第34話 魔導兵奪還作戦(後編)

ワタルは油断していた


今回も、雷撃で簡単にけりが付くだろうと


仲間たちも今までの快進撃ですっかり慢心していた


だが、今回の相手は今までとは違う


そのことに気づいたのは、錬金術師の霊だけだった




「ワシの魔導兵の思考術式を停止させて、頭部をセンサー代わりに使っておる」


「装甲も今までの魔物とは比べ物にならない高性能の術式が発動しとる」


「気をつけろ、こ奴は今までのおもちゃとは次元が違うぞ!」


「心配するなよ錬金術師さん 俺がサクッと頭を取り返してやるよ」


不用意に近づいたツヨシが餌食となった


「サンダースラッシュ!」


既に勝負はついたと思った刹那


何かが撃ち出される気配


咄嗟に構えた大楯にとてつもない衝撃を受けて彼は吹き飛ばされた


壁にめり込むツヨシ


どこかで見たような嫌な光景だ




「ジェットパンチダ!」


昔見たアニメに登場したロボットが使う必殺技の一つと似ていたので、思わず叫んでしまったワタル


それどころではない


二つ首の魔導兵もどきは、左腕でツヨシの戦斧を受け止め、右腕の拳を大砲の如く撃ち出して彼を大楯ごと吹き飛ばしたのだ


撃ち出された拳は鎖で巻き取られ元の状態に素早く戻る


「だから気をつけろと言ったじゃろ! 耐電対策が取られておる」


「今までと同じように倒せると思ったらひどい目に遭うぞ」


錬金術師の霊に注意されようやく緊張感を取り戻しつつあるワタルたちだったが今までが順調に行き過ぎた




「ならば斬撃で断ち切るのみ!」


『疾風迅雷斬乱舞』


アオイの大刀から繰り出される目にもとまらぬ速さで斬撃


追加で雷撃が畳みかける


しかし!


「ばかな! 渾身の斬撃が利かないだと!?」


ガードした両腕には無数の傷が走っていたが


「傷が再生した!?」


「『硬度強化』に『超再生』まで付加されておる これは厄介じゃぞ!」




「ようし! これならどうだい?」


「ギガントジェットハンマー!」


物質化した魔力の巨槌が魔導兵もどきに打ち込まれるが


魔導兵もどきが左拳を突き出すと


巨槌は軽々と跳ね返される


「僕の、ギガントジェットハンマーが弾かれちゃった!」


「あれは、斥力の魔法」


「私の『グラビティー・オーブ』までコピーされているわ」




魔導兵もどきは背中から伸びた砲身右手で支えマコに照準を合わせる


「マズイゾ! マドウホウダ!」


まさか自分の生み出した必殺の武器まで真似られてしまうとは


ワタルはその威力を知り尽くしているだけに、発射を阻止する方法を必死で考えるが、発射されるまでに間に合いそうにない


「やらせない」


行動に出たのはシノブだった


『爆裂疾風手裏剣乱れ打ち』


爆裂魔法の追加ダメージを与える手裏剣が魔導兵もどきに次々に命中し爆炎を上げる


全ての手裏剣を打ち尽くし、魔導砲の発射を阻止できたと思いきや


爆炎で上がった煙が晴れたそこには、多少のダメージ見て取れるもののチャージを終えた魔導兵もどきが平然と立っていた


発射前合図となる閃光が砲口で光ったその時


「あぶないマコぉ!」


打ち付けられた壁から抜け出したツヨシは彼女の名を叫びながら、なりふり構わず駆ける


撃ち出される敵の魔導砲


ツヨシは間一髪マコの元までたどり着き、大楯を構えた


ビームと化した魔力圧縮弾は、大楯を持ち手であるツヨシ諸共貫いた


「ぐうぅ!」


「ツヨシ! 大丈夫!?」


みれば、大楯には穴が開き、ツヨシの左腕は大きく抉れていた


かばったマコに傷がないことに安心したツヨシは


「『核』は無事だ 腕ぐらいすぐに回復するさ」


痛みをこらえながら、マコに笑いかける




視界が怒りのあまり真っ赤に染まっていく


相手に対してではない


自分に対しての怒りだ


(僕は何度、同じ過ちを繰り返すんだ!?)


「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


彼の全身に、限界を遥かに超えた魔力が流れる


溢れ出した魔力が、その姿を歪めて見せる程に




『オーバーロード』


瞬間的に限界を超えた身体強化を行い、驚異的な身体能力を発揮することが可能となる


だが、その後は自らの身体に激しい損傷を受ける為、行動不能に陥る諸刃の剣




しかし、怒りに我を忘れたワタルに、後の事など考える余地は無かった


同じように大量の魔力を注がれ光を帯びた大剣『オーク・スレイヤー』を力の限りに振り回し、魔導兵もどきを嵐の如く激しく打ちつける


硬度強化を施された装甲も、深く抉られていくが行動不能に陥らせるには至らなかった


戻るように仲間たちが叫んでいるが、周りの音などすでに耳に入らないワタル


だが、その声だけは、はっきりと聞こえた


(落ち着いてくださいワタルさん! 今あなたが戦闘不能になれば、あなたの仲間は全滅してしまいます)


(大事な仲間を失ってもいいのですか!?)


心に響く悲痛な叫びに、ようやく我に返るワタル


(アナウンサーさん?)


(あなたの役割は何ですか? むやみやたらに剣を振りかざす事ですか!?)


今自分がやるべき事


それをようやく思い出した


いや、思い出させてもらった


(そうだった 僕の今やるべき事はこんな事じゃない! アナウンサーさんありがとう!)




落ち着きを取り戻したワタル、しかしオーバーロードのダメージは既に身体を蝕んでいる


それでも歯を食いしばって走る


起死回生の一手となる彼女の元へ


「シノブ! マドウヘイガ ツギニ マドウホウノ チャージニ ハイッタラ ホウコウニ シュリケンヲ ウチコメルカイ?」


ワタルに耳打ちされた彼女は


「誰に聞いているの?」


そう愚問だった


「ソウダッタネ ジャア タノンダヨ!」


次の目的地へと、体に鞭を打つ




ツヨシとマコのもとに何とかたどり着く


ユウジが回復魔法でツヨシを治療しているところだった


さすが専門職、傷は完全に回復していた


ワタルは穴の開いた大楯を修理する


『修理 リペア』


そして3人にも耳打ちする


「モウスグ マドウヘイノ ミギウデガ ハカイサレル」


「ソコヘ ゼンインデ シュウチュウコウゲキダ!」


今まで苦戦していた


必殺技を繰り出しても倒せない


そんな強敵の腕が破壊されると予言するワタル


ツヨシ、マコ、ユウジはその言葉が今から確実に起こる未来だとばかりに、強く頷いて、その瞬間に備える


反撃の始まりだ!




魔導兵もどきが再度砲塔を右手で支えマコに向ける


自分を破壊できる存在が彼女だけであると言わんばかりに


しかし、それは間違いである


なぜなら


『雷撃疾風手裏剣乱れ打ち』


乱れ打ちと言う名とは裏腹にその全てが、魔導砲の砲口に吸い込まれるように撃ち込まれていく


(いや 全部撃ち込まなくても、一撃でよかったんだけど・・・)


強力に圧縮された魔力を暴発させるには、一度の雷撃で事足りた


4つの魔石を埋め込んだ手裏剣のコストは高い


貧乏性なワタルには、コスト的にダメージが大きい


ドッカーンと爆発音を上げる魔導兵もどきをバックに、どや顔をワタルに向けてくるシノブ


ワタルは笑顔で拍手するしかなかった




魔導砲を破壊されワタルの予想通りに右腕は吹き飛ばせたが、未だ致命傷には至っていない魔導兵もどき


だが、動きは鈍っている


「よくもツヨシを傷つけたわね ただでは済まさない!」


怒りで吹き荒れる魔力でマコの髪が逆立つ


「マコ ワカッテルト オモウケド トウブハ ノコシテオイテネ」


「大丈夫よ 胴体を串刺しにするだけだから」


などと物騒なことを言い放つ


大切な仲間(彼氏?)を傷つけられた怒り故に


そして即座に呪文を紡いでいく


「この込み上げる怒りをあのポンコツ野郎に全力でぶつけてやる! アイスジャベリン!」


(ええぇ!? それって呪文なの?)


ワタルの疑問を他所に凶悪な氷撃魔法はしっかりと発動された


乙女の怒りとは不可能を可能にするのか!?


魔導兵もどきの装甲には強力な魔法をも拡散させ得る被膜もコーティングされていたが、内側までその効果は及んでいない


吹き飛ばされた右腕の付け根に、鋭い氷の槍が突き刺さり魔導兵もどきはマコの言葉通りに串刺しにされた


気が付けば集中攻撃など必要もなく魔導兵もどきは無力化された


ツヨシの怪我の功名と言ってもいい結果であった




「おおお! これでワシの魔導兵のパーツがすべて揃った!」


ツヨシとマコの関係も今まで以上に良好だ!


ワタルはシノブの頭をなでながら


「シュリケンハ モウスコシ セツヤクデキルカナァ?」


とさりげなく聞いてみたが


「ワタル 貧乏性 ハゲ」


とぼろクソな返事が返ってきた


自業自得であろう




こうして、ワタルたちは波乱の『魔導兵奪還作戦』をどうにか完了させることが出来たのだった



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