第10話「孤独の主人」






   10話「孤独の主人」




 レイトに助けてもらった水音は、更にレイトの白馬に同乗していた。

 レイトには、「白蓮が無色の君を歓迎する。」と言ってくれた。断りたい気持ちがあったが、今は彼について行った方がいいと思ったのだ。


 無色である水音を見つけたことで、探していた銀髪の男のシュリに目がいかなくなっているようだったからだ。

 今、水音がシュリの元に戻ってしまったら、きっと白騎士がすぐに彼を見つけてしまうと思ったのだ。

 先ほど会った、派手な男、エニシに頼んではいたので、今は彼を信じるしかなかった。



 今でも思い出すのは、血を流して苦しむシュリの顔だった。彼は無事なのだろうか?

 彼の事だから、きっと大丈夫だろう。

 そう、信じなければ、水音は今すぐにこの場から逃げ出したくて、仕方がなった。





 「君の名前を聞いていなかった。教えてくれないか?」

 


 白馬の上では、水音が前に乗り、後ろから抱き締められるようにレイトに支えてもらいながら、乗馬していた。馬に乗るのは初めてだったけれど、怖がらずに乗れたのは、彼がいたからだろう。


 背中と腕に彼の甲冑が当たる。それは、とても冷たかった。



 「鳳水音です。」

 「……鳳……。」

 「レイトさん、どうかしましたか?鳳という名字に何かありましたか?」

 


 後ろを振り向きながら話をしていると、水音が名乗った後に、レイトは驚いた表情を見せていたのだ。

 以前、シュリに名前を言ったとき同じような反応をされていたので、水音はとても気になってしまった。



 「いや……何かひっかかった気がしたんだけど。何も思い出せないんだ。すまないね。」

 「いえ。」



 レイトは申し訳なさそうにそう言うと、すぐにまっすぐに前を向いて、縄を引いた。


 先ほどから歩いているのは、青草の人たちが住む場所だった。先ほど水音が行こうとしてエニシに止められた場所だった。

 家は木造や石造で、表通りには様々な店が並んでいた。水音がいた国よりも少し発展が遅いようで、電気などはなかった。光りは全て貴石が使われているようだった。

 人々の服は元の世界と同じようなものであったが、どことなく違う。RPGゲームの異国のような雰囲気だった。


 煉瓦出てきた綺麗な道を、白騎士達はゆっくりと進んでいた。

 もちろん、青草の人々は慌てて道を開けていた。青草よりも上の立場である白蓮の使いの者達なのだ。邪魔をすることはなかった。

 青草の人々は、憧れの目で見ている人もいた。けれども、ほとんどか恐怖心からか見な目線を下にして、避けているように水音には見えた。



 「レイトさん、ひとつお聞きしてもいいですか?」

 「はい。何でも聞いてください。」

 「白騎士は青草の人々が行ってると聞きました。ですが、レイトさんは白蓮の方なんですよね?どうして、白騎士になったのですか?」

 「よくご存知ですね。この世界に来て間もないと言うのに。」

 「………街の人たちが話しているのを聞いたもので。」



 水音は思わずドキッとしてしまったが、何とか焦らずに誤魔化すことが出来た。レイトも、何も感じていないのか、水音がこちらについて多少の知識があるのに驚いただけのようだった。



 「一人がまとめ役をした方が統率が取れるだろう、というのが1番の理由ですが……。僕は何もしないで暮らすというのが苦手みたいなんです。からだを動かしていた方が、好きみたいですね。」

 「そうなんですね。なんか、わかるような気がします。」

 「……ありがとうございます。さて、おしゃべりはここまでです。白蓮の集落が見えてきましたよ。」

 


 レイトの前を見るようにと促す言葉を聞いて、水音は正面を向いた。



 そこには、高い壁がずらりと並んで見渡す限り続いていた。その壁に守られるように建っているものをみて、水音は驚いてしまった。



 「わぁー綺麗ー!」


 水音は、思わず声を上げてしまった。

 そこには、色とりどりの宮殿のような建物が並んでいた。赤や青、白や緑など、様々なお城が建っていたのだ。遠くからみると、それは何かのお菓子のように可愛く見えた。



 「派手でしょう?みんな、好きな色で作っていくから、統一性がなくなってしまってね。」

 「これはこれで、素敵です!私は可愛くて好きです。」

 「君にそう言われると嬉しいよ。」



 後ろから、レイトの喜んでいる声が聞こえた。

 レイトは、壁の入り口にやってくると、入り口には数人の男がいた。短剣を腰に掛けており、水音はすぐに検問だとわかった。


 壁の中に入る人々は、門番に白蓮の刻印があるかをチェックされているようだった。だが、顔を見ただけで入れる場合も多く、白騎士達は全員が顔パスだった。




 その後は、レイトの家にお邪魔することになった。いや、家ではなく豪邸と呼んだ方がいいのかもしれない。けれども、他の白蓮達の家はお城のようなものだったので、レイトの家はそれに比べれば質素なものと言えた。

 白を貴重とした作りで、少し古いところもあるが、それがアンティークのようでとても綺麗だった。



 「僕はあまり家に興味がなくて、使わなくなった家を貰ったんだ。まだ十分住めるからね。……では、どうぞ。」



 レイトは白蓮の刻印を持つ者達に慕われているのがよくわかった。

 高い壁の中に入ると、人は少なかったけれど、レイトを見つけるとすぐに皆が集まって「レイト様おかえりなさい。」「今日も怪我などはしていませんか?、レイリ様。」と、声を掛けてくるのだ。

 特に女性は目をキラキラとさせて、恋する乙女の瞳で彼を見ていた。

 白蓮の中でも、白騎士隊長ということもあり、皆に慕われているのかもしれない。



 そんなレイトは、自分の玄関のドアを開けて家に招いてくれた。


 エントランスはとても広く、洋画の映画に出てくるお城のようなだった。絵画や綺麗な壺、お花も綺麗に飾られており、美術館のようだった。


 

 「おかえりなさいませ、レイト様。」

 「あぁ、マナ。今日から客人が来てくれたから、お部屋を準備してくれないか?」

 

 そう言ったのは、黒のロングスカートに、白のYシャツ、首には可愛いレースのリボンをつけている、水音より年上の女性だった。その女性は、黒い髪をバッサリ切っており、首には青草と思われる緑の刻印が見えた。

 緑の刻印は、様々の草が描かれており、太陽な形になっていた。


 

 「………レイト様が女性を連れてきた!!え、どうしたのですか?婚約者ですか?恋人候補ですか?それとも、遊びの女の人ですか?」



 マナも呼ばれた女性は、水音の事を見て、ワタワタと焦り始める。大きな声だったためか、他の使用人らしき人がエントランスに集まってきてしまった。


 それを見ていたレイトは、苦笑しながら「マナは、おっちょこちょいなところがあるんだよ。」と、水音に耳打ちしてくれた。



 「マナ!」

 「っっ、はい!」

 「少し落ち着いてくれ。この方は、そのような方ではないよ。まだ……ね?」

 「え………?!」

 


 レイトの言葉を聞いて、水音は顔を赤らめてしまう。まだ、というのは、自分はどうなる予定なのだろうか……。

 


 「マナはこの家のメイド長をやってもらっているから、いろいろ聞いてくれ。マナと同じ服を着ている女性は皆、使用人だよ。この家には10人ぐらいしか、使用人はいないんだ。申し訳ないね。」

 「いえ、そんな!ありがとうございます。」



 おうちにメイドさんが10人もいれば十分のような気もするが、この豪邸だと足りないのだろう。そして、他の白蓮の家の者は、もっとたくさんの使用人がいるに違いなかった。



 「マナ。この方は、無色の刻印だ。丁重に扱いなさい。もちろん、手を出したり、何かをしたらどうなるかわかるね。もちろん、他のみんなもだ。」

 「「かしこまりました。」」



 無色と聞いて、ざわめいたメイド達だったが、レイトの話の後は、しっかりと挨拶をした。



 そして、レイトは白騎士の仕事があると屋敷を出ていってしまった。




 「それでは………無色の君。」

 「鳳水音です。マナさん。」

 「水音様、どうぞこちらへ、お部屋へご案内します。」



 水音は、マナの後に着いて屋敷の中を歩いた。途中、食事をするところやお風呂場などを教えてもらったけれども、大きな家にはメイド以外に全く人気はなかった。



 「あの……このおうちには誰もいないのですか?」

 「はい。こちらはレイト様だけのお屋敷になります。レイト様のご家族は、皆白蓮の刻印ではなかったようで、別々に暮らしております。」

 「そうなんですね。」



 この大きな屋敷に独りで暮らすのはどんなに寂しい事なのだろうか。

 元の家の水音の部屋はとても狭かったけれど、それでも独りになるのが寂しい事が多かった。

 レイトは、どんな気持ちでここで過ごしているのか。

 レイトが白騎士を自らやっている理由が、少しだけわかった気がした。



 「それで、水音様はレイト様、どう思いますか?」

 「……どう思うとは?」

 「恋人にいかがですか?とてもいい方ですよ!!」

 「あの………どうして自分の主人をすすめるのですか?それに、レイト様はきっと他の女性が放っておかないと思いますけど………。」



 レイト様が町や白蓮の領地を歩いている時の、女性達は、憧れの王子様を見ているようだった。

 きっと、白蓮のお嬢様達にも人気があるのだろう。



 「実は、今までレイト様は女性をお屋敷に連れてきた事もありませんでしたし、それに恋人がいるとも聞いたことがないのです。」

 「えっ………そうなのですか。」

 「そうなのです。水音様は、無色の君なので、特別な方です。こちらに連れてきたのも事情があってなのでしょうが。レイト様と仲良くしてあげてください。」



 マナは、母親のようにレイトを心配しているようだった。年はそんなに離れていないけれど、きっとずっとここでレイトを見てきたのだろう。


 水音は、マナに「わかりました。」と微笑み掛けて返事をすると、彼女は嬉しそうに笑ってくれたのだった。




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