遺書



今日は何をして生きようかな。


悩むフリをしながら

私の手はいつもの様に卯の花色の手帳をめくっていた。


最近の趣味。日課。

この手帳に私の言葉を予め用意しておくの。

誰かとの会話に使う言葉は全部

この匣の中から取り出す。


みんなだって人前で何かを発表したりする時には原稿を用意するでしょう?

正しく、間違えないように、って。

それと同じことよ。


誰かと交わす言葉は全て前以て用意されてる中から選んでるだけ。

そうすれば、その一時の為だけに精神を揺さぶる必要がなくなるでしょう。

外から見てわかる感情なんて後から付いてくるんだから。

自分の心を守れればそれでいいの。


最近はどんどん心が萎んでいく。

弱くなってしまったのかな。


人と向き合ってる時

そこに私はいない。


私の言葉で喜んだり笑ったり、怒ったりする相手は

本当は空白を見ていることを知らない。


オリジナルなんてものもない。

全部が誰かの何かしらの謄本でしかない。



さて。


今日は私が最期に残す言葉を考えようと思う。


陳腐な言葉じゃ味気ないので

とびきり変梃なものにしよう。


この世界からの解放を喜ぶ言葉。


悲しむ人間へのトドメの言葉。




きっとペンを置く頃には


天天と紅涙を絞っているのだろう。

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