第35話 出会いと別れ

「ハガネデモ コレダケノ キョウドガ デルンデスネ」


驚くべきことに、魔導兵は鋼で出来ていた


「神々の大戦で、貴重な金属は実戦用の武具の製作に回されてしまってのう」


ミスリルはエルフ、オリハルコンやアダマンタイトはドワーフと最上級の金属は限られた種族のみが秘術をもって扱っていた


大変貴重なため、試作段階だった魔導兵には使用する許可が下りなかったのだそうだ


「じゃが、鋼でも『硬度強化』の術式や装甲の構造次第で実戦に耐えうる強度は出せるんじゃ」


「と言っても、こ奴には兵装の一つも作ってやれなんだ」


それが心残りだと残念そうに話す錬金術師の霊




「1つ頼みがあるんじゃが、霊体となってしまったワシにはバラバラにされた魔導兵をもとに戻してやる事が出来ん」


錬金術師の霊の頼みが、何であるかは明白だった


「モチロン オテツダイシマスヨ ギャクニ コチラカラ オネガイシヨウト オモッテマシタ」


仲間たちも笑顔で頷いている


「お前さん達 本当にいい奴らじゃのう」


こうして魔導兵の復元作業が始まった


魔導兵の各パーツを『走査』する


「ほぉ これで魔導兵の構成がまるわかりというかけじゃな」


「スベテノ コウセイジョウホウガ キオクニハ ハイッテキマスガ」


「ボクニハ レンキンジュツシノ チシキガナイノデ カンゼンニハ リカイデキマセン」


「ソレデハ イキマス」


そして、修理は一瞬で完了する


『修理 リペア』


魔王も各パーツを奇麗に分解していた、万が一壊れてしまうと修復できないレベルの精密さだからだ


それが幸いした


みるみるうちに各パーツが一つとなり魔導兵が復元された


「何ともすごい手際じゃな 今時の錬金術師は皆こんな芸当が出来るのか?」


「イエ コレハ ボクノ コユウスキルナノデ タブン デキナイト オモイマス」


「それを聞いて安心したわい ワシ完全に自信無くすところじゃった」


「そのスキル錬金術師にとっては垂涎もの」


「使う時には人目につかんように気をつけるんじゃぞ!」


(『走査』したもの以外は作れないからそれほど凄いすきるじゃないとおもうんだけど)


使い方次第で、どれ程の結果を生み出されるか


錬金術師であればこのスキルの可能性に容易に気づくはずだが


如何せん錬金術の知識に乏しいワタルは、自分のスキルの価値を過小評価してしまっている




「さて、いよいよ我が魔導兵を起動してみようかのう」


「目覚めよ 魔導兵零式」


ブーンと言う起動音と共に遂に魔導兵が立ち上がる


「おはようございます 創造主 パラケルスス様」


(へぇ 錬金術師さん パラケルススって名前だったんだ)


ここにきて、ようやく古代の錬金術師の名前判明!


「各機能の動作確認を開始せよ」


「確認完了」


「全機能および術式の発動に問題はありません」


「命令権を移行する」


「対象者はワタルじゃ」


パラケルススはワタルを指差し、命令権の譲渡を宣言した


「命令権をワタル様に移行いたしました」


「以後、ワタル様の命令に従います」


「エッ! ボク?」


「このパーティーのリーダーはお主じゃろう」


「魔導兵はお主たちに託す」


「ワシの最高傑作じゃ 必ず役に立つ」


「どうか連れて行ってやってくれ」


古代の偉大な錬金術師が頭を下げる


断れるわけがない


「ワカリマシタ アリガトウゴザイマス」


「それともう一つお前さんに渡したいものがある」


そう言うと、彼は魔導兵の前に立ち呪文を唱える




「『賢者の石』よ わが知識の全てよ 我が前に姿を現せ」


魔導兵:アトラスの前に、魔石に似た宝石が現れる


「これが『賢者の石』じゃ この中にワシの研究成果のすべて記録されておる」


「お前さんに貰って欲しい」




『賢者の石』錬金術師が己の研究成果を記録するために創り出した人工の魔石


そこには彼らによって長年培われた知識の全てが保存されていると言う




「ボクガ モラッテモ イインデスカ?」


「魔王に挑まんとする、お前さんに貰ってもらえれば、わしも本望じゃ」


「正直、ワシは武器を振り回す者たちを馬鹿にしておった」


「じゃがお前さんらと過ごして、それが間違いじゃったと気づかせてもろうた」


「せめてものお礼じゃ」


短い時間の中で、彼らになら自らの知識を託せる


古代の錬金術師はそう信じたのだ




「まさか死んでから冒険が出来るとは思わなんだ」


「今度生まれ変わるときは、わしも冒険者になろうかの」


冗談交じりに笑う錬金術師の霊に


「ソノトキハ マタ イッショニ ボウケンニ デカケマショウ」


「もう爺さんは俺たちの仲間だからな」


「それまでに剣の腕をさらに磨いておきます」


「おじじ 私が守る」


「生まれ変わってくるのを待ってるね」


「パラケルスス様 私もあなたと一緒に冒険がしたいです」


そう、すでに彼はワタルたちにとって、冒険を共にした仲間なのだ




「ほほほほ こりゃ生まれ変わるのが楽しみじゃわい」


「それでは 皆、本当に世話になった」


「またの!」


古代の錬金術師の霊が光の粒子となっていく


「創造主よ 私を作ってくださり、本当にありがとうございます」


魔導兵は、膝をつき最高の敬意をもって、深い感謝の意を伝える


最後に、彼は本当に嬉しそうに笑って消えていった




「マスター 私に名前を付けて頂けないでしょうか?」


しばらく考えた後、ワタルは


「ジャア アトラス ハドウダロウ」


「サイジョウキュウノ ボウケンシャ ソシテ カズカズノ イギョウヲ ナシタ エイユウノ ナマエダヨ」


幻で見た英雄の姿が思い浮かぶ


彼と同じ名を持つ魔導兵と共に、魔王に一矢報いようとこことに誓う


「アトラス・・・素晴らしい名前をありがとうございます」


「この名に恥じぬよう精進いたします」


(アトラスって めちゃくちゃ 話すの上手いな)


「「「「「よろしく アトラス!」」」」」


こうしてワタルたちに新しい仲間が加わった





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