第91話 早すぎる別離 3/4
がっくりとうな垂れるアオイの肩に優しく手が載せられる
それが誰であるかアオイには分かった
「惨めにやられた私を慰めに来たのか? アトラス」
「いいえ 違います」
「あなたはこのままでいいのですか?」
「じゃあどうしろって言うんだ!?」
「お前は良いよな」
「生まれ変わって凄い力を手に入れて」
「ワタルとこれからもワタルと一緒に戦えるんだから」
アオイはアトラスが羨ましかった
もし立場を変えてもらえるとしたらどんなことでもしたに違いない
だがそれは無理と言うもの
「アオイ あなたは強い」
「短い間でしたが私は人を見る目はあると自負しています」
もう一度繰り返す
「アオイ あなたは強い」
「剣士としてではなく人として」
「そしてこれからもあなたは強くなる」
「私は元の世界に戻るんだ」
「そこには魔物も居ない」
「どうやって強くなれと?」
「元の世界では鍛錬が出来ないのですか?」
「魔物を倒さないとあなたは強くなれない?」
「あなたはワタルの事を諦めるのですね?」
その時アオイの心の中で、消えかけた炎が再び燃焼する
「諦めてたまるか!」
「世界の違い? そんなもの関係ない」
「魔物など倒さなくても強くなる方法はある」
「必ず探し出して強くなり」
「私は帰ってくる」
「アトラス 後悔することになるぞ?」
「望むところですアオイ」
「そうでないと張り合いがありません」
アトラスを一瞥するとアオイは背を向けて去って行った
「あなたってそんなにおせっかいだったのね」
ドライアドのミツミがアトラスに声をかける
「私は、不死鳥の盾 不滅の存在」
「ですが、いつまでもワタルと一緒に居られる保証はありません」
別次元に飛ばされ未来永劫さまよい続ける事になる可能性もないとは言えない
「もし私が居なくなっても」
「ワタルを支えられる者が一人でも多くいてくれれば私も安心です」
「だからと言って誰でもいいと言う訳ではありません」
「出来る事なら自分が認めた相手が相応しい」
「それ以外は認められません!」
「二人ともワタルに関する話を私抜きでするのはずるいわよ?」
「「エヴァ!?」」
二人は驚いた、いつもの念話ではない肉声である
声がした方向には一人の女性が立っていた
ウェーブのかかった金髪にサファイアの様な青い瞳
スレンダーな長身の美女だった
「フフフ 驚いた?」
「仲間を復活する際に、私の器を作ってくれたの」
「移魂の儀はどうやったんですか?」
「あれは世界樹の力が必要なはずでは?」
「ワタル自身がやったのよ」
「世界樹の加護を受けて彼は進化したのよ」
「『ユグドラシル・ゴブリン』にね」
『ユグドラシル・ゴブリン』(新種)
神樹たるユグドラシルの加護を受けたゴブリン
その加護によりユグドラシルの力を使うことが出来る
新たな力を手に入れたワタル
彼の元にアオイがやって来て宣言する
「ワタル 今の私はお前より弱い」
「だから今は大人しく お前の言うとおりに元の世界に帰る」
「だが 私は必ずこの世界に戻ってくる!」
「私を足手まとい呼ばわりした事を後悔させてやる!」
「それでこそアオイだ」
「楽しみに待っている」
ワタルはアオイが元気になったことに一安心した
「ワタル目を閉じろ!」
「いいよ ほら」
アオイがワタルを強く抱きしめ唇を奪った
しばらくしてようやく解放されたワタルに
「私がお前に勝ったら これくらいでは済まんぞ!」
アオイは足早に去って行った
その顔は真っ赤だった
(あそこまでやるつもりはなかったのに)
(つい勢いでやってしまったぁ)
遠くからアオイの羞恥心に耐え兼ね吐き出された
叫び声が木霊した
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