第13話「刻印の熱」
13話「刻印の熱」
「驚かせてしまったかな。」
綺麗な顔で微笑むレイト。
それは、とても儚くてそして、憂いを帯びており、更に彼に神秘的な美しさを際立させていた。
「刻印の条件については、何となく恋人になるとか、キスをするとかそんな事かなっておもっていたので……まさか、婚姻と、その……体の関係とは思っていなかったので、少し驚いてますけど。」
シュリから、「無色と恋愛関係になる方法も考えた。」と聞いてから、何となく予想はしていた。
それに女しか無色として異世界へ飛ばされないというのも聞いていたし、白騎士やシュリは皆が男性だったのも水音が気になっていた事だった。
だが、それよりも驚くことを彼は水音に話していた。それが、今の水音には大きな衝撃だった。
「あの刻印の交換って、白蓮と黒の交換ですよね?」
「あぁ……そうだよ。不思議かな?」
「だって!レイトさんは白蓮なんですから、交換をしたら黒になってしまうんですよ?!それでもいいんですか?」
レイトの願いはシュリと同じだった。
白蓮の刻印と、黒の刻印の交換。そうなれば、白蓮であるレイトは、黒の刻印になってしまう。そうなれば、このお屋敷にいることも、白騎士でいることも出来ない。全く真逆の苦しい生活をすることになるのだ。
「あぁ。その願いでいいんだよ。」
レイトはそれをあっさりと認めた。
水音は驚き、問い詰めるように質問をぶつけ続けてしまう。
「どうしてですか?!」
「それは、言えないかな。でも、必ず水音には話すよ。僕にとって君は待ちに待った特別な存在なんだ。」
彼にも事情があるのだろうか。
殺し屋をしているシュリと同じように。
それでも、レイトが交換を望む理由がわからなかった。
それに、彼が言う水音が「特別な存在」と呼ばれる理由が。
「………それは、無色だからですか?」
水音は当然の事を彼に聞いてしまう。
彼が自分を物としてしか見ていないというのが、悲しかったからなのか、自分が怖くなったのか、わからない。けれども、どうしても聞きたかった。
「それだけじゃないよ。」
それは、嘘かもしれない。
けれども、彼のにこやかで尊い物を見るような優しい表情を見ると、水音は安心したのだった。
その日から、レイトの家でお姫様のような暮らしが始まった。
仕事はもちもんないし、着せ替え人形のように毎日違うドレスを身に付け、宝石がついたアクセサリーをもらったり。食事も豪華だったし、好きなものを問われて答えれば、すぐにそれがプレゼントされた。
「レイトさん、あのー、私もお料理とか、庭のお手入れとかしたいんだけど……。」
「水音は、何もしなくていいんだよ?白蓮のよさを知ってほしいし。」
レイトはいつもこう言って仕事の手伝いをさせてくれないのだ。
一緒に本を読んだり、白蓮内にあるお店に行ったり、一緒に楽しんでくれる。
けれども、水音の本当の願いを叶えてはくれないのだ。
「水音の髪は綺麗だね。真っ黒で艶があって……それに肌もすごく触り心地がいいよね。」
「あの……レイトさん。ここ外なんだけど………みんな見ていますよ?」
「気にしないといい。ふたりの時間を楽しむべきだ。」
そう言って、またレイトは水音の髪や頬に優しく触れる。
レイトは甘やかすのと同時に、水音に積極的にアピールし、触れてくるようになっていた。
一緒にお風呂に入ろうかと、冗談で言われたときは、驚いてしまったが、今の彼ならば言いそうなので、冗談に気がつかなかったぐらいだった。
今日は天気がよく冬だと言うのに過ごしよかったので、上着を着こんで外で、マナにつくって作ってもらったパンと飲み物を持って、大きな広場まで来ていた。
元の世界の公園や遊園地にあるような遊具やアトラクションがたくさんあり、子どもたちや、若い大人まで楽しんでいた。
水音は元の世界でもほとんど遊んだことがなかったので、少し羨ましそうに見つめていると、レイトは「一緒にいこうか?」と誘ってくれたのだった。
「ブランコみたいなのがある……。」
「じゃあ、あれにしてみようか。」
「はい!」
水音が選んだのは、2人乗りのブランコのような物だった。ぐるぐると円上に回っていた。高さはあるものの、ブランコは好きだったし、子どもでも乗っている。それに、隣にはレイトが居てくれる。だから、大丈夫だろう。
そう思っていたのだけれど………。
「キャ、キャーー!何これこわい………落ちるーーっ!」
「大丈夫だよ。水音、落ちないから。」
「いや、降りたいー!」
遠心力でかなりのスピードになり、座っているイスから飛び出てしまうのではないかと、ドキドキしてしまう。
予想以上の怖さに、水音は悲鳴を上げてしまった。初めてのアトラクションにしては、難易度が高めのものを選んでしまったようだと、今さら後悔してしまう。
「今は降りられないよ……じゃあ、僕に掴まって。」
「うん……ありがとう……こ、こわすぎる……。」
「大丈夫、大丈夫だよ。」
水音は遠慮なく、レイトに抱きついた。
すると、レイトはゆっくり呪文をかけるように、そう言いながら頭を撫でてくれた。
彼の手はいつでも日だまりのようにポカポカしている。手を繋いだり、こうやって頭を撫でられたりすると、いつもそう感じていた。
そして、彼に初めて抱き締めてもらっている。前は甲冑を着ているときだったのでわからなかった。
彼のお腹からは熱を感じるのだ。
何故だろう……そんな事を感じながらも、このアトラクションが終わるまで、その熱を感じながら過ごしていた。
「水音、大丈夫?」
「はい。レイトさん、ありがとうございます。こんなに怖いブランコは初めてでした。」
「いつでも抱きついていいからね!」
そうやって、手を広げるレイトさんを水音は見つめた。
「じゃあ、もう一回抱きついてもいいですか?」
「……え?」
いつも拒否する水音の返事を期待して、冗談で言ったのだろう。しかし、水音の答えは違っておりレイトは驚いた顔を見せていた。
「あの?レイトさん?」
「あぁ……。」
水音が、レイトにピッタリとくっつくと、レイトは少しおどおどとした様子で手をまわして、抱き締めてくれた。
慣れていない様子に、水音はマナが言っていた「レイト様は女の人を連れてきたり、お付き合いしていると聞いたことがない」という言葉を思い出した。あれは、本当なのかもしれないと、水音は思った。
優しくて、かっこよくて、そして白蓮の刻印持ちで、白騎士。モテない理由はないし、こうやっ2人で歩いていると、女の人の視線が集まる。それぐらい人気があるのに何故特定の恋人を作らないのか。
水音は、それが不思議で仕方がなかった。
そして、抱き締められながら気づいたことをレイトに伝える。
「レイトさんの刻印は、ここにあるのですか?」
「…………あぁ、そうだよ。何故わかったのかな?」
水音は、左の脇をゆっくりと指で触れると、レイトはビクッと体を震わせた。
「なぜか、ここがとても温かいのです。だから、そう思いました。」
「………それは、君だから刻印に反応しているのかもしれませんね。」
「そうかもしれません。そういえば、私、白蓮の刻印を見たことがありませんでした。きっと、綺麗なんでしょうね。」
水音は、白蓮の花を思い出しながら、そう言う。きっと、綺麗な花が白い刻印で描かれているのだろうと。
「えぇ……とても綺麗だと思いますよ。」
そう呟くように言ったレイトの顔は、何故か泣きそうで、どうして白蓮の刻印が悲しむのか、その時の水音にはまだわからなかった。
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