第9話「白の騎士」






   9話「白の騎士」




 水音の声を聞いた白騎士達は、こちらを振り返った。

 顔はほとんどが兜を着けていたが、顔はしっかりと見える。睨み付けるような目線が一瞬でこちらに集まり、水音はどきりとした。



 「そこの女。今、なんと言った?」

 「……無色は私だから、その子達に何もしないで、と言ったわ。」

 「なるほど、おまえが無色ね。」



 この集団のリーダーだろうか。

 中心になっている一人の男が、ゆっくりと歩いてこちらに近づいた。先ほど、子どもたちに危害を加えようとしていた男で、手にはそのまま剣を持っていた。その剣が白騎士が持っていたら灯りの光を受けて、何故か血がついているように見えた。


 以前、シュリが持っていたナイフのように。



 「………っ。」

 


 水音は、体がまた震え出すのがわかる。

 もしかしらもう殺されてしまうかもしれない。



 ……そしたら、シュリはどうなるの?



 そう思った瞬間。水音の体に力が入るのがわかった。ギュッと手を握りしめ、足に力を入れてた。

 大丈夫、無色は無駄に殺されたりしない、そう自分に言い聞かせた。



 「おまえみたいな薄汚い女が、ねー……。」



 物色するように水音をジロジロと見る。

 その顔には、男が下心のあるいやらしい目で、その口はニヤリとしており、全く隠そうともしていなかった。

 それをみて、水音は不快感を感じる。



 「なに?信じられないの?」

 「あぁ、信じられないね。だからここで、服を脱いで見せてくれないか。全身に刻印がない事をな。」



 リーダーの男がそう言うと、周りの白騎士たちにドッと笑いが起こった。

 この男達は水音が無色だという事を全く信じていないのだ。そして、バカな黒で遊んでやろうという気持ちなのだろう。


 しかし、無色だと証明するには、確かに脱いで体に刻印がない事を確かめなければならない。無色がいつもより早く現れたとあっては、白騎士達も水音が無色だとは思わないのも当たり前なのかもしれない。


 そう思うってしまうと、やることは1つだ。

 彼らの前で服を脱いで証明するしかない。

 方法はこれしかないのだ。



 「わかったわ。」

 

 

 水音が小さな声で返事をすると、白騎士達は更に盛り上がった。「早くしろ!」と大声で怒鳴るものをいた。


 肌寒かったはずなのに、今は羞恥からか全身が暑かった。人前で肌をさらす事になるとは、元の国では考えても見ない事だった。


 水音は、シュリの血がついた上着を掴む。まだ、血は完全には乾いていなく、少しだけ水音の手に付いた。

 これは目の前の子どもを助けるため、シュリを助けるため。そう決心をして、水音は一気にシャツを脱いだ。

 水音は恥ずかしさから、下を向きそうになったが、それでは彼らに信用してもらえないような気がして、強気を演じるべく、まっすぐと前を向いた。

 それでも、心の中では誰に助けてほしい、逃げたいと思ってしまい、泣きそうな気持ちになってしまっていた。


 

 「………なんだ、その胸についている、変なものは。それも脱げ。」


 

 おお!という声が上がったが、水音が着ていた元の世界の下着を見て、ざわつきが起こった。この世界にはないものなのだろう。

 これだけでも、肌が赤らみ、目には涙がたまっている。下着だけは脱げないと思い、ズボンも脱いでしまう。



 「これでわかったでしょ?」



 震える声で、そう言うが。

 周りからは「まだ全部脱いでないぞ!」と声があがった。水音は、恥ずかしさと怒りで、さらに顔が真っ赤になった。


 もう自分には何も出来ないのか。

 辱しめをこれ以上受けなければいけないのか。

 諦めから、下着に手を掛けようとした瞬間だった。



 「お前達、何をしているっ!」



 その場に、凛とした声が響き渡った。

 その声を聞いて、その場の白騎士たちは焦りどよめいた。



 「隊長だ……!」

 「ヤバイぞっっ!」



 そう言って、白騎士達は急に姿勢を正して立ち始めた。水音は、その様子をただ呆然と見つめていた。


 すると、カツカツと優雅に歩く一人の男が、こちらにやってきた。


 金髪の髪に真っ白な肌、整った優しげのある顔に、細身だけれども筋肉がついているのか、がっしりとしている体、背もシュリよりも多少高いように見えた。

 元の世界では王子様と呼ばれるぐらいの完璧な容姿の男を見て、水音は言葉を無くしてしまった。

 他の白騎士と同じ甲冑を身に付けているけれど、肩からはマントのような赤い布のようなものがついており、歩く度になびいていた。



 「君、大丈夫か?うちの者達が、無礼な事をしてしまってすまなかった。今は他に着るものがない。脱いだ服を着てくれるか?」

 


 青く光る瞳でこちらをじっと見つめながら、微笑むようにその金髪の男は言った。

 他の白騎士たちに隊長と呼ばれていたので、この男が白騎士隊の隊長なのだろう。

 金髪の男に言われたとおりに、水音はシュリの部屋着を急いで身につけた。

 それを見終えると、男は安心して微笑んだ。



 「おまえたち、無色の君には丁重に扱えと言ってあっただろう!」

 「はっ!すみませんでした!ですが、見た目からら無色だとわからなかったもので……。」

 「言い訳にはいい。これ以上、俺を怒らせないでくれ。」

 「…申し訳ございません!」



 先ほどまで偉そうにしていたリーダー格の男は、すっかり縮こまってしまい、隊長の言葉にただ従っているだけになっていた。



 「無色の君。失礼するよ。」

 「え……?キャッっ!」



 金髪の男は、優しく水音の膝の裏に腕を通して、腰を支えて抱き上げた。

 王子様がお姫様にする、元の世界では「お姫様だっこ」といわれるものだった。

 ゴツゴツした甲冑の感触だったが、何故か彼に抱かれていると安心してしまっていた。



 「あの、私、歩けます。それに、せっかくの綺麗な白の甲冑が血で汚れてしまいます……。」

 「………この甲冑はもうたくさんの血を浴びているよ。もちろん、僕もね。」



 隊長の男は、先ほどの凛々しさからは一転して、少しだけ寂しそうな顔をしていた。

 水音は、その表情を見て「この人は信じてもいいかもしれない。」と、そんな事を思ってしまった。




 「僕は白騎士隊長で白蓮の風早レイト(かぜはや玲人)だ。」



 そう言って、にこやかに微笑む彼の顔には、先ほどの泣きそうな表情はどこにもなかった。




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