第18話 地下8階層攻略
(やはりおかしい 明らかに僕らだけを潰しに来ている!)
本来である者同士が殺し合うはずのこのダンジョン
そのなかで、昆虫型、動物型種別を問わず連携をとってワタルたちに襲い掛かってくる
シリアスな雰囲気を漂わせるワタルだったが、ゴブリン顔に鼻栓の組み合わせがそれを無効化する
ここは地下8階層
もしここに初めて足を踏み入れた者がいたとしたら、一帯が木々で覆われた、さながら大森林の中にいると錯覚してしまうだろう
しかし次の瞬間には、通常の森とは全く違うと思い知らされる
その理由は、さながら戦場の真っ只中にいるような喧騒
そして、その者がよほどの強者でない限り、瞬殺されてしまうに違いない
この階層に来て、初戦を凌ぎ切ったワタルたちは、第二波の猛攻を受けていた
しかし前回よりも激しい凶弾の雨の中にもかかわらず
彼らには余裕さえあった
スナイパーインセクトとバレットビートルによる一斉掃射
ワタル、ツヨシ、ユウジは、大口径の銃で撃たれたような衝撃を、何度もその身に受けながらも、傷ひとつ負っていない
身に纏う鎧はバレットビートルの甲殻で出来ている
同じ強度であるならば、高速で衝突してくるバレットビートルの方が破壊力、貫通力が高い為、鎧は破壊されダメージを受けるのは自明の理
しかし両者には決定的な違いがあった、『硬度強化』の術式に込められた魔力の量だ
『硬度強化』は対象の素材などの条件によって限界は存在するが、それを超えない限り、多くの魔力を消費するほど硬度が高くなる
つまり飛来するバレットビートルのそれよりも、ワタルたちが己の鎧にそそぎこむ魔力が圧倒的に多いという事だ
言い換えれば魔力が尽きてしまえば彼らはハチの巣にされるという事になるのだが、彼らの様子を見るに、魔力が底をつくまでには、まだ相当に余裕があるようだ
それも『進化』の賜物であろう
しかし、急所以外は強化されていない皮鎧を纏っているアオイの場合はそうはいかない
いかに『進化』したとはいえ、一撃でもその身に受ければ、致命傷にはならずとも多少なりとも傷を負う
当たり所が悪ければ行動不能に陥る恐れもある
しかし彼女から焦りの感情は微塵も感じない
新たに付与された『推進』の力さえ使わず、その大振りな刀で、間合いに入った刹那
その全てを両断していた
前回は活躍の機会の無かったマコも、この度は一味違う
シャドウパンサーの毛皮で作られたマントに身を包み、先端に魔石をあしらった杖をかざし魔力を行使する
魔力が注がれ、輝く魔石に照らされたその美しい姿は、妖艶でさえあった
「暴風の嵐 ウインドボルテックス」
『進化』をへて魔力が高まり、より上位の魔石が埋め込まれた杖を介して生み出された風の防壁が彼女を包んだ
彼女の美しさとは裏腹に、その凶暴な風のアギトは彼女を傷つけようとするものを、ことごとくかみ砕いた
影から現れるシャドーパンサーも前回より数を増していたが、ワタルたちは瞬時に対処していた
『亜空間認識』で影に亜空間への入り口が出現するのを感知するや否や、必殺の臭い袋に切り込みを入れ放り込む
その強烈な臭いから逃れようと、影から這い出て来たシャドウパンサーは、
『硬度強化』で鋭さを増した戦斧で半ばまで両断され
『オーク・スレイヤー』と名付けられた大剣に上半身と下半身に分断され
『推進』で凶悪な破壊力を持った戦槌で頭を粉砕されていく
シノブ活躍は、今回も群を抜いていた
籠手とブーツに付与された『推進』の力で敵へと飛翔する
複数の弾道のその先を的確に見切ると
「『疾風手裏剣』乱れ打ち!」
全てが同時に投げられたと錯覚するほどの早さで撃ち出された手裏剣は『推進』で加速され、寸分たがわず目標を貫いた
これを繰り返す度に、砲撃はあれよあれよと言う間にその数を減らし、やがて沈黙した
しかし、第二波を乗り切ったと思ったのもつかの間、次の刺客が送り込まれてきた
スティールエイプ 体長は2mをはるかに超え、全身を覆う体毛は鋼鉄のように固く攻撃を跳ね返す
そしてその剛腕を振りかざして、相手を粉砕する
ジャイアントスパイダー 強靭な糸で相手をからめとり身動きが出来なくなった相手に卵を産み付け繁殖する巨大蜘蛛
その強靭な糸は、非常に高価で買い取られるため、挑む冒険者は多いが、その大半が行き着く先は、卵の苗床である
ストラングルスネーク 体長10mを超える巨大な蛇は、映画に登場するアナコンダを彷彿とさせる
その巨体にもかかわらず、その敏捷性は狙った獲物を逃さない
不幸にもその巨体に絡みつかれれば、その名の通り強力な力で絞殺される
インビジブル・リザード カメレオンは体の色を変化させて周囲の景色に紛れるが、この巨大トカゲは文字通り、光を屈折を利用した『光学迷彩』によって見えなくなる
相手が近づいてくると、麻痺効果のある毒針を飛ばして相手の動きを封じ込め、貪り食う
「この大猿の相手は私がしよう」
鋼の体毛を纏ったスティールエイプはアオイと相対する
目の前の相手をしり込みさせてやろうと、空気が震えんばかりの叫びをあげる
しかしアオイは『威圧の咆哮』を受けてもどこ吹く風とばかり
いやそればかりかニヤリと笑みを浮かべ
「弱い奴ほど、よく吠える」
その言葉の意味を知ってか知らずか、ゴリラのドラミングよろしく威嚇するようにその筋肉の塊のような胸を剛腕で激しく打ち付け・・・
「烈風乱舞!」
『推進』の力で加速した斬撃の嵐に、全く身動きが取れず、切り刻まれた
技の命名はもちろん彼女ではない、中二病を完全に再発させたワタルに押し切られつけられた名前であったが、スティールエイプを瞬殺したアオイはなんだか嬉しそうだ
ジャイアントスパイダーと対するはマコ
強靭な糸が彼女に絡みつかんとするも
「風の刃 ウインドカッター!」
容易く断ち切り
彼女の真骨頂が炸裂
「地獄の業火 ヘルファイア!」
ジャイアントスパイダーは地獄の炎に焼き尽くされた
ストラングルスネークはユウジに狙いを定めた
イケメン狙いだ!いや違うか?
彼を絞殺さんと、素早く飛び掛かり
「ワタルに負けないように、僕もカッコいい技名を考えてみたんだ!」
「ジェットハンマー!」
(う~ん・・・ 45点!)
ネーミングの採点はあまり高くなかったが、ストラングルスネークは相手を締め付ける事も叶わず
まさしくジェット噴射の如き『推進』で加速された戦槌で頭を粉砕された
インビジブル・リザードは、『光学迷彩』を使い、攻撃の隙を伺っていた
狙うは一番弱そうに見える小さな少女
だが、その判断は全くの誤りだ
音もなく射程距離まで近づき、標的に毒針を撃ち込む
なんと毒針は彼女にささってしまった!
だが、インビジブル・リザードが麻痺した相手に食らいつかんとしたその瞬間
どろりと少女はその形を崩し液状となる
「忍法 変わり身の術」
スライムの『固有スキル』が彼女にかかれば、一流のマジシャンも真っ青なイリュージョンに早変わりする
反射的に声がする方向に舌を向けて、毒針を撃ち出そうとするも
「『疾風手裏剣』乱れ打ち!」
その名に恥じぬ疾風の如き早さで撃ち出された手裏剣に、ぎょろぎょろと動く両目を射貫かれ、舌を切断される
視力を奪われ暗闇の中
短刀でのど元を切り裂かれたトカゲは、一番手を出してはいけない相手を選んでしまった事に気づくこともなく事切れた
そして、ワタルとツヨシの出番は無かった
その後も同様の攻撃が繰り返されたがその後も、危なげなく撃破していく
地下8階層の攻略も終盤に差し掛かり、束の間のの休息をとるワタルたち
「どうなる事かと思ったが、何とかなりそうだな」
「次は俺もベヒモスむぐぅ!」
ツヨシの口をふさぎワタルはフラグ発生を阻止した
この調子ならば、次の階層もなんとかなる
そう思っていた
だが、彼らは知らなかった
それが地下7階層にいる事に
それは、その血走った目に映る全ての魔物に襲い掛かり、『核』どころかその全てを喰らい尽くし、ひたすらに強く大きくなっていった
もはや、殆ど原形を留めておらず、巨大に膨れ上がった体躯
唯一面影を残すのは、真赤な眼光に黒い頭
よくみればそれは、本来は緑色であるはずのゴブリンの頭部だった
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