第44話 最終決戦(最速の盗賊VSシノブ)

かつて『神足』と呼ばれた盗賊が居た


神足通(じんそくつう) いのままに行きたいところに行けたり,姿を変えることができたり,また環境を変えることのできる


神出鬼没、様々な姿に身を変え、その正体を見た者がいない


彼は生きた伝説だった


その伝説は、無謀にも魔王の城に忍び込んだ時に終わりを告げた


彼女は今、そのかつて伝説と呼ばれた盗賊と相対している


魔王によって魔物に姿を変えられ、正気を失った


今彼を動かしているのは本能と、洗脳によって植え付けられた殺意と憎悪


しかし、染み付いた身のこなしは常人をはるかに超えていた




盗賊が動き出した途端、シノブは一瞬にして彼を見失った


これまで倒した中で索敵能力のスキルを持った魔物の『核』を優先的に吸収させてもらった


更に彼女は、召喚される前に地獄のような訓練を受け、常人を超える運動神経に反射神経を得るに至っていた


その彼女が認識不可能な程の速度で盗賊は移動しているのだ




無数の斬撃が彼女を襲う


しかしその斬撃が彼女を傷つけることは出来ない


短剣程度の攻撃では全くの脅威にならない


身に纏った装備を自分に与えてくれた存在に感謝する




ワタル 


彼は彼女に笑顔を取り戻してくれた


世界で一番大切に思う相手と巡り会わせてくれた


相手は伝説の盗賊、はっきり言って実力の差は歴然としていた


だが彼女は自分が彼に敗北する気は全くしていなかった


いついかなる時も最強の勇者が自分を守ってくれているのだから




襲い来る斬撃を感じながらも


沈めていく闇の中に自分の存在を


実際に闇の中に入るわけではない


自分がこの世界に存在すると感じさせる全てを闇の中に沈めるのだ


何時も出来るわけではない


『闇に沈みし者』


彼女がそう名付けた、彼女だけの能力


この能力の発動に成功した時


シノブを認識できるものは、この世に存在しない




(成功した)


客観的に見れば状況は何も変わっていない


シノブは変わらずその場に立っているだけ


光学迷彩もその他の探知阻害スキルも発動していない


それにもかかわらず、誰も彼女を認識できないのだ


能力の発動とほぼ同時に術を発動する




『変わり身の術』


スライムの『分体』を利用したこの術はさらに成長していた


見かけが完璧に模倣できているのみならず、魔力波長、気配、そして鼓動までも本物と全く見分けがつかないレベルまで再現している


本物と瓜二つのデコイに盗賊は襲い掛かり短刀を急所へと突き入れた


この時点で彼が正気であれば異常に気付いたはず


今まで傷ひとつ付けれなかった相手に、こうも容易く急所に攻撃が決まるはずがないと


しかし本能と殺りく衝動で動く彼にそこまでの思考は出来なかった


獲物を仕留めたと思った瞬間こそ気を引き締めなければならない


冒険者ならば常識であるはずの行為


だが今の彼にはそれが出来なかった


そこに一瞬の隙が生まれる




身体強化のオーバードライブを刹那に発動させ盗賊が反応できない速さで、高周波を発生させた刃を一閃させる


『神速斬』


神足と呼ばれた盗賊は血を噴き出してその場に崩れ落ちた


「夢から覚めたようだ」


伝説の盗賊はあたりを見渡しそう言った


「酷い夢だった、魔王とその配下を殺した」


「魔王を俺が殺せるわけないのにな」


「そして、殺しても殺してもまた現れやがる」


自分を見下ろす様にたたずむ少女がこう言った


「治療 した方が良い?」


「いや それはやめておいた方がよさそうだ」


「また悪い夢に飲み込まれ始めてるようだからな」




「俺は神足と呼ばれた盗賊だ」


「名前を聞いてもいいか?」


「シノブ」


「まさかシノブちゃんのようなかわいらしい女の子に俺が負けるとはなぁ」


「だが、すげぇ装備だな 俺の短剣じゃ全く歯が立たねぇ」


「ワタルが作った 当たり前」


「お嬢ちゃんの仲間が作ったのか!? それはさぞ名のある鍛冶屋か錬金術師なんだろうなぁ」


「それに、最後の技も凄かったぜ! あれは何て言うんだ?」


「変わり身の術」


「術? おお東の島国に伝わる秘技かよ!?」


「冥途の土産にすげぇもんが見られたもんだぜ」


「シノブ お礼にこれをお前にやるよ」


「その技でよう 魔王の奴の度肝を抜いてやってくれ」


「頼んだぜ」


盗賊はそう言って息絶えた


その顔は満足そうに笑っていた




シノブの手には、彼の『核』が握られていた



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