第20話 昆虫地獄(後編)

まさに独壇場とはこの事だと、ワタルは後日振り返る事になる


「忍法ムササビの術」


マコをベルトで自身に固定したシノブが両手両足を広げると、そこには飛膜が


ワタルが用意したものではない


どうやら、スライムの分体を『硬度強化』して使っているようだ


『推進』を併用したそのスピードは、さながら最速300キロを超えるウイングスーツで滑空するが如し


(『固有スキル』併用してのオリジナル技とは・・・)


「忍法虫寄せの術」


シノブは特別な笛を使い、昆虫型モンスターたちを自分たちに向かって呼び寄せる


(え!そんなことも出来るの!?)


もうシノブに関しては何が起きても不思議ではない、とワタルは自分に言い聞かせた




「この位置で維持できる?」


マコの問いに、コクリと頷くシノブ


『推進』を駆使して空中で停止 


所謂『ホバリング』と言う状態


そう易々と出来る事ではない


ましてや、ここは戦場


たった一つのミスが死につながるのだ


だが彼女はまるで遊戯のように、彼女は籠手とブーツの任意の箇所から『推進』を発動させ、巧みに姿勢を制御している


何人たりとも真似のできない妙技


まさに天性の素質のなせる技だった


「追い縋る魔法の矢 ホーミングマジックアロー」


並列詠唱された無数の魔法の矢が、次々に飛行してくるオーガー・ビーやキラーマンティス、クラッシュホッパーに襲い掛かり、正確にその羽根を射抜いていく


致命傷を狙わず、強度の無い羽根だけを攻撃し、最小限の魔法で最大の効果を上げていく




飛来してくる魔物を全て撃墜し終えると、二人は華麗に地面に着地


まるでマコがシノブをおんぶしているようで、こんな状況なのになんだか微笑ましい


『虫寄せの術』は継続中だ


アイアンアントは蟻塚の周囲をうろついているが近づいてこない


その代わりに、最悪の敵が大挙して迫ってくる


G 奴らがやってくる、ものすごい数、そしてスピード


巨大なムカデの姿も垣間見える


「小賢しく動き這い寄る者どもよ、根こそぎその場に留まれ! セーメダイン!」



『戦術級広範囲接着魔法 セーメダイン』


対騎馬隊用に開発されたその戦術級魔法は、その効果範囲に強力な粘着物質を生成し範囲内にいる全ての対象を瞬間接着する


その恐ろしい程の接着力は、時速280キロで疾走してくるGを、強大なムカデをピタリと根こそぎその場に磔にしている



(うわぁ、ゴキブリ駆除用のあれみたい)


Gがびっしりと張り付いたそれを、想像して身震いするワタル


だが、そのスケールは桁違い


大地を埋め尽くすが如き昆虫の大群が身動きが取れず、身じろぎする光景は、異様の一言に尽きた



「七日の内に世界を燃やし尽くした古の炎よ全てを焼き払え! メギドフレイム」


『戦術級広範囲燃焼魔法 メギドフレイム』


魔法防御の手段を持たない相手であれば、一個師団をも壊滅させ得る、戦術級火炎系魔法


その威力は、ナパーム弾さえも凌ぐ威力だ



通常、数十人の魔導士で発動させる戦術級魔法


それを易々と単独で発動させている


しかも2回連続でだ


如何に『進化』したと言っても、ゴブリンには実現不可能な奇跡


それは、彼女が持つ魔力量が、如何に桁外れなのかを物語っている


こうして、羽根を射抜かれ落下した昆虫型モンスターともども巨大ムカデとGは、規格外の魔法によって焼き尽くされた




アイアンアント以外のほとんどの魔物を殲滅して帰還したシノブとマコ


「いやぁ! 二人にいいとこ全部持って行かれちゃったなぁ 残念!」


(いや全然残念じゃないから! むしろ助かりまくっちゃってるから!)


あの大群に突撃しようとするユウジを止めるのに苦労したワタルはため息をついた


「俺は、今後マコを絶対に怒らせないようにしようと思う!」


引きつった笑顔でそう宣言する、顔色が真っ青なツヨシ


それには大いに賛成だ


壮絶な殲滅シーンを見せつけられ、ワタルも終始、冷や汗が止まらなかった


「私も、たまにはいいところを見せないとね!」


ユウジとツヨシに笑顔で答えるマコ


この短い間に強くなったものだ、と感心するワタル


しかしよく見れば、彼女の足は小鹿のようにブルブルと振るえているではないか


杖に縋りつくようにして、ようやく立っていると言った状態


見るだけで嫌悪感が走る昆虫型の魔物たち


それが群がるように襲い掛かってくるのだ、怖くないわけがない


それでも心を奮い立たせて、彼女は戦っていのだ


弱かった自分自身と


「マコ ホントウニ スゴカッタヨ アリガトウ!」


「どういたしまして」


その妖艶ともいえる美しい笑顔で答えるマコは、以前の彼女とは別人の顔をしていた

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