第74話 呪縛からの解放(後編)

目を覚ました『勇者殲滅部隊』だった者たち


自分たちを縛り付けていた隷属魔法の邪悪な力を感じない


そして自分たちの姿を見て目を疑う




継接ぎの勇者フランケン


彼のの外見は周囲の者が嫌悪感を露骨に示す程醜悪だった


「継ぎ接ぎだらけだった俺の体が、元に戻ってる!」


ワタルが用意した姿見の鏡に映ったその姿


それは斬り刻まれ縫い合わされた醜い怪物では無かった


そうこの世界に召喚された頃の


強化手術を施される前の姿だった


だが、手術で与えられた勇者たちの力


『固有スキル』の存在は相変わらず彼の中にある


「勇者の生命力に頼って無理やりつなぎ合わせただけ」


「それで強化手術とかよく言えたもんだよな」


彼の体は、『走査』によってえた本来の組成情報を元にワタルが再生した


勇者たちの力はそのままに




「俺の目がを盗みやがったな!」


「いや、体中に目玉がついてるとか趣味が悪いだろ?」


「だから額に一つにまとめておいた」


「元の姿の方が良いなら元に戻すけど?」


「それは、断じてお断りだ!」


ワタルの冗談を真に受けた彼が、スキルを発動させると、額に瞳が現れた


「以前より能力が高くなっているだと!?」


「あんな無理やり取って付けた手術と一緒にしないでもらいたい!」


自分は手術すら出来ないくせによく言えたものだが


全ての瞳の力を『融合』によって無理なくまとめたのだ


その力は以前の比ではない




「俺の魔石は!?」


蓄命の勇者ストック』の体中に埋め込まれた魔石が姿を消していた


「よく見ろよ あるだろ胸の中心だ」


胸の中心にひときわ大きな魔石が光を放っている


「そっちの方があれっぽくてカッコいいだろう?」


あれって何だろう?


ウルトラ的なあれか?


鉄の男的なあれか?


「凄い力を感じるぞ!」


「今までは一度に魔石一つ分の力しか出せなかったんだ」


「それをひとつにまとめれば、全ての力を一度に使えるって訳だ」


「一緒に封じられた魂たちも一つになっちまったのか!?」


「心配するな、勇者たちの魂はこの中にある」


ワタルは一つ魔石を彼に見せた


「いつか元の世界に変える方法が見つかったら、解放するつもりだ」


「それまで俺が預かっておく」




ヘカトンケイル』の姿はこれまでと変わらなかった


彼は百の手を使える以外、外見は元のままだったからだ


「あんたは脳を弄られていたな」


「百手を動かす為にかなり強引に」


「だから脳は元に戻しておいた」


「代わりに補助思考術式の魔石を作ってみたんだ やるよ」


彼に手渡された魔石に魔力を込めると『百の手』の能力が発動した


魔法陣から現れた手が握っている剣が以前と変わっている


「勇者や英雄たちの聖剣や魔剣には劣るが俺の自信作だぜ!」


試しに傍に在る岩に斬りつけてみた


「何だこの斬れ味は!?」


さして抵抗もなく切断されてしまった


「だから自信作だって言っただろう?」


厳選された素材で作られた剣に『超振動』『硬度強化』『耐久性強化』に『再生』を付与してある


劣っていると謙遜してはいたが、その威力は聖剣や魔剣と十分に渡り合える




「こんな力を与えて俺たちに何をさせる気だ?」


ヘカトンケイル』


どうやら彼ががリーダーと言ったところか


「俺はあんた達と同じ境遇だ」


「俺の姿を見てくれ」


ワタルは自分の前身に纏った鎧を脱ぎ去る


それは人の姿では無かった


それは一匹の魔物


その中でも最弱の存在


ゴブリンの姿だった




「俺も仲間たちも魔王に殺されて、脳をゴブリンに移植された」


「今の魔王に挑んだ勇者、英雄、上級冒険者たちも全員移植手術を受けた」


「大抵は手術に耐えきれず死んだそうだ」


「手術で生き残っても自我を保てず狂ってしまった」


「正気を保てていたのは俺と一緒に召喚された仲間の6人だけだった」


「俺達は魔王が創り出したダンジョンに放り込まれ、殺し合いをさせられた」


「そして最後に生き残ったのは俺一人」




「俺も何度も死のうと思ったよ」


「でも出来なかった」


「自分の命を犠牲にして、俺に思いを託した仲間たちがいたから」


ツヨシ、ユウジ、シノブ、アオイ、マコ


彼らの最後の姿が思い浮かぶ


「俺を支えてくれた仲間が居たから」


アトラスにエヴァ 


彼女たちが支えてくれなければ、自分はどうなっていただろう?




「だから、あんたたちの気持ちも少しは分かるつもりだ」


「それに、いくら勇者と言ってもあの状態じゃあ、そう長くは生きられなかっただろ?」


ワタルの推測通り


彼らはあのままでは10年と生きられなかった


「だから少し手助けした」


「これからどうするか? どう生きるのか?」


「それはあんたたち次第だ」


「まだハジメーテの街を襲うって言うのなら相手になるけどね」




「もとより本意ではなかった」


「そのつもりはさらさらない」


「それに命の恩人に仇を成す程、俺たちも落ちぶれてはいない」


「たくさんの人をこの手にかけてしまった」


「俺達はこれからその人たちの分も、誰かの為にこの力を使う」


「先ずは、勇者を召還している者たち」


「その全員を止める!」




「一人は減ったな」


「取りあえず、あんたたちを操っていた奴は、あそこで半殺しの目に遭ってる」


ワタルが指さす方向を見ると


司令官が、『魔導兵団』with『中層の覇者』の面々にタコ殴りにされていた


彼らは戦場のプロだこう言った荒事にも慣れている


彼らが、司令官をもう二度と勇者やハジメーテの街に関わりたいと思わないように調教してくれることだろう




「俺たちは王都に向かう」


「ならば、城を消滅されるのは止めにしておきましょう」


アトラスが残念そうにそう言う


この国は彼らによって変わっていくだろう


その時に城が無くなっていては困る事になってしまう


城壁もね!


「これを持って行ってくれ」


ワタルはスマートフォンに似た魔道具を『ヘカトンケイル』に手渡した


「これは?」


「通信用の魔道具だ 試作品だが王都ぐらいの距離なら通話できると思う」



これが後の『三千世界フォン』の前身になる


その事実は、この当時


当のワタルさえ分かっていなかった



「何かあれば連絡してくれ」


「何から何まですまない」


「この恩は必ず返す」


「そんな必要ないって」




ワタルは笑顔で彼らに向かって告げる


「だって俺たちは仲間だろう?」



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