第23話 VSゴブリン・バーサーカー(後編)

(斬っても斬ってもどんどん再生してくる キリがないな)


通常の『再生』とは、次元の違う『超再生』


切断しても、即座に再生してしまうのだ


(でも、これでいい)


いつまで続くか分からない


継続が不可能になる、最後の瞬間まで時間を稼ぐ


シノブが必ず、アイアンアント・クイーンを討ち果たしてくれる


その間、ツヨシ、ユウジ、アオイ、マコが敵をかく乱してくれている




ワタルは自分が強くない事を知っている


防御力は、ツヨシに遠く及ばず


攻撃力は、その先にいるはずのアオイの姿が見えない程、かけ離れている


シノブはかわいい


ユウジは、とぼけた言動が多いが、ここ一番に驚くほどの実力を発揮してくれる


マコの魔力量と魔術のセンスは、すでに常人のレベルをはるかに超えている


アナウンサーさんは、縁の下の力持ち的に、ものすごく頼りになる


彼の出来る事、それは仲間を信じる事


そして自分が出来る事を全力でやる事


だが、その全力にも限界が刻一刻と近づいていた




(マスター申し訳ありません)


申し訳なさそうに告げるアナウンサーさん


(マクロの中断で『核』を十分に確保できなかった為、後残りわずかとなってしまいました)


そして、その残り僅かな『核』も底をついた


(アナウンサーさんが気にする事なんて何一つ無いよ)


(今まで、影で支えてくれて、本当に感謝している)


(今から僕は、残りの力を振り絞って最後の攻撃にでる)


(道連れにしちゃったみたいでごめんね)


(わが生涯に一片の悔いもありません!)


世紀末救世主よろしく、そう告げてくれるアナウンサーさん


もう思い残す事は無い




残りわずかとなった魔力を絞り出すように全力に込める


急激な過負荷に体が悲鳴を上げるが気にしない


後の事は考えない


そして、全力で愛剣たる『オーク・スレイヤー』を振るった


確かな手ごたえを感じた直後、自慢のフルプレート・アーマーですら、耐えきれずにひしゃげる程の一撃を浴びて、ワタルは吹っ飛んだ


全身の骨がばらばらに砕けたような激しい痛みが走り


口から大量の血を吐き出す


折れたあばらが肺に刺さってしまったようだ


致命傷でも再生する、魔改造された身体ではある


が回復する前に、じりじりと迫るゴブリン・バーサーカーの餌食となる運命は避けられないようだ


そしてゴブリン・バーサーカーの間合いに入った


目の前で、強大な肉塊から生えた、高周波のうなりを上げるキラーマンティスの鎌が振り上げられる


不思議と恐怖心は無い


願わくば、仲間たちが生き残り、魔王に一矢報いることが出来ますように


そう願い、叫ぶ!


「ミテイルカ マオウ! コレガ オレノ サイゴダ」


「ダガ オレノ ナカマガ カナラズ オマエヲ ブットバシニ イクゾ!」


「クビヲ アラッテ マッテイロ!」


「グッ? グガァ!」


ワタルの叫びに反応するように


ほんの一瞬だが、唸り声を上げゴブリン・バーサーカーの動きが止まる


その一瞬が生死の境を分けた




「ワタル カッコ悪い」


素早くワタルを抱きかかえてその場を離脱するシノブ


確かに格好が悪いと思う


「待たせたなワタル」


「ワタル大丈夫か!? おのれぇ! ゴブリン・バーサーカーめ『核』も残らぬほどこまぎれにしてくれる!」


(いや、『核』は残しておいてね!)


そう心の中で突っ込むころには、3人はゴブリン・バーサーカーの牽制へと向かっていた


「あはは! こっぴどくやられたねぇ!どうする回復魔法使う?」


(ここで使わない選択肢ある?)


と思った時には、受けたダメージが回復していくのを感じる


ユウジは歯をキラッとさせて、笑顔でサムズアップ


お茶目さんも、TPOをわきまえて欲しいと、切に願う


「ワタル 秘密兵器を使わせてもらうわね!」


「ソウビ スルマエニ チョットマッテ」


ワタルは、最後の力を振り絞り『固有スキル』を発動する


(『錬成』多脚砲台!)


マコの身体が、鋼、バレットビートル、アイアンアント、ジャイアントセンチピードの甲殻で積層構造になった装甲で包まれていく


その中には、衝撃緩衝用に『変質』されたスライムが注入される


酸素が含有しているためか息が苦しくない


がベトベト体に纏わりついてくるようで、心地は良くない


次に、同じ素材でできた蜘蛛の足が彼女の胴体部分あたりから生え、地面へと突き刺ささり、その場に力強く固定する


そして、いよいよマコが秘密兵器『魔導砲』をアイエムボックスから取り出し装備する



『魔導砲』 スナイパーインセクトの魔力圧縮器官を大型化して再現し、強力な圧縮魔力の放出を可能にした意欲作


魔力圧縮器官は、背中に背負う形で装備できるようにし、そこから大砲の如き砲身が前方へと延びる


砲身には耐久性と圧縮魔力の放出速度を速める為に、これまでに手に入れた『固有スキル』を付加しまくった


大火力の魔力弾を放出するには、魔力を超圧縮する必要がある


並の術者では、圧縮が完了する前に魔力暴走を起こし、自身が木っ端みじんになるだろう


故に、この秘密兵器を扱えるのは、魔力の制御に秀でたマコだけなのだ


砲身に取りあえず付加してみた『弱点察知』がこれまた運よく動作し、照準をゴブリン・バーサーカーの急所へとピタリと合わせる




そして魔力のチャージが始まった


背中の圧縮器官に膨大な魔力が注ぎ込まれ圧縮されていく


マコは微妙な変化を感じ取りながら、限界まで魔力を送り込み続けた


「魔力チャージ完了」


「全員退避してねぇ!」


ユウジの退避勧告を耳にし、牽制役に回っていた、3人が素早くその場を離れる


「『魔導砲』発射!」


ドンッと言う大気を震わす音と共に、多脚砲台の装甲に守られながらも強烈な振動と反動に晒されるマコ


もし生身で発射していれば、相手を破壊する前に自分自身が木っ端みじんになっていたところだ


砲身より放たれた超圧縮魔力は、砲弾と言うよりも、もはやレーザービームのように一条の直線を描いて、ゴブリン・バーサーカーをあっけない程簡単に貫いた


その射線上には、しっかりと弱点を捉えて


沈黙するゴブリン・バーサーカーと同時に、『魔導砲』も自分の役目を終えたことを悟ったように崩れ去っていった


負荷が大きすぎて、たった一発で、その耐久力を使い切ったのだ


多脚砲台からは、スライムまみれなマコが救出された


心なしか男性陣の顔が赤い




シノブが、素早くゴブリン・バーサーカーに近寄り、無事だった『核』を回収して大急ぎで帰ってきた


息をつく暇もなく、消耗しきったワタルに早く吸収しろと言わんばかりに、顔にめり込むように押し付けてくる


はたから見れば拷問のようだが、彼女の精いっぱいの愛情表現だと分かっているワタルは喜んでいる


けして彼がMと言う訳ではない!はず・・・


吸収する前に習慣になっている『走査』のスキルを発動した


『走査』が完了するまでに数秒もかかっていないはず




だが、その間にワタルは幻を見た


目の前に、一人の若者が立っている


にっこりと微笑みかけてくるその姿は、歴戦の戦士の風格を称えていた


「ありがとう 君のお陰で、ようやく魔王の呪縛から解放されたよ」


若者は自らをアトラスと名乗った


その名は、この世界に疎いユウジも耳にするほど有名だった


『アダマンタイト級冒険者』


人が達することのできる限界に行き着いた者だけが得られる称号


数多の冒険で死線を超えた先に、一握りの者だけがたどり着ける境地


彼は、その実力だけでなく、数々の偉業を成し遂げ『英雄』とまで呼ばれる存在となった


異世界に召喚されたご褒美に与えられた身体能力や強力な『固有スキル』などに頼っている勇者などとは比較にならない


そんな存在が自分に感謝の言葉を述べ、語り掛けてくる


自分の力に自信の無いワタルは、不思議な気分だった


「俺も、自分の強さに少しは自信があったんだが」


「調子に乗って魔王に挑んでみたら、この様さ」


名実ともに本物の強者である


そんな彼でさえ、魔王に敗れゴブリン・バーサーカーになり果てた


それは、決して認めたくない事だが、魔王の実力は『アダマンタイト級冒険者』さえ遥かに上回っていると言うこと




「『核』は保管しておきます」


「必ず方法を探し出して、あなたを生き返らせてみせます!」


ワタルは、約束だ、と彼に告げるが


「俺の大事なものは、もうそっちの世界にはないんだ」


「その『核』は・・・とてもじゃないが自信をもって渡せる代物ではないが、君が使ってくれ」


「君が生きて魔王の呪縛から解放されることを心から祈っている」


「じゃあ、俺は行くよ」


「さっきから仲間を待たせてるんだ」


少し離れた場所に人影


手を振って彼を迎えているのが見える


彼は仲間の方に向かってゆっくりと歩いていく


彼にとって大切なもの


数々の冒険を共にした仲間たち


(僕にとって大切なもの)


仲間の笑顔が自然に浮かんできた


離れていく、アトラスの後姿を見守っているうちに、夢から現実へと引き戻された




託された『核』をしばらく見つめる


その中に内包された力は、『進化』して間もない彼を、たった一つで『進化』させる程のものだった








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