第26話 死者の街(後編)
「ようこそ死の街へ」
「魔王のゲームの手駒となった虫けらの諸君」
優雅なしぐさで挨拶をしてくる、高位のアンデッドであるリッチが慇懃無礼にそう告げた
「この街の住人は、ダンジョンが作り出した魔物とは違うよねぇ?」
ユウジがリッチに笑顔で質問する
だがその眼は笑っていない
こんな笑い方をするときの、ユウジをワタルは知っている
(ヤバい! 滅茶苦茶怒ってる!)
普段温厚な彼が、怒った時に何が起こるのか
それを知っている彼は、震えが止まらない
「ほう! 虫けらの中にも、少しは物分かりの良いものも居たようだな」
「ゾンビの中に子供がいるからねぇ」
「ダンジョンで生み出されるゾンビに子供はいない」
「その通り! この街は、偉大なる魔王様がこのダンジョン内に転移されたのだ」
街を丸ごとダンジョンに転移させる
絶大な力を持つ歴代の魔王でも、それほどの力を持った者はいなかった
だが、そんな事はユウジにはどうでもよかった
「この街の住人は、不死者の中でも高位の存在である私が、究極の死霊術をもって不死の存在にしてやったのだ」
「へぇ そうなんだ」
ユウジは、悠然と街へと足を踏み入れる
町の広場までたどり着いた彼に、アンデッドへとなり果てた者たちが彼に群がっていく
「ユウジ戻れ! 危険だ!」
アンデッドの中には触れるだけで、生命力を奪っていく存在もいるのだ
ツヨシ以外の仲間たちもユウジに戻るように懸命に言い聞かせようとするが
「大丈夫 ここは僕に任せてくれないかな?」
こうなったユウジはもう誰にも止められない
仲間は黙って見守るしかなかった
子供だったゾンビがユユジに襲い掛かり噛みつこうとする
「かわいそうに もう大丈夫だからね」
ユウジは子供ソンビを抱き寄せ笑いかける
その笑顔からあのピカーッが発せられ、子供ゾンビが照らされた
その光を恐れているのか、他のゾンビたちはユウジの周りを囲んではいるが襲い掛かってはいない
信じられない光景がそこにはあった
「ごめんねお兄ちゃん 僕こんなことしたくなかったんだけど」
「僕も、お父さんもお母さんも町の人たちも全員殺されちゃって、怪物にされちゃったんだ」
「それで命令されて、体が言う事をきかなくて」
子供のゾンビは光の中で、生前の少年の姿に戻っていた
その瞳には大粒の涙があふれて零れ落ちた
「僕もっと友達と遊びたかった
「お父さん、お母さんといつまでも一緒にいたかった」
「生きたかったよぉ」
「そうだよねぇ 辛かったよね」
ユウジは彼の頭を優しくなでた
「でもね、今度生まれ変わった時には、きっといっぱい遊べるよ」
「お父さんとお母さんにも直ぐに会えるからね」
「本当に?」
「ああ本当さ」
「だから、先にお空で待っててね」
「分かった! ありがとうお兄ちゃん」
ユウジを見つめる少年は笑っていた
そして彼は光の粒子に変わって空へと昇って行った
『ターンアンデッド』 不死の存在を消滅させる魔法
だが、一度闇の存在に落ちた魂に、神の救いは無い
穢れた魂は、魔法によって、ただ消滅させられるのみ
だがユウジの放つ光は違った
「何が起こっている?」
「何故、アンデッドどもは、私の言う事をきかない!」
リッチは怒り狂ったように怒鳴り散らす
「あのさぁ ちょっと黙っててくれる?」
そうユウジがリッチに向かって告げた瞬間
リッチは身動き一つとれなくなった
しゃべる事さえも
『言霊』 力持つ者が発する言葉には、自ずと力が宿る
高位の不死者を封じる程の力
ユウジの言葉には、それほどの力が宿っていると言うのか
もうユウジに襲い掛かろうとする、存在は居なくなった
意識などすでに無くなってしまっているはずのゾンビもスケルトンそしてレイスも手に持った武器を投げ捨てて、その場に膝をついて祈るように手を合わせた
気が付けばユウジは全身から光を放っていた
「みんな苦しかったよね 直ぐに楽になるからね」
光に照らされたアンデッドたちも少年と同じように生前の姿に戻っていた
「ああ ありがとうございます」
「やっとこの苦しみから解放される」
街の住人たちはユウジに感謝を告げると、光の粒子となって空へと昇って行った
ユウジが発する光は『救いの光』
穢された住人たちの魂は次々に浄化されていった
全ての住人が空へと昇っていくのを見送ると、ユウジはリッチに目線を向けた
「さすがに僕でも、君だけは許せないなぁ」
「あの人たちが味わった苦しみ 全部味わってね」
ユウジから発する光に照らされるとリッチは全身から煙を上げ始めた
「うがああああああああああああああああああああああああああああああ!」
激しい絶叫と共にリッチは燃え尽きた
その魂さえも、燃やし尽くされて
灰となった中に『核』だけが残った
「君がどれだけ苦しんでも、もうあの人たちが生き返る事は無いんだよね」
ユウジは笑っていた、その眼に一杯涙を溜めて
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます