に着ていた物を彼に脱がされると、そのまま身体中に口づけが落とされ、シュリのモノという証の赤い印がついた。

 その行為が、嬉しくも恥ずかしくもあり、水音はギュっと目を閉じてしまう。


 すると、耳元でシュリが「水音?しっかり俺を見てて。」と、色気を含んだ声でそう呟いた。

 ゆっくりと目を開けると、鍛えられた体と綺麗な褐色のは肌が目に入った。

 恥ずかしくなり、目を逸らそうとすると、シュリは水音の顔を両手で掴んだ。



 「ダメだ。俺も脱いだんだから、恥ずかしくないだろ?」

 「ますます、恥ずかしいよ。」

 「大丈夫。そんな事、考えられなくしてやるから。」

 「甘やかすんじゃなかったの?」

 「………なんか、我慢出来ないかも。」



 そういうと、シュリは激しく水音を求めて、抱き締めながらキスを身体中に落とした。

 食べるように、溶けるように、ふたりはお互いに求めあい、名前を呼びあった。




 幸せな感覚を感じながら、水音はシュリしか考えられなくなり、シュリを強く抱き締めた。


 


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