第82話 エルフの森の危機 2/4

エルフの森に近づくにしたがってドライアドの様子がおかしくなっていく


呼吸がどんどん荒くなり


唸り声を上げ始め


とうとう泣き出してしまった


ただ事ではない




「どうしたんだ!? しっかりしろ」


「あああああ! 死んでいく!」


「森の木々たちが、動物たちがああああああああああ!」


そこからのワタルの奥道は早かった


ドライアドを背負い全力で走る


エルフの森まで




ワタルたちは呆然とした


世界でも有数の美しさを誇る


そう言われたエルフ森は見る影もなかった


燃え上がる炎


黒く焼け焦げた動物たち


その中には力尽きたエルフらしき姿も少なくなかった




「おい! 一体何が起きているんだ!?」


ワタルの声に応える者は居ない


警戒心の強いエルフ族がワタルたちに気づきもしない


いやその余裕すらないのだろう


『ワタル南東の方角にとてつもなく大きな魔力を感知したわ』


どうやらエヴァが事の元凶を捉えたようだ


ワタルたちはその場へと急行する




それは咀嚼していた


腕を


引き千切られた腕の持ち主は地面で息絶え


もう一体は燃やし尽くされ炭化していた


「邪精霊になってしまったのね イーフリート」


ドライアドは息を吐き出すように


ようやく声に出した


屍の傍で蚊の鳴くような鳴き声が聞こえる


子供だった


両親を殺され


恐怖で身動きも出来ないのだろう


その場から逃げですことも




邪悪な存在になり果てた精霊


今度は、子供に手を伸ばそうとしている


気が付けばアトラスが飛び出していた


力の限り殴り飛ばした


不意を突かれた邪精霊は勢い良く吹き飛んだ


アトラスは子供を抱えて戻ってきたが様子がおかしい


殴った拳が燃えていた


「おいその拳」


「ワタル! 触れてはいけません!」


火を消そうと駆け寄ったワタル


吹き飛ばされそうな勢いで制された


「この火は恐らく邪炎 相手が燃え尽きるまで消えない呪いの炎」




そう言ってアトラスは踵を返す


イビル・イーフリートに畳みかける


防御結界も張っていたが


一瞬で燃え尽きた


刃で斬り裂いても炎の精霊には効かない


その存在が消え去るまで粉砕する


だがアトラスの目論見は燃やし尽くされた


その身と共に


全身から炎を噴き上げて動けなくなった魔導兵


「アトラス!」




アトラスとイビル・イーフリート


ドライアドが両者の間に壁を作る


『木霊の防壁』


火と木


相性が悪すぎた


あっという間に防壁が燃えていく


燃えていく端から防壁を張り直していくドライアド




「仕留めきるつもりが仕損じました」


「ワタル 子供とドライアドを連れてすぐに逃げて下さい」


「お前を置いていける訳ないだろ!」


「ワタル」


言い聞かせるように


ゆっくりと言葉を紡いでいく


「冷静になって私を見て下さい」 


「全身に炎が行き渡ってしまいました もう助かりません」


目を疑った、強固な魔導兵の装甲が見る間に燃え尽きていく


「ドライアドの防壁が破られるのも時間の問題でしょう」


必死に防壁を張り続けているが


その青ざめた表情が限界に近いことを告げている


「今、邪精霊と化したイーフリートを止める手立てがありません」


「だから、撤退してください」




「こんな形でお別れすることになるとは思いませんでしたが」


「私はあなたに会えて ともに冒険が出来て幸せでした」


『修理 リペア』


『修復 レストア』


錬成スキルも


『モードチェンジ:スペルキャスター』


『エクスティングウィッシュ・ファイア』


鎮火の魔法も


『モードチェンジ:ヒーラー』


『グレーターヒール!』


上級回復魔法も


全て効果が無かった


「何でだよ!? 何か方法があるはずだ!」




「ワ タ ル あ り が と う」


最後の力を振り絞って


その一言を残して崩れ落ちた


「嘘だろ!? おいっ! アトラス! アトラス!」




残された灰を握りしめたワタルを残してアトラスはこの世を去った




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