第2話
夜も更けた繁華街。
古い、誰にも見向きもされないようなビルで、俺は働いてる。
そのビルのエレベーターはB1までしか表示されていない。けど本当はB2がある。
そこにはBIGな好きモノばかりが通う秘密のお店がひっそりと営業中なの。
「さぁさぁお客さん、お待たせ。待ちわびたよねぇ?」
「あ、あぁ、ぁ・・・」
ここが好き。このどうしようもなく狂いたいと懇願する物欲しそうな表情も、欲求に従順な行動も、快楽のために全てをさらけ出す場所。
たまらなく好きなの。
「いい?ちゃぁんと、用意してきたよ」
あぁ、そんな目で見られると、ゾクゾクしちゃうよ。
止まらなくなってしまう。興奮して、溢れちゃう。
「・・・・・・–––––––––––––––さぁ、快楽へ・・・いってらっしゃい」
あの瞬間の、「壊れる音」は、「流れる赤」は、なんであんなにも美しいのだろう。
––––––––––––動かなくなったお客さん。
「あぁ、本当に、美しい」
裸体にゆっくりと伝う澄んだ綺麗な赤。どうしてこんなにも興奮するのだろう。
「あぁ、あぁ、っ、もう、たまんないよぉ!」
自慰行為が止まらない。見る度に勃起しちゃう。
今まで体の中でしか生きられなかった赤は、俺の『行為』のおかげでようやく顔を出すことができる。自由になれる。
舌を這わせると、俺の中に広がり、一部となって、俺はようやく生きられる。
それだけで欲が、興奮が止まらない。
十分に楽しんだあと、お客さんを見ると眼孔が開いていた。
息もしていない。
あーぁ、またやっちゃったよ。
「ごめんお客さぁん〜!!!!俺、また我慢できなかったよぉぉぉ」
死んだってことは、赤いのが固まっちゃうんだよね。
あぁ、嫌だな嫌だな。流れるからこそ美しいのに。
「いつだって、美しいものは儚く短い命なんだ」
お客さんの後始末をどうしようかと考えていた時、ちょうど、玄関のインターホンが鳴った。
今日の予定のお客さん、まだいたっけ?
まさか警察?
とりつけてある監視カメラから覗くと、いたのは一人。
フードを深くかぶって、顔は見えない。
「ん〜?」
警戒しなきゃいけないんだろうなぁ〜。でもなぁ、気になるなぁ。
自分でもちゃんとしっかりしないといけないって分かってるんだけど、
「んふふ〜。やっぱり、自分にだけは素直でなきゃねん〜」
ドアをゆっくりと開けた。
もしかしたら、『あの子』かも!
「・・・あの」
声は、男だった。
「あ〜ぁ、残念。俺の期待を返せよおぉ」
男は無言のままだった。なんともひ弱そうな、幸薄そうな、可哀想な顔してんだろ。もっと人生楽しめばいいのに。
ん、でも、ひどく怯えてるようにも見えるけど、どこか意志をはっきり持ってる。そんなイメージもあるなぁ。よくわかんないなぁ。
なんならもう一人くらい遊んでもいいかなぁ。
「人を、探してるんです」
男から出たのは、聞き覚えのある名前だった。
そう、あの天使のような美しく興奮する笑顔を持った女の子。
「あぁ、聞いたら会いたくなってきた。どこにいるの?ねぇ、お兄さん〜。ちょっと入っていきなよ」
男は俺より力が弱かった。だから結構簡単にお店に入れることができたんだけど、勢い余って倒しちゃった。
「あーごめんごめん。大丈夫?なんか飲む?水とモンスターどっちがいい?」
「・・・・・・ボクは、彼女に会いにきたんだ」
男は倒れた体をヨレヨレと起こし、俺を見た。
・・・なぁんだ、残念。
「なんで彼女を探してるの?俺の愛しい愛しいマイエンジェル。いつだって、儚く美しく、興奮したああぁ」
あぁ、もう一度、あの子の白くて柔らかい肌にナイフを・・・。
そうしたら、またあの笑みを見せてくれるのかなぁ。
「知り合いだったんですよね」
しゃがみこんだままの男。だから、俺もしゃがんで話すの。
そういえば彼女もしゃがむのが好きだったなぁ。あの上目遣いがたまんなく興奮しちゃって・・・。
「あの・・・」
「あぁ〜、ごめんごめん。俺もね、いなくなって寂しいの。でもねぇ、あの子のこと、探さない方がいいと思うなぁ」
見つけちゃいけない宝物もあるんだよ、ボク。
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