第17話 秘密兵器

グレート・ゴブリンへと『進化』したワタルたちは強くなった


魔物の危険度としてはCランク


それは銀等級冒険者と対等に戦える戦闘力を持つという事


その彼らがパーティーとなって戦うのだからかなりの脅威だ


かと言って、町を壊滅させたり、冒険者を襲う気は毛頭ないが


ワタルは、仲間たちが強くなった分、それに見合うよう、装備を強化し始める




ツヨシには、


鎖帷子の上に、『硬度強化』が付与されたバレットビートルの甲殻を張り合わせたフルプレートアーマー


前回の戦闘のような急ごしらえではなく、面当てもしっかりと取り付けられた


その鎧は、金属のそれよりも、はるかに軽く、魔力を巡らせれば鋼よりも固くなる


大楯は、鋼を本体とし、甲殻を張り合わせた


本来楯とは、守りに使うもの


だが、楯で殴るだけで敵に大ダメージを与えられる、それほどの重量と強固さを誇る


戦斧にも『硬度強化』を付与し破壊力をアップさせている


「よおし! これなら、ベヒモスの突進だって止められそうだ!」


ふんすっと大楯を構えて、ニカッと笑いかけてくるツヨシだったが


(辞めてっ!そう言うフラグ立てるの!)


旧約聖書に登場するような大型怪獣が出てこないことを、ただただ祈るワタルだった




アオイには、


その増強された筋力に合わせて、刀の大きさを変えた


巌流 佐々木小次郎の愛刀【物干し竿】ほどの長さは無いが、その刃の太さと重量は、それの遥かに上を行く


そしてこの刀には『推進』の術式を付加していた


刃の峰から発せられるジェット噴射の如き『推進』力は、彼女の斬撃を更なる高みへと押し上げる


初めて使う、その荒れ狂うような強烈な力を、高まった身体能力と、今まで積み上げた技とでねじ伏せる


その斬撃は直接触れずとも、生ずる真空の刃で相手を切り裂く


しかし、ワタルはその剣技ではなく、二つの物体の動きに目を奪われていた


(す、すごい動きだ! うわぁ! 凄い! 凄すぎる!)


強化された愛刀の性能に満足し、流れるような動きで刃を鞘に納めると


「どうだ、初めて使うにしては中々の動きだっただろう?」


(エッ!? アアアア! ウン! スッゴイ ウゴキダッタヨ!)


二人の差しているのは全く別の物であったが、それが知れればワタルは刀の錆になるのは確実


冷や汗が止まらなかった


胸当て、籠手、脛あて、額当てを甲殻で作った『硬度強化』の付与も忘れない


これで、動きが阻害されずに防御力を高めることが出来た


だからこれで許してほしい!と心の中で許しを請うワタルであった




ユウジには


ツヨシと同じく鎖帷子の上に、『硬度強化』が付与されたバレットビートルの甲殻を張り合わせたフルプレートアーマー


手には腕に固定する小型の盾を、素材は鋼にバレットビートルの甲殻


見た目はほとんど体格が変わっていないユウジも筋力は上がっている


まさに完全武装のこれらの装備を身に纏っても動きに問題はなさそうだ


「アオイいいなぁ・・・ 僕もああいうのが欲しいよ! 頼むよワタル!」


アオイの刀に付加された『推進』の力が気に入った彼は、ワタルに自分の武器にも付加してくれとせがんできた


そこでメイスから『変形』させた戦槌に『推進』の術式を付与したところ


大岩を軽々と砕く、まさに凶器へと変貌した


大満足とばかりに歯をキラッとさせて笑顔を向けてくるユウジ


しかしワタルは、これで叩き潰されると思うと、魔物が気の毒とさえ思えてくるのだった




シノブには、


鎖帷子と皮鎧はそのままに


バレットビートルの甲殻で作った籠手と脛あてをつけたて強化したブーツ、額当てを新調した


特に籠手とブーツには『硬度強化』に加えて、『推進』の術式が付加されている


その性能を彼女は、ワタルの想像をはるかに超えて発揮してみせた


彼女は飛んだ!


その様子を見て、メンバー一同、終始開いた口が塞がらない始末


自慢の短刀を手に、両足で『推進』を発動した彼女は空高く飛び上がり、両手と両足に付加された4つの推進機関を巧みに操り、空中を自在に飛翔する


とても初めて使う装備とは思えない


その性能たるや、生物界最高の飛行能力を持つと言われるトンボもかくや、と言っても過言ではないだろう


急停止はもとより、飛んだままでの空中静止、急速な方向転換、急加速も自由自在


魔力の限界で長時間の飛行は無理であるが、その体格と身体能力を生かし、彼女は空をも制したのだ


パーティー最強は、実はこの小さな少女ではなかろうかとワタルは思う




マコには、


マントをシャドーパンサーの毛皮に『変質』させ『魔力認識疎外』を付加した


フード付きに『変形』改造


なによりシャドーパンサーの艶のある毛並みのマントは彼女によく似合っていた


メンバー全員に羨ましいだの似合っているだのと誉めそやされ、顔を真っ赤にして照れた彼女を見て、自分は彼女の心を少しは癒せているのだろうか?


それならば嬉しいと思う


マントの下にはアオイと同じく、急所を甲殻で強化した皮鎧を着てもらう


金属を使わず防御力をあげられる事は、魔導士であるマコにはメリットが大きい


杖の『核』は、スナイパーインセクトのものと変えたところ魔力制御と増幅の性能が格段に上がったと喜んでもらえた


そして彼女にはもう一つ


彼女にしか扱えないであろう、とっておきの秘密兵器を渡してある




ワタル自身は、


バレットビートルのフルプレートアーマーと盾


『硬度強化』を付与された「オーク・スレイヤー」は


筋力に合わせて大剣と言っても過言ではない大きさとなった


(でも、僕あんまり戦闘面では活躍できてないんだよねぇ)


だが、自分が活躍出来ることよりも、仲間の躍進に一役買えるようになった自分が何よりも嬉しい




遠距離武器は、スリング本体ではなく、その弾となる鉄球に『推進』を付加し、錬成しなおした


結構な数だったので、これが一番苦労したかもしれない


シノブ専用武器『手裏剣』も『推進』を付与され、新生『疾風手裏剣』と使用者自らによって名付けられた




仲間の力も武器もグレートに強化された


だが、油断はできない、とワタルは気を引き締める


何せここは、あの魔王が創り出したダンジョン


『蟲毒の壺』なのだから


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