カノジョは、ボクの天使
@sue_mm
第1話 雨が降る夜
何もない夜だった。
内定取り消しのメールを片手に、なかなか寝付けないでぼんやりと窓に当たる雨を見てた。
3階の窓からは何も見えない。
黒い空と白い雨。
それだけだった。
だから、もういいかと思ったんだ。
ここに色はない。音もない。何もない。だから、ボクもいない。
それだけ。
何も考えなかった。
体を起こし、窓を開けて、ベランダへと出る。
雨はパラパラと容赦なく当たったけど、寒さも何も感じなかった。
目の前に広がる「無」は、ボクを招いてるように、だんだんとボクに近づいてるように感じた。それか、ボクの方から「無」に近づいていってるのか。
・・・いや、別にどっちだって結果は一緒だ。考える必要なんてない。
どうせ考えても意味はない。これから何も無くなるのだから。
体を持ち上げ、右足、左足と順番に外に出す。
少し、解放された気がした。
自然とベランダの格子に腰掛けるような形になり、あとはこのまま、
流れに身をまかせるだけ・・・・・・。
「––––––––––––・・・・・・ねぇ、何してるの?」
突然、どこからか声が聞こえた。
びっくりして体をビクつかせると、体を崩し、このままお尻を滑らせてしまった。
「うわぁっ!!!」
必死にベランダの格子にしがみつき、なんとか落下を免れる。
「クス・・・クスクス」
どこからかコロコロした笑い声が聞こえる。
変なの。音なんかなかったはずなのに。
ぎこちなくもベランダを必死によじ登り、ゼェゼェ息を吐きながら、下を見る。
「クスクスクス」
どこから音が聞こえてくるのか、一瞬で分かった。
ボクの真下。天使のように、美しく、妖しく、光り輝く彼女の姿。
ボクは、あの天使の笑みを一生忘れることはないだろう。
「ねぇ、入れてよ」
彼女に会いにアパートから出た時、天使は、裸足で、Tシャツ姿で、白くて柔らかそうな太ももが露わになってた。
ボクより小さくて、とても可愛い。
彼女がにこりと笑えば、それだけで天国にだって行けそうだった。
ボクはすぐに彼女をボクの部屋へ入れた。
何もなかった家には、彼女がいる。それだけで十分だと思った。
濡れた彼女はどこか儚げで艶やかで、美しいと思ったけど風邪を引いてしまうと可哀想だとも思ったからタオルを渡した。彼女にあげるとき、彼女の白い指先に触れてボクの体温は一気に上がった。
「なんであそこにいたの?」
とボクが彼女に聞くと、今度は「雨が遊びたがってたの」と可憐に笑って見せた。
「なんであそこに座っていたの?」
今度はボクの番。
「何もないからだよ」
ボクは彼女の前だと嘘がつけないようだ。
「じゃあ、私と同じだね」
ボクの言葉を聞いて笑みを浮かべた彼女は、やっぱり美しかった。
それ以来、彼女はボクの一番の理解者になった。
何もないボクの世界が、一瞬で、色がついた。音が聞こえた。モノも、人も、動物も、緑も、何もかも、彼女が持ってきてくれた。
彼女の言葉は、ボクを救う力があった。
彼女の笑顔は、ボクを癒す力があった。
彼女の知識は、ボクを助ける力があった。
「愛してるよ」
あぁ、なんて勿体無い言葉。
ボクはますます、彼女に夢中になった。
出会ってから1ヶ月。
彼女はどこからともなく会いにきて、ボクを満たして、いつの間にかいなくなっていた。
会いにきてくれるだけで嬉しかった。なんでもできる気がした。
だから、いなくなるなんて、思わなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます