第83話 エルフの森の危機 3/4

邪炎よって燃え尽きアトラスは消滅した


はずだった


だが何故か意識がある


気が付けば見覚えのない場所にいた


そこは何もない、淡く光を放つ空間だった


「アトラス ここに来たという事は」


「何らかの理由で器を失ったという事じゃな」


「創造主?」


古の錬金術師の姿だけがそこにあった




「創造主よ ここは何処ですか?」


「『賢者の石』が作り出した仮想の空間と言ったところじゃ」


「私は邪炎に焼き尽くされ消滅したはず」


「どうしてここに?」


魔導兵とは魂を持たぬ存在


破壊されれば消滅するだけのはず




「アトラスよ お前が消滅などするはずがない」


「お前は魔導兵ではない」


「あれは単なる器にすぎん」


「確かに魔導兵は強力じゃ」


「じゃが更に強力な力には、為す術はない」


現に邪精霊化したイーフリートに歯が立たなかった


「神が魔導兵を恐れるならば破壊すればよい」


「だが神はお前を破壊せず封印した」


「何故だと思う?」


「それは神ですらお前を破壊出来ないからじゃ」


神ですら破壊できない存在


「では私は何なのですか?」




「お前は『神威兵装』」


「身に着けた者に神にさえ対抗できる力を与える武具の1つ」


「何度破壊されようとも何度でも蘇る」


「更なる力をもって」


「お前は不滅の存在『不死鳥の盾』じゃ」




「では私は戻れるのですか?」


「その為にわしはここで待っておったのじゃ」


「お前の真の力を目覚めさせるか見極める為にな」


「覚醒にはその絶大なる力を持つ武具を身に着けるに値する資格を持つ者」


「主の存在が必要じゃ」


「アトラスよ汝に問う」


「お前には主たる資格を持つ者が居るか?」


「はい 居ります」


「その者は、神に等しい力を得るに相応しい者か?」


短い間ではあるが見守ってきた


いつも彼は自分の為ではなく誰かの為に行動していた


彼ならば力に溺れず正しきことに使ってくれる


「はい 確信しています」


「ならば唱えよ!」


創造主は『覚醒の鍵』をアトラスに与えた


真の力を開放する為の


彼の元へ戻るための呪文を


アトラスは唱えた


「我、不死鳥の力を宿す盾なるアトラスは」


「我が主たるワタルの為」


「この身が砕かれようと」


「焼き尽くされ灰になろうとも」


「何度でも蘇り」


「主を守る事をここに誓う」


再誕リ・バース




アトラスは自身がまばゆい光を放ちだし


ようやく気付く


「この姿は?」


「その姿こそ、お前のもう一つの真の姿」


「不滅の騎士 『フェニックス・ナイト』」


「さぁ行け お前が認めた主の元へ!」


創造主は笑顔で手を振っている


「創造主よ ありがとうございます!」


彼女は創造主に感謝を述べ


まばゆい『再誕の炎』に包まれた




ワタルは灰を持つ手を握りしめた


絶望の淵から救ってくれた


頼りになる仲間だった


そしてかけがえのない存在だった


また失ってしまった


以前ならば立ち上がれなかっただろう


でもその者であればこう言っただろう


守るべき者が居る


なのに何時まで蹲っているのかと


「アトラス お前の死を無駄にはしない!」


彼は再び立ちあがるために力を込めた




その時だった手のひらから光が漏れ始め


やがて激しく輝き始めた


大きな炎と共に


「ワタル 守るべき者が居る」


「なのに何時まで蹲っているのですか?」


炎が消え、見覚えのない人物が姿を現し


ワタルに問いかけてくる


だがそのセリフは間違いない


「アトラス!?」


「そうです」


「ワタル あなたが心配であの世から戻ってきました」


「でも その姿って?」


「話は後です 先ずは邪精霊を倒しますよ」


「だが俺達にはあの邪炎を防ぐ術がない」


一矢報いようと


考えに考えた


だが、いくら考えても答えは出なかった


魔導兵すら焼き尽くす炎に抗う術が思い浮かばなかった




アトラスはワタルの手を取る


「今は私が居ます」


「ワタル 私はあなたの為ならば」


「この身が砕かれようと」


「炎に焼き尽くされようとも」


「何度でも蘇りあなたを守ります」


『神威兵装』


『不死鳥の盾』


アトラスの体が光始める


まばゆい炎と共に


強力な炎だった


だが、その炎はワタルを傷つける事は無い


それどころか、彼に力を与えた


邪炎すら凌ぐ力を




アトラスは姿を変えた


神々しい光を放ち


その力はトライアドにも届いた


燃え尽きかけた彼女の防壁は蘇り


邪炎ですら弾き返す


『ワタル これが私の真の姿です』


ワタルの手に力の根源が握られていた


『不死鳥の盾』が




「ワタル イーフリートは自分の状態に気付いていない」


イーフリートと同じく上位精霊であるトライアドは気づいていた


「今のイーフリートは限界に近い魔力を自身にため込んでしまっているの」


例え、上位精霊であっても無限に魔力を蓄えることは出来ない


しかし、邪悪な力に溺れ冷静な判断が出来なくなっているイーフリートは


自分の限界に気づいてさえいない


飽和状態を超えて魔力を蓄えようとすれば


器が壊れ崩壊してしまう


「だったら魔力をたっぷり食らわせてやれば言い訳だな?」


魔力を送り込むにはイーフリートに接触しなければならない


そうなればイーフリートを倒す前に邪炎に焼き尽くされてしまうだろう


だがもはや、その心配はいらない


彼の手には邪悪な炎さえ防ぐ最強の盾があるのだから


竜戦士化ドラゴニック・ウォーリア




竜戦士と化したワタルは、ドライアドの防壁を飛び越え


イーフリートに向かって歩き始めた


「のこのこ出て来たか 燃え尽きて俺の糧となれ!」


邪炎がワタルに向けて放たれる


全てを焼き尽くす呪いの炎が彼を覆い尽くす


だが、その歩みは止まらない


『私は邪炎によって燃え尽き そして蘇りました』


『もう私にとって邪炎は脅威ではありません』


アトラスの言葉は現実となる


「何故だ? 何故燃えない!?」




「それはなぁ 俺の相棒が最強の盾だからだ!」


後ずさるイーフリートをがっちりと掴み


右こぶしをその醜く巨大化した口に突き入れる


「うがぁ?」


「それほど魔力が欲しいなら好きなだけくれてやる」


直接体内に魔力を注ぎ込んでいく


美しかったであろうエルフの森を


そこに住む者たちを


そして大切な仲間を


燃やし尽くされた


「身に余る力を良く味わえ」


「そして消し飛べ!」




一気に魔力を注ぎ込もうとしたその時


トライアドが叫び声が聞こえてくる


「ワタル お願い!」


「イーフリートはまだ完全に邪気に飲み込まれていないの」


「どうか助けてあげて!」


邪炎で防壁を焼かれながらもドライアドには伝わってきた


イーフリートの叫びが


沢山の命を奪っていく罪悪の念が


それを止めることが出来ない無力さを嘆く声が


以前なら感じられなかった


(何時からだろう?)


と自問する


(多分あの時からだわ)


「無茶言うなぁ やれるだけやってみる」


自分にこの能力を与えた者は


願いを受け入れてくれた




ワタルはイーフリートを『走査』して


邪気に飲み込まれていない部分を特定


防御結界をその周囲に展開して


膨大な一気に魔力を注ぎ込んだ




飽和状態を遥かに超えた魔力を得た邪精霊の器は


限界を超えて消滅した



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