逃避


私は女だ。

そして私は同情されるのが好きだ。

ということはやはり

女は皆同情されるのが好きなのだ。


だってそうじゃない?

みんな、悲劇のヒロインになりたいでしょう?

誰かの関心が自分だけに向けばいいって思うじゃない。

別に可笑しいだなんて思わないわ。

だって私がそうなんだもの。


ただもっと複雑なのは、

私の心は私の欲を受け止められるほど強くないってことよね。


今日は親友ちゃんとケーキを食べに行ったの。

彼女は私が弱くなってしまったことなんてこれっぽちも知らないから

私はただ今までのように感じの良い笑顔を振りまいてた。


でも彼女は私のことを親友と呼ぶだけあって

流石に鋭かったな。

残暑の中一度も捲られなかった私の袖を

なぜか左腕だけ的確にでもさり気なく触れてきた。

純白のブラウスが罪悪感に染まった瞬間だった。


彼女は何も言わなかったし

私も何も言わなかった。

何も言って欲しくなかった。


ただ最後、なんか、なんか言っていた。

それはそれは優しくて身に余るほどの温かな言葉だった気もするし

私が本当は欲しかった言葉だったのかも知れなかったけれど

私の心ははじき返してしまった。


自分が人に無理やり絞り出させた優しさに

向き合うのが怖かった。


彼女の中の自分が

変わっていくのが怖かった。


それからあとは何も覚えていない。

どうやって、なんて言って別れて帰ってきたか。

気付いたらベッドで寝ていた。


最近気付いたことがある。

人間は、肉体への疲労に比べ精神への疲労への対処が下手くそだ。

私はただただ、心の綻びが見えなくなるまで

眠ることしかできない。


このまま目覚めなければいいのにと思いながら

瞼に透ける黎光に

中指を立てた。













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