第21話 VSゴブリン・バーサーカー(前編)

周囲は焦土と化していた


「ごめんなさい 沢山の『核』をダメにしてしまって」


すっかり燃えつき崩れ落ちる昆虫の死骸を見渡しながら、マコは残念そうに、そう言った


「それでも、『核』が残っている死骸も結構あるぞ」


死骸から摘まみ上げた『核』をマコに見せて、笑いかけるツヨシ


「いや、これだけの数を一人いやシノブと二人で討伐したのだ、称えられこそすれ、誰が責めるものか」


圧巻だなと、あたりを見渡す美麗の女剣士


「いやぁ! 僕も活躍したかったなぁ! 蟻塚では頑張るぞぉ!」


歯をキラッとさせながら、ワタルに必死に引き留められたお陰で死に損なった回復術師が今後の抱負を語る


死なない程度に頑張ってほしい


「私も頑張った」


テテテと駆け寄りワタルに抱き着いてくるシノブ


「マコモ シノブモ ホントウニ スゴイヨ ビックリシタ」


シノブの頭を優しくなでながらワタルは二人を称えた



「マコト シノブハ イマノウチニ キュウケイシテ」


「ノコリノ ミンナデ ソンショウノ スクナイ シタイヲ アイテムボックスニ カクノウシテイコウ」


このダンジョンの魔物が魔改造によって、致命傷からでも再生すると言ってもここまで燃やし尽くされては復活は無理だろう


現に、再生が始まりそうな死体は見当たらない


「カクノ トリダシハ キュウケイ シナガラ ユックリ ヤロウ」




(しかし、数が多いなマクロ機能が使えたら便利なのになぁ・・・)


マクロ機能とはオンラインゲームで採用されている簡単なプログラムのようなもの


複数の動作をボタン一つで実行したり、単純な動作を繰り返す機能の事だ


(・・・マクロ機能が実行可能になりました 起動いたしますか? YES/NO)


(え!マジ? ちなみにアイテムボックスに格納した死体から魔石を分離して保存を繰り返したりは・・・さすがに無理だよなぁ)


(当然、実行可能です 実行しますか YES/NO)


(うおおおおお!まじですかぁ! お願いしシャッス!)


(バックグラウンドで実行中です)


(アナウンスさん 頼もしい!なんだか出来る女って感じ!)


(この程度、朝飯前です)


どや顔の彼女?の顔が目に浮かぶようだ


ステータス表示や、マップ機能


ここまでオンラインゲームライクしているならばもしや、と思っていたがまさか実装されていたとは!


何だか早急に機能追加されたようなニュアンスだったが、気のせいだろう




しかし、他のメンバー曰く


「いや そんな機能は見当たらないぞ」


「ワタルだけ別仕様なんじゃない? ほら髪の毛生えないし『進化』の仕方もねぇ?」


(髪の毛関係ないわっ! 多分・・・)


「ワタル ハゲ」


「私も確認してみたがそれらしい機能は見当たらないな」


「私も見てみたけど、マクロ機能は無いみたい」


「エッ? アナウンスサンニ キイテミタラ オシエテクレタリ シナイ? 」


「アナウンスさん? ああ! レベルアップした時とかの声の事か? あれって決まった事しか言わないな」


ツヨシの言葉に、みな自分も同じだと一様に頷く


「やっぱあれじゃない? ワタル仕様なんじゃない?」


「「「「なるほど!」」」」


ワタル仕様なら仕方ないと、一同は納得しているご様子


(俺仕様って何? そこ何でみんな納得感出しまくってんの?)


と言う訳で、唯一マクロ機能所持と判明した為、昆虫の無残な死骸は全てワタルが預かる事と相成った




ようやく死体を格納し終わって一息つこうとした瞬間に『それ』は姿を現した


どうやら今まで蟻塚の裏あたりで、獲物を捕食していたようだ


体長は軽く10mを超えている肥大しきったその体からは、様々な魔物の様々の部位が、生えている


見るだけで怖気の走る不気味な姿


その体に、黒いシミのように見える部分が一カ所


よく見れば見慣れた姿形


それは、ゴブリンの頭部だった


しかし通常は緑色をしているはずのそれは真っ黒な色をしており、その赤い目がワタルたちを見つめるや、口から涎を垂らし始めた


それを合図とばかりにアイアンアント達もワタルたちを目指して動き始めた


それが決戦の始まりだった




「アレハ オレタチト オナジ ゴブリンノ カラダニ ノウヲ イショクサレタ ナレノハテダ」


魔王ショウタロウが君臨し始めて600年


その間に、挑んだ勇者、英雄、上級冒険者の数は数知れず


ワタルたちを含めその全てが瞬殺され、そのほとんどが脳を魔物に移植すると言う狂気の実験台となった


大半が拒否反応を起こして死亡


しかしその中に僅かに生き残った者たちがいた


しかし、正常に意識を保っていたのは、ワタルたち6名だけ


残りは、正気を失い生存本能と、魔王が組み込んだ命令に従う怪物と化した


闘い、殺し、喰らう


「ショウキヲ ウシナッタ ジッケンタイ 」


「 ゴブリン・バーサーカー」




「デカいのは 私が 仕留める」


『推進』で飛翔したシノブは最高速でゴブリン・バーサーカーに接敵


「っ!?」


一瞬の出来事だった


黒い影がしなりシノブへと延びたと思った瞬間


鋭い衝撃がシノブを襲い、彼女を蟻塚の壁に叩きつけた


仲間の中でも群を抜く反射神経と運動神経の持ち主であるシノブが反応できない攻撃


只では済むまい


しかし、シノブは何事もなかったように、むくりと起き上がった


衝撃を受けた瞬間


『推進』を使って衝撃の反対方向へ加速し威力を殺し


スライムの分体で背後を包みエアバッグ代わりにして、衝撃を吸収して難を逃れていた


(リアル忍者は本当に居たんだ!)


天空を飛ぶお城の存在を確信した少年のようにワタルは叫んだ




飛翔して戻ったシノブ


「あいつ デカいのに 早い そして強い」


何時も狙った獲物は瞬殺してきたシノブが、自分では仕留めきれないと撤退するほどの相手


アイアンアントの大群もどんどん近づいてきている


「アイアンアントは統率の取れた動きをしてるねぇ」


「多分クイーンが『超個体』の頭だと思う」


「頭を潰しちゃえば 楽勝なんだけどねぇ」


回復術師改め、昆虫博士のユウジが何だか頼もしい


正気を失っているゴブリン・バーサーカーの動きに合わせて来たという事は、ワタルたちを潰すべく魔王がアイアンアント・クイーンを操っているのは明白だろう




「クイーンは 私が 仕留める」


汚名を腫らさんとばかりにシノブ


頼んだと、皆が頷く


「マコハ アリヅカヲ マホウデ ハカイシテ アイアンアントヲ ヒキツケテ」


「ツヨシト ユウジ アオイハ マコノ エンゴヲ タノム」


無数のアイアンアントを引き付けるのだ、戦力は多いに越した事は無い


「オレガ ゴブリン・バーサーカーヲ ヒキツケル」


作戦は決まった後は決行するのみだ!









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る