第30話 奪われた魔導兵(中編)

「まるで魔導兵のようだな」


ミノタウロス(改)の鋼鉄製の上腕から撃ち出された鉄球を大楯で弾きながらツヨシが呟く


ワタルも聞いたことがある、体の一部を魔道具で強化した兵士


中には脳以外を全て魔道具に変えられた兵士たちも居たそうだが


身体が魔道具に置き換えられていくほど、拒絶反応や、魔道具同士の競合作用が起こり兵士の死亡率が跳ね上がっていく


その存在が人からどんどんかけ離れていく恐怖から、精神に異常をきたす者も少なくない


その絶望的な確率を乗り越えた存在は、数少ない


かつて、魔導兵の力で勢力を広げていた国では、反乱を起きたった10人の魔導兵が国を滅ぼしたそうだ




「しかし、魔導兵の噂と比べると、この魔物たちは弱いな」


鎖で綱られた鉄球を生身の方の手で振り回し始める


自分にめがけて放たれた鉄球を難なく交わしアオイは、ミノタウロス(改)の懐に飛び込んだ


一閃と思われた斬撃は、頭、両手、両足の5カ所を切断


『推進』と『超振動』『硬度強化』を施された愛刀の威力は、戦闘を重ねるごとに冴えわたっていく


それでも、のたうち回るミノタウロス(改)の生命力には驚かされた




「このオーガも強くない」


下半身を『無限機動』に変えられたオーガ


悪路で本領を発揮するそれを、ダンジョンで装備しても機動力が下がるだけ


神のテクノロジーまで駆使できる魔王にしては、稚拙すぎる改造だ


腕力に任せて振るわれる金棒は脅威だが、当たらなければ意味がない


『推進』と『飛行』スキルを天性の素質で操るシノブは、素早く相手の背後を捉える


手には、高周波のうなりを上げる短刀


鋼鉄製の無限機動に切りつけ動きを封じ、苦し紛れに振り下ろされた金棒の上を走る


オーガがそれに気が付いた次の瞬間


首が地面に転がっていた




相変わらず、魔物は徒党を成してワタルたちに襲い掛かってきている


バトルロイヤルのルールなどもはや存在しない


まるで自分こそがルールだと魔王が告げているようだ


だが、そんな事など些末な事だと、ワタルの仲間たちは魔物を葬っていく




「このトロールは結構しぶといよ!」


ユウジが何度も自慢の戦槌で頭を叩き潰しているが、その都度再生している


『超再生』でも最高レベルの再生速度だろう


しかし、真っ先に叩き潰された、回転のこぎりが装備された左腕はひしゃげたままだ


どうやら改造した部位は再生できないらしい


「トロールの再生力が無駄になっちゃってる」


「ほんとに改造した意味が分からないなぁ」


「そろそろ必殺技で決めちゃおうかな?」


5mを超えるトロールよりもさらに巨大な戦槌が姿を現し、『推進』で加速され叩きつけられた


トロールせんべいが出来上がった


ユウジのお陰で(?)グロ耐性が上がってきたワタルたちだが


それでも見るに堪えない悲惨な姿だった


それでも『核』は破壊されていない


恐るべき魔力操作の妙技である




「このサイクロプスはガーゴイルよりも強力な『熱光線』を発射してくるわ」


サイクロプス(改)は頭部を改造されて、超巨大な移動砲台と化していた


だが、振り回される鋼鉄のこん棒の方が厄介だ


『熱光線』を追加された重力の宝珠が、マコに向けてはなられた『熱光線』を自動で追撃する


この機能はワタルが『術式付加』したものではない


『グラビティー・オーブ』を創り出すための『核』をガーゴイルの物にしたところ自然に機能し始めたのだと言うから驚きだ


更に驚くべきは、体長10mの体躯が振り回す金属製のこん棒の威力


ではなく、その圧倒的な質量の打撃を、宝珠が弾き返していると言う事実


マコとペアを組んだワタルは、こん棒の攻撃を命からがら躱しているだけだった


(僕の存在意義ってなんだろう?)


それについて考え始めたそのとき


マコの攻撃魔法がサイクロプス(改)にさく裂した


「その血その肉を凍らせ永遠に幽閉せよ 氷の牢獄 アイスプリズン」


巨人を立方体の氷の牢獄が封じ込める


サイクロプス(改)はその怪力で氷の牢獄を壊そうとし、『熱光線』でそれを溶かそうと足掻いていたが、やがて力尽きた


グラビティーオーブの一つが氷漬けとなったサイクロプス(改)を背後から貫き、『核』が弾き出された


マコがおもむろに手を差し出すと、寸分たがわず『核』はその掌に飛び込んだ


満足げな彼女の笑顔は、至極魅惑的だった


(マコ カッコよすぎ! ツヨシが惚れるのも納得だわ)


自分は、彼らの装備の強化をがんばろうと、自分を励ますワタルだった



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