第90話 早すぎる別離 2/4

「納得できない 私はここに残る」


剣士であるアオイがワタルの言葉を拒絶する


自分の『核』を自ら引き抜くとき


どれほど後悔した事か


自分の思いを伝えることが出来ないまま


彼女は死んだ


2度もだ


元の世界に戻れば、再び会える保証はない


同意できる訳がない




「アオイ だめだ」


「何故だ!?」


「はっきり言わないとだめか?」


「当たり前だ!」


「じゃあ言わせてもらう」


「足手まといだからだ」


アオイの心に衝撃が走る


ワタルの言動には


いつも仲間への思いやりが感じられた


そんな彼から絶対に発せられるはずのない


一切の容赦のない言葉だったからだ




「復活した時に、お前の身体から『核』は無くなった」


「お前は、これ以上強くなれない」


「魔王と対峙すれば必ず死ぬ」


ワタルからの戦力外通告


それは否定しようのない事実だった


残酷な程に


だが、まだだ


これで引き下がることは出来ない




「ワタル 私と勝負しろ!」


彼と共に自分が戦えることを証明しなければならない


その気持ちが言葉となって発せられる


「いいだろう お前がそれで納得出来るなら」


剣を構えるアオイ


そんな彼女の前で


ワタルは装備をすべて外した


愛剣である『オークスレイヤー』すら持たない


完全な無手だった




「私を馬鹿にしているのか!?」


「いいから打ち込んで来いよ」


まるで映画のワンシーンに出てきそうな挑発


アオイに向かって指で手招きをする


「私をなめるなっ!」


アオイの胸の内


全てがその一言と共に爆発する


思いを打ち上げるどころか


共に戦うことも出来ない


許容できない


(腕の一本切り落としてでも納得させる!)




会心の打ち込みだった


(ワタルすまない でもこうするしかっ?)


だが渾身の一撃は


受け止められていた


ワタルの人差し指一本で


(信じられない・・・)


以前のワタルならば


躱すことさえ出来なかったはず


アオイは悟った


自分たちが復活するまでの間に


これ程までに力の差が出来てしまった事を


それでも受け入れられなかった




「まだだ! まだだ!」


諦め切れない思いが


何度も打ち込ませる


ありとあらゆる角度で


渾身の力をもって


しかし、ワタルはそれをすべて指一本で捌きつづけた




撃ち込むたびに視界がゆがんでいく


無駄だと知りつつも剣を振り続ける


彼女は泣いていた


やがて


ふっと糸が切れた様に


その場にしゃがみ込んでしまった


「気が済んだか?」


ワタルへと顔を上げられぬまま


コクリとアオイは力なく頷いた




踵を返して


ワタルが歩み去って行く


世界樹の力を借りて


異世界への扉を開けるために



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