第31話 奪われた魔導兵(後編)

広大な多層迷宮を進んでいく内に気づいた事


「だんだん敵の改造されてる部分が増えてるな」


ツヨシの言う通り腕、足、頭と、体の一カ所のみだった改造部が迷宮を進んでいく内に2カ所、3カ所と増えて来ていた


改造部の性能も上がってきている




「変な声 聞こえる」


索敵スキルを持った魔物の『核』を優先的に摂取してもらっているシノブが誰かの声を聞きつけたようだ


「だんだん近づいているようだ 今は私にも聞こえる」


もともと感覚の鋭いアオイにも聞こえているようだ


「あ! ホントだね 僕にも聞こえるようになった」


ユウジにも聞こえるようになったようだ


「念のために攻撃魔法の発動準備をしておくわね」


今では魔物にひるむことも無くなったマコが頼もしくそう告げて来た


(僕には、まだ聞こえないんですけど・・・)


ワタルにはまだ聞こえていない


仲間たちとの能力差にへこむ


「オオ! キコエルヨウニ ナッタ!」


喜んだのもつかの間


それは聞こえるはずだ、声の主がすぐそこまで来ていたのだから


「返せええええええええええぇ! それは私のものだあああああああああぁ!」




完全に悪霊『レイス』と化した存在のようだ


「また悪霊に変えられちゃった人だね まかせて!」


ユウジがほほ笑むと、ピカーッと光が悪霊を照らし出す


これで魔王の犠牲者の魂がまた一つ、清められ天に召される


そう思ったワタルたちであったが


「ちょ! このピカーッて光止めんかぁ!」


「ん!? でもちょっと気分が良くなってきたのう」


死者の街でアンデッドにされた人々をあっという間に昇天させた光が利かない


「あれぇ? 僕の光が利かないなぁ・・・」


「ようし! 張り切って光量を当社比2倍にパワーアップしちゃうよ!」


(え!その光って調節できるの!?)


その前に光をどうやって出しているのか


いつか問い質したいを思うワタル


「あぁ! 何だかワシ、このままこのまま成仏してしまいそう・・・」


「ってちょっと待てい! 待ってくれい!」


悪霊からは、今は嘘のように邪悪な雰囲気が消えていた


なにせ、一人ボケ一人突っ込みが出来る程だ


そして、ワタルたちに何かを訴えようととしているようだ




「ユウジ イッタンヒカリヲ トメテアゲテ」


「ナンダカ ワケアリミタイダ」


ユウジが光を止めると、そこにはローブを纏った老人が佇んでいた


「いやぁ 助かった 驚かせてしまったようですまなんだのう」


「ワシは太古の昔に神によって魂を封印された錬金術師じゃ」


(それって悪い人なんじゃ?)


心の中で突っ込んだが、こちらも自己紹介しないと目上の方に失礼だ


「ボクタチハ マモノニ スガタヲ カエラレタ ショウカンシャナンデス」


「まだ、あんな非道な召喚の儀式が続いておったのか?」


「無理やり別の世界に連れてこられて使い捨ての兵器にされ、挙句の果てに魔王に魔物に変えられてしまうとは、なんとも気の毒な話じゃ」


我が事の様に、嘆いている老人をみて、どうやら悪い人物ではないと判断したワタルたち




「ドウシテ フウイン サレルコトニ ナッタンデスカ?」


ツヨシは気になっていた事を聞いてみることにした


「神々の大戦はしっておるか?」


「太古の昔に、秩序と混沌の神、そしてその信者たちが戦ったって聞いたが」


ツヨシの答えに、老人は話を続ける


「そうじゃ その戦の為に、ワシは神から錬金術で不死の兵士を創るように命を受けたのじゃ」


「じゃが ワシは命を奪う兵士など作りたくなくてな」


「プロトタイプは完成していたんじゃが、ワシはそれを神に隠しておったんじゃ」


「じゃが それがばれてしまってのう」


「天罰が下って、プロトタイプと一緒に魂を封印されてしもうた」


「酷い! 前の世界でも、無理やりに命を奪う道具を作ってた! この世界でもそうなの!?」


めずらしくシノブが感情を露わにしている


怒りの感情を




シノブは、物心ついた時には、裏社会の組織にいた


そして、同じような年ごろの子供たちと日々人を殺す訓練を強要された


過酷な訓練についていけなかった者


組織の評価で適性がないと判断された者


仲間が次々と姿を消していった


組織は、子供たちに人を殺す抵抗を無くすため、来る日も来る日も、生き物を殺すように強要した


最初は兎といった弱い動物から


犬、狼、クマと殺す対象が強くなっていく


気が付けば、数十人いたはずの同期の子供たちは、シノブ一人に


その頃からか、シノブは自分の感情を心の奥にしまい込んで、表に出さなくなった


そうしなければ生き残れなかった


正気を保つことが出来なかった




そして最後の試験で初めて人を殺す命令が下された


学生服を与えられ、そこの学生を密かに暗殺すると言う非常な命令


対象は、マコだった


大企業の社長令嬢だったマコの父親への、ライバル会社からの警告


シノブは、標的を観察する訓練として学校に通い始めた


組織では、同期の子供たちはお互いライバルだった、ほとんど会話は無かった


同年代と言うよりほとんど人と会話した経験が無い


シノブはクラスに溶け込むのに苦労した


そこに大人しそうな、少年が声をかけてきたのだ


「転向したてだと緊張するよね? 僕も人と話するの苦手なんだ」


「でも、そんな僕でも友達がいるから紹介するよ」


そうシノブに笑顔で話す少年がワタルだった


最初は警戒したが、彼は気にした風もなく自分の友達を紹介してくれた




それがツヨシ、ユウジ、アオイ、そしてマコだった


みんな人見知りなシノブを気遣うように優しく接してくれた


嬉しかった


生まれて初めて友達が出来た


それはシノブにとってかけがえのない宝物のように感じた


殺せるわけがなかった


シノブは組織の命令を拒否した


組織は、命令に従わない自分を処分するだろう


それを覚悟した瞬間、シノブは光に包まれてこの世界へ召喚されたのだ


この世界に召喚された仲間の中で、心からそれを喜んだのはシノブ一人だったろう


友達の命を奪う事も、自分が処分されることも無くなったのだから


彼女は今までの自分の人生をたどたどくだが必死にありのままを告白した


嫌われるかもしれない、もう友達ではいられないかもしれない


内心怖くて、話すときも震えが止まらなかった


だがワタルはシノブの話を聞いて、涙を流しながら怒ってくれた自分の為に


他の仲間たちも一緒になって涙が枯れるまで泣いた


(この世界に来られて本当によかったの思えたのに・・・)


この世界でも同じことが行われていると分かってしまった


しまい込んでいた感情が溢れ出てしまう


怒りに震える肩をワタルの手が包んでくれた、それに続くようにツヨシ、ユウジ、アオイ、そしてマコもシノブを抱きしめてくれた


そう、この世界がどんな世界だとしても、今は彼らがいる


シノブはそれが本当に幸せなな事だと思う


だから、今シノブの頬を流れている涙は、怒りからではない


嬉しさが心からあふれ出して、涙となって流れ出て来たのだ




顔を赤くしてポカポカ叩いてくるシノブの頭を優しくなでながら、ワタルは老人に尋ねた


「レンキンジュツシサン ナニカ カエセト イッテタケド」


「ナニカヲ トラレタン デスカ?」


「魔王はワシが封印されている遺跡を偶然見つけおってな」


「ワシが神から隠した兵器をいいおもちゃが見つかったと持ち去りおったんじゃ」


「そして、分解してそれぞれを別の魔物に取り付けおった」


「そして、他の魔物にもワシの兵器をまねたものを取り付けて、殺し合いをさせ始めたんじゃ」


「ワシはそれが許せんかった ワシの創り出したものは命を奪うものではない」


「力なき者達を守るために作ったんじゃ」


「そして怒りのあまり、いつしか我を忘れてしまい悪霊となってしまって居ったようじゃ」


「そうして、さまよって居ったところをお前さんらと出くわしたと言う訳じゃ」


「ワシにはあれを取り戻す力など無い」


「お前さんたちに話を聞いてもらえただけで満足じゃ」


「諦めて成仏するとするわい」


「すまんが さっきの光をつかってくれんか?」




「それはだめ 絶対」


シノブは老人の願いを断固拒否した


「そうだな、錬金術師さんの大事の作品なんだろ? 取り戻そう!」


ツヨシもやる気だ


「今の話を聞いて、見過ごすことなど出来んな」


アオイはこういう性格なのだ


言うまでもない 


「私も取り戻したい だからあきらめないで下さい」


マコもすっかり自分の意見を言うようになった


「お前さん達、手伝ってくれつというのか、まだ出会ってばかりのワシの為に」


「コレハ ボクタチノ タメデモ アルンデス」


「ボクタチモ マオウニハ ヒドイメニ アワサレテ マスカラネ」


「ダカラ ゼヒ オテツダイ サセテクダサイ」


「そうか・・・じゃったら恥を忍んで頼む!」


「ソレデ レンキンジュツシサンノ ヘイキトハ ナンデスカ?」


「この辺りをうろついている魔物を見て、感づいておるとは思うが」


「ワシが作り出した兵器は『魔導兵』じゃ」



こうして、ワタルたちと錬金術師の霊との『魔導兵奪還作戦』が開始されるのだった



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