第22話 VSゴブリン・バーサーカー(中編)

「炎よ我が定めしその先に集い解き放たれ爆ぜよ エクスプロージョン」


爆炎魔法でマコの蟻塚が大きく爆ぜる


魔王の洗脳よりも、巣を守ろうとする本能がクイーンを動かした


アイアンアントの大群は、自分たちの住処を破壊する元凶を排除しようと、マコ、ツヨシ、ユウジ、アオイ、4人の居るの方向へと一斉に動き出した




「何だか俺だけ地味だ ジェットバッシュ!」


シールドバッシュの威力を『推進』の力で加速させた大楯は、数匹のアイアンアントを軽々と吹き飛ばす


今や利き手に握った戦斧よりも、威力が上がってしまった大楯


しかし、戦斧と大楯


威力は違えど、次々と繰り出され、迫りくる敵を殲滅していく事に変わりなし




「カッコいいじゃないジェットバッシュ! ようし僕も張り切っちゃうぞ!」


そう言うとユウジは戦槌を天高く掲げる


みるみるうちに魔力が膨れ上がる


姿を能わしたのは、実体化した巨大な戦槌


「吹き飛ばせ! ギガントジェットハンマー!」


魔力が超凝縮され実体化した巨槌は、ユウジの持つ実在の戦槌の動きに合わせるように、『推進』の力で、周囲にいるアイアンアントの群れを次々に薙ぎ払っていく


ツヨシの攻撃も強力なのだが、確かにこんなのを見せられれば地味だと感じてしまうのも無理はない




「激震烈風乱舞!」


アオイが振るう愛刀の刃が、キーンと言う甲高い音を発している


『推進』に加え、新たにキラーマンティスの『超振動』で高周波ブレードと化した大刀は、アイアンアントの強固な甲殻を紙の様に切り裂いていく


命名したのは。もちろんワタルだ


心技体+『固有スキル』の前に


彼女の間合いに入った者に、生き残るすべは無し




「重力を宿し宝珠よ我を守り踊れ グラビティー・オーブ」


『自立式重力防御魔法 グラビティー・オーブ』


マコを中心に、魔石から生み出した宝珠が回転を始める


その数10


一度発動すれば魔力が尽きるまで自立して動く宝珠に込められた力は『斥力』


相手を遠ざける力


彼女の一定距離まで近づいたアイアンアントへと、宝珠は迎撃を開始する


宝珠は、アイアンアントにぶつかるや否や、その衝突部は激しくへこみ、標的を遥か彼方へと吹き飛ばしていく


守りは宝珠に任せ、マコは爆炎魔法で蟻塚を続けざまに攻撃していった




アイアンアントが激しく立ち回る4人に群がっている隙に、シノブは単身アイアンアント・クイーンが居ると思われる、巣の最奥へと向かっていた


巣には未だ、多数のアイアンアントが残っていたが


『光学迷彩』『気配察知阻害』『魔力感知阻害』『熱感知阻害』『音響探知阻害』


今までに手に入れたスキルに加え、彼女が磨いてきた『隠遁の技』


ワタルに気づかせることなく背後に回り込み、浣腸を決める妙技


その真価が今発揮される!


目指すは『超個体』の頭脳であるアイアンアント・クイーン


作戦の成否は彼女の任務達成に全てがかかっていた




ワタルが対するは、巨大化したゴブリン・バーサーカー


隔てる距離は未だそれほど縮まってはいない


(さて、先ずはスリングで様子見だ!)


素早く革製の投石器に鉄球を挟み込み頭上で一回転させ一気に放つ


鉄球は付加された『推進』で加速させ猛スピードでゴブリン・バーサーカーに叩きこまれた


「グオオオオオオ!」


もはや、ゴブリンとは思えない唸り声をあげてはいるが、ダメージはほとんど与えられていないようだ


しかし、痛みのせいで確実に標的はワタルに確定されたようだ


(それでいい)




手早く、鉄球を10発ほど叩き込んだ後


(よおし、今こそ秘密兵器『アルミラージジャベリン』の出番だ!)


アイテムボックスから取り出したそれは、アルミラージの角を穂先にした投擲槍


柄は、鋼鉄製で重量を稼ぎ


投擲後に『推進』で加速させれば、威力は格段に上がる


しかし、この槍の最大の特徴は他でもない『相手の急所に向かって飛ぶ』である


穂先であるアルミラージの角に『硬度強化』を付加するついでに、気まぐれに『弱点察知』も付加してみたところ


よほどの急角度でなければ投擲後、自動的に察知した急所へと軌道修正して突き刺さるのだ


(ああ!自分の才能が怖い!)


いや、完全にまぐれ


偶然の産物である


(いけぇ 『アルミラージジャベリン』!)


渾身の力を込めて投じられた投げやりは、『推進』で加速され『弱点察知』で急所へと突き刺さった


しかし、体中を貫いた槍のどれもが、巨大に膨れ上がった皮膚、鱗、筋肉、脂肪と言ったモノたちに阻まれ急所へは届かなかった


(それでいい)




残すところ約数秒で接敵する


ワタルは大剣『オーク・スレイヤー』を両手持ちに握りしめる


しかし、このまま突進すれば、シノブでさえ反応できない攻撃が待っている


はっきり言って勝算は無い


大きすぎる実力の差を埋めるのは、『身体強化』


但し、今のワタルの耐久力の限界まで強化したとしても、バーサーカー・ゴブリンには遥かに届かない


ではどうすればいい?


答えは単純明快だった


限界以上に『身体強化』すればいい


「オーバーロードォ! 」


残像を残し加速するワタルへ、巨大な手らしきものが襲い掛かる


が、それを両断


(いける! でも思った以上に負荷が高い 『核』のインターバルまで身体が持つか?)




強力な過負荷をかければ、身体はすぐに悲鳴を上げる


『核』を吸収すれば回復するが、連続しての吸収はそれ自体が負荷となってしまう


次のインターバルまで負荷に耐えられるように、オーバーロードをコントロールしなければならない


しかも自分よりもはるかに強力な敵を相手取って


(俺に出来るのか? いや、出来る出来ないじゃない やらなきゃ!)


ワタルが奇跡に近い行為を実行しようとしたその時、運命の女神はほほ笑んだ


(・・・仕方がないですね オーバーロードのコントロール及び『核』の吸収のタイミングは私が担当します)


(マスターは、回避と攻撃に全力で集中してください)


天の声、いやアナウンサーさん登場である


今までも、彼女がいろいろと陰で助けてくれていることは薄々気が付いていた


だが、これほどはっきりと協力を申し出てくれたのは、初めてかもしれない


頼もしい助っ人の登場で、無謀と思えた作戦も光明が差した


(神様、仏様、アナウンサー様! お願いしますっ!)


(無駄話をする余裕があるなら、目の前の敵に集中してください!)


手厳しいアナウンサーさん


それも当然、一瞬のミスが命取りなのだから


(ワタル 元勇者、現在ゴブリン行きま~すっ!)


ワタルは生き残ることができるか?




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