第6話「真っ赤な肌と告白」
6話「真っ赤な肌と告白」
その日の朝。
シュリはだいぶ疲れていたのか、昼近くまで寝ていた。
水音は、夜に帰ってきたシュリが肉の他にも、大量の調味料を買ってきてくれていた。塩に砂糖、胡椒などがあり、辛そうな唐辛子や乾燥した魚もあった。
「おまえが欲しいって言ったんだろ。」
と、恥ずかしそうに言いながら、袋に入った調味料を水音に押し付けたのだ。
キッチンの使い方も教えてくれた。元の世界で言うコンロのようなところにはぽっかりと穴が空いていた。そこに、部屋を暖めている火の石が置いてあった。「火を出せ。」というと、石が火を出してくれるらしい。
赤い石は火、青は水、黄色は光、など、様々あるそうだ。青い石は、キッチンにも置いてあり、桶に水が溜まっていた。そこの水がなくなると、青い石が水を出してくれる仕組みになっているようだった。この不思議な石を、マラカイト国では「貴石(きせき)」と呼ばれているそうだ。貴い存在という意味で名付けられ、そして貴石はかなり高価なものだそうだ。
「火を出してくれる?」
貴石を使うのが初めてだった水音は、おそるおそる火の石にお願いをしてみる。
そうすると、ボッと火が出てきた。でも、弱い火なので、これでは料理など出来ない。
「もう少し火を強くして。」
そういうと、やっと弱火ぐらいになった。まだまだの火力だ。
「もっと、もっとよ!」
すると、一気にボッと強火になった。思わず「キャッ!!」と声が出てしまう。古びたベッドで寝ているシュリは、その声を聞いても全く起きる気配はなかった。
ちなみに、水音が床で寝ているのはシュリが「このベットは使わせない!」と貸してくれなかった。元から、居候の身でベットを使おうとは思ってもいなかったが、シュリがそこまでベットにこだわっているのは意外だった。
火の貴石が頑張っているうちに、フライパンのような平らな鍋に、油をひいて温まってきたら切った肉を乗せて、じっくりと焼いた。大きい肉なので、時間がかかる。その間に、底が深い鍋に水を入れて野菜を切ってスープを作ることにした。
出汁の魚を入れて、野菜を切ったり、お肉をひっくり返して味をつけたり忙しく動き回ってきた。
料理をしていると集中力が高まるというが、水音はその通りだと思っていた。料理をしている時は、余計なことも忘れられる。
この異世界の事も、そして、無色という役割の事も。
「おまえ、何やってんだ………この匂いはっ!」
目を覚ましたシュリが、いつの間にかキッチンにいた。水音の、背中からひょいと顔を出して、焼いている肉の匂いを嗅いでいた。
キラキラのした目で、おもちゃのショーケース前にいる子どものようだった。
「せっかくのお肉だから、おいしいうちに食べたいかなって思って。作ってたんだけど……。」
「肉だな!しかも、店みたいなうまそうや匂いがする。」
「そうかな?もう少しで焼けるから、待っててね。」
スキップでも、しそうなぐらいの上機嫌でシュリは今まで見たことがなかった。
シュリはお肉が好きなのかなーと思って、水音も嬉しくなってしまった。
お腹を空かせているシュリのために、料理をする手に力が入った。
「うまい!!おまえ、料理できんだな!店と同じ味がする。」
「お口に合ったようで、よかった。」
「おまえがいてくれたら、ずっと美味しい飯が食えるな。」
ガツガツと食べながら、そういうシュリの言葉に水音はドキリとしてしまった。
それは、どういう意味で言っているのだろうか…………?シュリの事だからおいしい食事を作ってくれる居候がいてくれてよかった、という意味だとおもうが……….。
でも、もしかしたら恋人同士になる前の「一緒にいたい」アピールなのだろうか?と、深読みをしまう。
恋愛経験がほとんどない、水音にとって男の人の気持ちは、まだ理解出来ないものだった。
「居候だし、料理とかお掃除ぐらいはやらせてください。」
「………おまえ、鈍いって言われたことないか?」
「え、ないけど………….。」
何故そんな事を言うのだろうの、シュリを見つめる。すると、シュリは顔だけではなく、首や耳までどんどん肌が赤くなっていった。
褐色の肌が赤くなると綺麗だな、と水音は冷静に見てしまっていた。
「俺と付き合わないかって意味だよ。バカだろ、おまえ。」
「え………えっ………付き合うって、恋人同士ってこと!?」
「そうに決まってるだろ。」
真っ赤な顔のシュリに睨まれてしまうが、全く怖くなくむしろ、可愛いと思ってしまうぐらいだった。
けれど、何故シュリがそんな事を思ったのかわからない。
水音はシュリにとって、願いを叶えるための手段として、必要な存在だったのではないか。彼の願いのために、ここに連れてこられ、そして閉じ込められているはずだった。
それなのに、どうしてそんな事を言うのか。
恋人同士になれば、逃げないと考えているのかもしれない。そんな事を水音は一瞬だけ思ってしまった。けれども、彼の表情をみると、どうしてもそんな風には見えないのだ。
どうしたらいいのか、わからない。
けれども、謎が多い彼をもっと知りたいと思っている自分の気持ちに、水音は気づいていた。
まだ約1日しか関わっていないのに。水音は、不思議だった。
「まぁ、戸惑うのもわかる。俺だって同じだからな。」
「そう、なの?」
「これを言ったら怒るか、怖がられるかもしれないけど。もし、無色が俺の前に表れたら、どんな事をしても手に入れて捕まえて、逃げるようなら縛ったり死なない程度に痛めつけて言うことを聞かせる。そして、用事がすんだら殺せばいいと思ってた。けど、おまえが湖に倒れてる時に見たら、そんな事出来なかったんだ。………まぁ、お信じられないと思うけど。」
自分で話しておきながら、フッと怒ったように言葉を続けてくれる。照れているのか耳は赤い。
自分は、目の前の人に殺されていたかもしれない。
それを思うと、身震いがしてシュリの真っ黒な瞳で見つめられるだけで、怖くなってしまう。
けれども、それはその時だけで。
今は、こうして生きているし、シュリに悪いようにされていなかった。
「俺の事、好きにさせて逃げないようにするって手も考えてた。でも、それは俺には自信なかったし。好きでもないやつに、優しくする性格じゃないんでな。」
「……じゃあ、優しくするのは、私が好きってことなの?」
「…………そうだろ。」
シュリは「何度も言わせんな。」と言い、スープを一気に飲み干した。
俺様で強気で、謎が多いシュリだけれど、たった1日一緒にいただけでもわかる。
彼は、純粋でそして素直な男の人なんだ、と。
「………とりあえず。」
「え………。」
シュリはガタリと椅子から立ち上がり、水音の方に身を乗り出してきた。
あっという間に、シュリの顔が目の前にきており、水音は胸が大きくドキッと鳴った。
「俺の女になってみないか?」
中性的で綺麗な顔立ちのシュリの顔。
先程は恥ずかしそうにしていたのに、今は真剣で鋭い目、その黒に瞳に吸い込まれそうなぐらいに、まっすぐこちらを見ていた。
そして、水音の返事を待たずに、シュリは水音の唇に微かに触れるだけの口づけを落とした。
彼は出会ったときもそうだった。
突然唇を奪っていく。
水音が真っ赤になったのを、シュリは見てニヤリと笑ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます