第68話 ハジメーテの奇跡

金髪ツインテールにメイド服の美少女


ダンジョンコアの作業用代理構成体である彼女はハジメーテの街にいた


その傍には黒い全身甲冑の戦士が護衛として付き添っている




本来、ダンジョンコアはその代理構成体である少女も含めダンジョンを出ることが出来ない


「だったら、ハジメーテの街ごとダンジョンにしたらいいんじゃないか?」


「そんなことが出来るんですか?」


「そりゃ出来るさ! 俺ダンジョンマスターなんだから」


ようは、ダンジョンの構成範囲を街まで拡張すればいい


利点もある、ダンジョンは攻略している冒険者から漏れ出す魔力もリソースとして活用している


辺境の街 ハジメーテは、この国では有数の大規模な街である


当然そこに住む人口も数万人


ダンジョン攻略を目当てとする者が多く


冒険者の割合も高い


一人一人から得られる魔力は微力であっても、それが数万人分となれば相当な量になる


この街が存在する限り、それをリソースとして活用できるのだ




そして何より、ダンジョンから出たことが無かった彼女が、街の中を行き来できる


ワタルの力で、人と同じ生体機能を得た彼女は


風を感じ


飲食を楽しみ


そしてメイド服以外の服を手に入れることが出来た!




主を失ってから悠久の時をただ一人過ごして来た


その孤独をくみ取って、ワタルは今回の話を持ち出してくれたのだ


戦闘能力を持たない彼女一人では危険だと、魔導兵の護衛までつけてくれた


新生の魔導兵 ハジメ


ハジメーテのダンジョンコアの守護者


だからハジメなのだそうだ


その名は彼女が命名した




「創造主よご命令をどうぞ」


「命令権を放棄する お前はこれで自由の身だ」


「なぜそのような事を?」


生まれたばかりと言えども、高度な思考術式を持つ魔導兵


それでも創造主の意図は読み解けなかった




「家族に命令する奴なんていないだろ?」


当然のように答えるワタル


「その上でハジメ 改めてお願いがある」


「彼女を守ってやってくれないか?」


「彼女のわがままが嫌になったらいつでも言ってくれ」


「すぐに交代要員を探すから ハハハ」


「マスター それはレディに対して失礼ですよ」


笑いながら冗談を言うワタル


その冗談に、真面目に答えるハジメ


道具であるはずの自分を家族と言う


彼にはまだ、その意味が理解不能だった


自由になった彼には断る事も出来た


だが何故だろう?


彼の中に創造主である、そして家族であるワタルの願いを『拒否をする』と言う選択肢は無かった


片膝をつき最高の礼節をもって創造主に誓う




「この存在の全てをかけて」


「彼女をお守りいたします」




この日からハジメーテの街で不思議な現象が起こり始める


建物が壊れても、次の日には元に戻ってしまうのだ


食器も元に戻ると考えたある男が、家中の食器を割った


が、元には戻らなかった


男は食器を新調する羽目になった


彼は叫んだ


「なんて日だ!」




この不可思議な現象を人々は『ハジメーテの奇跡』と呼ぶようになった


そしてこの街を人々は『不滅の街 ハジメーテ』と呼ぶようになる



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る