第28話 VS偽りの不死の王(後編)

「ねぇみんなぁ 不死の王ってこんな品も格もない不細工だったっけ?」


ワタルたちは玉座に座している男が本物の不死の王でないことを知っている


なぜなら、彼らは以前、本物の不死の王と出会っているからだ


しかも、ボッコボコにされた




某所


「へっくちっ」


「どうなさいました?」


「今、妾の噂をしている者共が居るようじゃ」


「この妾の偉大さを語っておるに違いない」


「はい それは間違いありませんね」


「しかし、あのへなちょこ勇者どもは健在かのう?」


「今頃は、魔王との対決も終わっているはず ならば・・・」


「やはりあの男の言う事など聞かず、無理やりにでも引き留めるべきじゃったか・・・」


「しかし、かの者 只者ではありませんでした」


「何か深い事情があったに違いありません」


「そうじゃな」


「生きておれば、また会う事もあるじゃろうて」


「また稽古をつけてやらねばのう!」


「楽しみでございますね」




「どうせ、彼女に追い出された下級ヴァンパイアが、魔王に力を与えられて調子に乗っちゃったって感じだろうなぁ」


「き、きさま! どうしてそれを!?」


「ぶふぅ! カマかけただけなのに、図星だなんて笑っちゃうなぁ」


(うん 完全にユウジのペースに嵌ったな)


戦闘中は常に冷静でなければならない、たとえランクが上であろうが、判断力が欠如すれば敗北もありえるからだ


なまじ知性がある為に、ユウジの話術(ただの毒舌?)にはまり地獄を見た魔物たちをワタルは知っている


怖いくらい知っている


「どうせちょっとスキル増えたくらいのモノなんでしょぉ?」


「馬鹿め! 今の私の力は、あの女など遥かに凌ぐわ!」


「うわぁ えらいこと言っちゃったねぇ 彼女が知ったらどうなるかなぁ?」


その一言に顔がこわばる不死の王(自称)


今彼は完全に冷静さを失っている


「あっ! 噂をすれば 真の死の王のご登場だ!」


死の王(自称)の後ろを指さすユウジ


「げっ! まさか!」


「このダンジョンは、一度機能すれば外部からの侵入など出来ないはず」


と言いながらも、振り向いてしまった


ユウジの言葉で思い出してしまったのだ


本当の死の王とはどのような存在かを




その隙を見逃すわけもなく、シノブが事前に用意した決戦兵器を手裏剣よろしく素早く放つ


折角魔王から与えられた身体能力もユウジの心理攻撃の前に十分に発揮できず、避けられるはずの攻撃も食らってしまう


「ぐっ! なんだこれは ぐああああああああ!」


「ち、力が入らぬ 一体何をしたぁ!?」


死の王(自称)に突き刺さったのは金属製の注射器


「ええとねぇ 下級のヴァンパイアは死した者の血が苦手らしいから」


「コボルトくんたちの内臓をじっくり熟成した特性スープをたっぷりご馳走してあげたよ!」


錬成と発展スキルを駆使した血と汗と涙の結晶だ


製作を依頼されたワタルは、その過程を思い出し、込み上げてくるものがあった


物理的に!


シリンジ(筒の部分)と押し子のサイズがなかなかかみ合わず、中身が染み出て大騒ぎになったのはいい思い出だ


目標に刺さった瞬間に、適切な圧力で押し子が押されるように『推進』が作動するよう術式を調節するのも苦労した




「嘗めた真似を!」


「かくなる上は、真の姿を見せるしかないようだな」


「見て慄くがいい! 我の真の姿を!」


「うおおおおおおおおおおおおおお!」


唸り声と共に、死の王(自称)の身体が筋肉で膨れ上がっていく


牙はむき出しに伸び、禍々しい角が生え、鋭い爪が全てを切り裂かんと伸びた


(おお! なんかラスボスっぽい!)


ワタルのテンションが上がる変身で、体長10mの巨人と化した不死の王(自称)




「真の姿とか大げさなこと言うから、結構期待してたのになぁ」


「今時は第二段階、第三段階を経て、最終形態に変身するのが主流だよ?」


「いきなり最終形態とかしょっぼいなぁ」


「しかも、大きくなったら強くなったと勘違いしちゃうとか」


「なんかもうガッカリ」


「大型化すれば力や生命力は大きくなるけど」


「体重が大幅に増加しちゃったら、俊敏性は損なわれると思うんだけど」


「その辺ちゃんと考えられてるかなぁ?」


(大型化で筋力は増加したけどみんなみ負けてるし、敏捷性も落ちてる・・・)


なんだか自分の事を言われているみたいで落ち込むワタル


「ワタルは 私が守るから」


抱き着いくるシノブの笑顔が仏さまのようだ


「出来てないなら、唯の『鈍間なデカい的』の、出来上がりになっちゃうなぁ」


「もう聞き捨てならん!」


「叩き潰してくれるぅ!」




「大型の敵を倒すには、まず足を狙うのが鉄則だな!」


ようやく自分の出番かと美麗の剣士は、死の王(自称)の手を掻い潜り、その太い右足を一刀両断した


「ぐはああああああああ! この最終形態の私を傷つけるだとおぉ?」


完全に頭に血が上っているのか、マコに弱体化魔法をかけられている事すら気付いていない


マヌケな巨人は片足を失いその場に倒れ伏す


「馬鹿め! 私には『超回復』がある 足などすぐに生えてくるわ!」


「ほぉ! じゃあそのご自慢の『超回復』と僕のこいつの攻撃」


「どっちが早いか競争だねぇ!」


彼がニッコリと笑って掲げるは、愛用の戦槌


そしてそれを巨大化したように、魔力が物質化し形作られた戦槌


「ギガントジェットハンマー!」


「ぎゃあああああ」


「ギガントジェットハンマー!」


「ぐおおおおお」


「ギガントジェットハンマー!」


「ぐふううううう」


右手、右足、残った左足を次々に粉砕




「やっぱり本物の不死の王とは、比べ物にならないなぁ」


「僕たちは、まだまだ弱いけど」


「偽りの不死の王よりは強かったみたいだねぇ」


「じゃあ お別れの時間だよ」


「ひいぃ! ま、まって! 待ってくれ! 命だけは勘弁してくれ!」


「いや、どうか勘弁して下さい!」


先ほどの強気はどこへやら


そこには戦う者の気概も品性も格も存在しない


弱いものを甚振る事しかできない害虫の姿


「街の人達が、お城の騎士たちが命乞いをした時、君はそれを聞いてあげたかい?」


「聞いてあげてたら、アンデッドにはなってないよねぇ?」


「じゃあ さようなら」


グシャリ


それが不死の王(自称)のあっけない最期だった



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