第12話「白騎士の願い」
12話「白騎士の願い」
お風呂から上がると、マナがおり、エニシがしたことを謝罪した。
けれど、マナが悪い事をしたわけではないので、気にしていない伝えると、驚きながら、「すみませんでした。」と、何度も何度も繰り返し謝っていた。
青草の刻印の者が、白蓮の人には逆らえないのはわかっていたけれど、きっと逆らってしまったり間違った事をすると、酷い目にあったのだろう。
その青くなったマナの顔を見て、水音はそう思った。
マナは買ってきた服を準備して水音に着せてくれた。
「ねぇ、マナ。こんな服、私が着ていいの?」
「白蓮の女性は、このような服を着る人が多いですよ。わぁ、とてもお似合いですね。水音様は、色が白いので、濃いお色でも淡いお色でも着こなせますよね。羨ましいです。」
「ありがとう。でも、なんか、少し恥ずかしいわ。」
水音が着たのは、結婚式で帰そうなドレスだった。さすがに、裾が長いものではなかったけれど、華やかで、女の子が憧れるものばかりだった。
ただ、これを普段から着ているのは大変だけれども、仕事をしないで暮らしているのであれば、好きな服が着れるのかなと、思ってしまう。
「レイト様がお待ちですので、どうぞ。」
そういうと、食事をする部屋へと案内された。そこには大きなテーブルが用意されていたけれど、座っているのは、レイトだけだったので、部屋が大きく、そして寂しく感じてしまった。
「水音!とっても綺麗だね。濃い紺のドレスは君の肌が映える。」
「レイトさん、素敵なお洋服ありがとうございます。」
「いや、いいんだよ。無色の君になら、なんでもプレゼントしたいと思うんだ。」
「………これだけで十分です。私は、青草の方のような簡単な服の方がいいと思うのです。」
水音は、紺の光沢のある綺麗な生地に、色とりどりの宝石のような石が散りばめられた美しいドレスを着ていた。確かに、白蓮の人を数人見たときも、綺麗な洋服を着ていた。
けれど、青草の人々は元の世界の服装と似ていたのだ。水音は、そちらの方が動きやいし、馴染みもあるので好きだった。
そんな事を伝えると、レイトとマナは驚いた顔をしていた。
マナは少しだけ嬉しそうにしていたけれど、レイトは焦った表情をしていた。
「そんな事は言わないで、水音。白蓮の素晴らしさを知ればきっと、水音も好きになってくれるよ。」
「そう、でしょうか?」
「あぁ。」
そう言って、レイトは頷いいた。そして、昼食の準備をマナに命ずると、次々に豪華な食事が運ばれてきた。昨日の夜から何も食べていない私のために、多めに準備をしてくれているそうだった。
マナたちが作った料理はとてもおいしくて、元の国と似ている物が多かったので、水音は安心した。
心の中で、シュリの料理を思い出しては、「彼だけがあんな料理をしていたのね。」と思い、笑ってしまった。
「先程のエニシの件は、本当にすまなかった。悪い奴ではないんだけれど、突拍子もない事をやってしまったり、ヒトとは違う考えを持っていてね。許してほしい。」
「………無色が狙われてしまうのは、わかっています。」
「そうか。やはり、銀髪の黒の男から、いろいろ聞いているのかな?」
「……っ!?」
レイトの言葉を聞いて水音は思わず手を止めてしまった。
どうしてレイトが彼の事を知っているのか。それはわからない。けれど、白騎士が彼を追っていたのは確かだ。
何か彼が白騎士と対立するような事があるのだろうか。
水音が黙っていると、レイトは少し困った顔で微笑んだ。
「そんなに警戒しないでくれ。でも、水音が湖に現れた時に、彼がいたことは知っているんだ。そして、女性を連れて逃走したことも。」
「………彼をどうして追うのですか?」
「それは、無色の刻印をさらったからだよ。それに、白蓮の言いつけを守っていない。…彼は前から少し問題があってね。ずっと、探しているんだ。」
「問題、ですか?」
水音は、レイトの言葉を固唾を飲んで待った。
彼はどうして、白蓮に追われていたのか。
そして、彼からいつも血の臭いがしていたのは何故なのか。それの答えを彼は知っているようだった。
「彼は、雇われの殺し屋なんだ。」
水音は、頭の中で「あぁ、やっぱりそうなのか。」と思ってしまっていた。けれども、ずっと違うと思い込もうとしていた真実に、動揺し、悲しくなってしまった。
彼にも理由がある。それはわかっているけれど、殺しを仕事にしているというのは、水音の元の世界の常識とも、水音自身の考え方にも全くなかったものだった。
それ故に、彼の仕事が理解出来なかった。
「お金や食料などを貰えば、誰からの依頼を受けるらしくてね。白蓮や、青草、黒からの依頼でも引き受けると聞いているんだ。まぁ、みんな誰も依頼したとは教えてはくれないんだけどね。」
「あの、この国での殺人は、もちろんダメなのですよね?」
「……良くないと思っているけど、白蓮は罪には問われないよ。というか、白蓮の考えが常に正しいと言われているからね。白蓮の刻印の持ち主には、殺し等の酷いことはしないようにど、皆で決めてはいるけれど、裏では何をやっているのかわからないのが現状なんだ。」
「そんな………。」
水音はその真実を知って愕然としてしまった。
白蓮がしている事は、予想以上に残酷なのだと知ると、それもまた水音の心を痛めた。ただ生まれ持った刻印のせいで、豪華な暮らしが出来たり、酷い扱いをうけて殺されてしまう。差別というのは、まさにこの事なのだと、現状を目の当たりにしてしまうと、水音は言葉が出なかった。
そして、シュリの事もそうだ。
生きるために殺しを仕事にしている。そういう人もいるとわかっている。けれども、彼がそんな事をしていると知るのは、とても辛かった。
そして、水音は彼に止めてほしいと強く思った。けれども、今まで彼はどうやって生きてきたのだろうか。彼が受けてきた辛い扱いを知らずに、突然きた異世界人に何を言われても、きっと意味がないような気がした。
でも、彼は「好きだ。」と、言ってくれた。一緒にいたいと願ってくれたのだ。
きっと、今の暮らしが寂しくて辛いからなのではないか。そんな風に水音は思っていた。
もしかしたら、彼は殺しの仕事を止めさせて欲しいのかもしれない。
何はともあれ彼に会って話がしたい、水音はそう強く思っていた。
「話がずれてしまったね。銀髪の男はとても危険だ。だから、君にも気を付けてもらいたい。」
「………わかりました。」
水音は、ここを抜け出してシュリの元へと戻るつもりだった。しかし、今、それを彼に伝えてしまえば、止められるのは必至だ。
水音は黙っていることに決めた。
水音が頷くと、レイトは優しく微笑んでくれた。そして、後ろに控えていたマナたちを退出させた。ここからは、水音以外に聞かせたくない事のようだった。
「無色の刻印が、刻印を変えられるというのは知ってかい?」
「……はい。」
シュリから聞いていた事を今さら隠すことではないので、水音は素直に頷く。
「では、その方法は?」
「知りません。」
「………これは、あまり知られていない方法でね。白蓮の人々が隠していた事でもあるんだ。他の刻印にバレないようにね。だから、歴代の無色と結ばれた者しか知らない事になっているんだ。」
「結ばれた?」
水音がそういうと、レイトは真剣な顔で水音の顔を見つめる。少し言いにくそうに、答えを話すのを渋っていたけれど、彼はゆっくりと口を開けた。
「刻印の交換をする場合、交換を望む者と結ばれる事が条件となる。心も体も。」
「え…………。」
「そして、僕の希望は、白蓮と黒の刻印の交換なんだ。」
水音は、刻印の交換の条件。そして、レイトの予想外の願いに言葉を失った。
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