第10話 忍者見参

まさに鬼に金棒


ツヨシとワタルのタッグは連戦連勝


オークの強烈な大戦斧の一撃をツヨシの大楯が受け止め


その隙を縫ってワタルの『オーク・スレイヤー』がオークへと炸裂する


剣先を幅広にしたその剣を両手持ちで振るえば、いかに屈強なオークと言えどもただでは済まない


彼らの標準装備と言える鎖帷子もろとも厚い脂肪と筋肉に守られた肉体をその半ばまで切断する


そう、彼の持つ剣は名実ともに『オークを狩る者』であった




「装備が違うと、こうまで戦いが楽になるものなんだな」


オークの大戦斧をものともしない大楯を、掲げて見せながら満足げに笑うツヨシ


たった一度の戦闘でボロボロになる盾と鎧と比べれば、その違いは歴然なのだろう


自分の『固有スキル』が役に立って嬉しかった


オークの『核』を吸収しながら、ワタルは頼もしい騎士に笑みを返す


二人は、これから合流するであろう仲間の為に、ストックを貯めたながら、交互に『核』を吸収していた


吸収されるとき核は粒子になって体内に吸収されるが、アルミラージやコボルトの時よりも、更に強い輝きを放っている


より強い力を内包している証だ


確かに戦いは驚くほど楽になった


装備の違いもある確かにあるが、ツヨシの技量の高さも相当なものだ


ワタルが同じ盾を装備しても、オークの大戦斧の嵐の如き一撃に、叩き飛ばされること請け合いだ


ホブゴブリンに姿を変えられ、以前のスキルを無くしても失われない、彼の戦いの中で積み重ねて来たものは、今もなお彼の中で息づいているのだ


ツーマンセルになった事も、戦いを有利にしている


ツヨシが大楯で相手の攻撃を防ぎ、ワタルが『オーク・スレイヤー』で攻める


敵がワタルに意識を向ければ、ツヨシの斧が叩き込まれる


出会った相手はすべてが敵


タイマンが基本のこのダンジョンで、パーティーを組める強みは魔王も織り込み済みのはずなのだが


それも分かったうえで、高みの見物を決め込んでいるのかもしれない


(まぁ答えの出ない事をあれこれ考えても時間の無駄だな)


ワタルたちは捜索を再開した


二人はまだ気づいていない


しばらく前から彼らの後を追い、観察するように見つめるその視線に




地下9階層ここにはオークよりも厄介な相手がいる


それは何とスライムである


スライムは、主人公である勇者の末裔が、悪の親玉である竜王を倒す、某ロールプレイングゲームが大ヒットしたことで、知らぬ者はいないと言っても過言ではない、有名なモンスターだ


ゲーム中では、初めて戦うことになる最弱のモンスター


しかし、この世界ではかなり強い、と言うよりも冒険者が相手にしたがらないと言った方が正しい


まず物理攻撃がほとんど効かない


これだけで魔法が使えない者は詰む


『核』を破壊すれば仕留められるが、的が小さい上に、近づけば『酸』を噴き出してくる


服だけを溶かすとか言う、男子が喜びそうな設定ではない、まともに浴びれば死ぬほどの『強酸』だ


動きがそれほど早くない為、逃げ切ることは可能


なにせ自身のダメージに加え、装備を溶かされるのは、ダンジョン内では死活問題


よほどの必要性がない以外は、手を出さない、出したくないと言う訳だ




しかし、この二人には関係が無かった


「よし、『核』を奪ったぞ!」


「しかし、いくら回復できるとは言え、酸で溶かされるのはきついな」


そう言いつつ、酸で溶かされジュウジュウ煙をあげながら、笑顔で『核』を渡してくるツヨシ


『酸耐性』のスキルを手に入れているので溶けているのは装備がほとんどだが、肉体にもダメージはあるはずなのだが


(しかし、相変わらずタフだなツヨシは)


『修理 リペア』でツヨシの傷と装備を回復させながら、ワタルは苦笑いを浮かべるしかなかった




地下9階層は、地下10階層よりもはるかに広い


今までかなりの戦闘を重ね、着実に地図を埋めていっているはずなのに、他の仲間を見つけられていない


嫌な予感が頭をよぎるが、それを振り払い探索を続けけようと、ツヨシに声をかけようとしたその時であった


(うっ! この痛みは!!!)


鋭い痛みがワタルの身体を突き抜ける


この世界に来て色んな痛みを味わったが、これはそのどれでもない懐かしい痛み


と言ってもワタルはMでは無い! 断じて!


振り向くと、小さな影がワタルを見つめて立っていた


「ジノブ? ジノブガ?」


影は答えず、ワタルに抱き着いてきた


何時も、気配を感じさせず背後に忍び寄りワタルに浣腸を決めては、どや顔を見せつけてくる小柄な少女


『忍者の末裔』を自称する寡黙な少女


(ゴブリンになっても、変わんないなシノブ)


シノブはワタルにとって、妹みたいな存在だ


魔物の姿になっても、かわいらしい彼女頭をなでてみる


彼女は、まるで花が咲いたように笑顔を浮かべた


「おおおお! シノブ!会いたかった! 無事でよかった! ううううっ!」


ツヨシなど、普段のタフさが信じられないほど顔を歪ませ、号泣してワタルとツヨシを包むように抱き寄せてきた


しかしその再開の喜びもつかの間、彼女は突然気を失った


まるで張り詰めた糸が切れるように


よく見ると、装備がほとんどが溶け落ちてしまっている




「うおおおおおおおおおおおお! シノブううううううううう!」


「ボウズゴジノ ジンボウ ダガラナ!」


そこから二人はツヨシのセーフハウスまで全力疾走した


途中魔物に遭遇するも、その全てを、火事場のクソ力よろしく大楯で吹き飛ばしていく!


ツヨシの勢いは誰にも止められない!


その後を、シノブを抱えたワタルが遅れてなるものかと必死に縋り付く


セーフハウスに到着した二人はシノブをベッドに寝かせ、祈るように彼女の覚醒を待つ


その祈りが通じたのか


しばらくして、シノブは目を覚ました


ワタルとツヨシは某栄養ドリンクのCMのワンシーンのようにガシッと手を組みニカっと笑い合った


「部屋で目が覚めた 外に出た 戦った スライム 溶けた 装備」


「ずっと隠れて 歩いた そしたら見つけた ワタル ツヨシ だから 浣腸した!」


ふんふん! なるほど!なるほど!



たどたどしい彼女の話を、一言も聞き逃すまいと、目を皿のように見開き聞き入るワタルとツヨシの二人


どうやら初戦でスライムに挑んで装備が溶けてしまい、それ以来、隠れながらあたりを探索していたらしい


敵に気配を悟らせない生粋の隠形術を体得している彼女だから今まで無事でいられたのだろう


『自称忍者の末裔』は伊達ではなかった


本当に末裔なのかもしれない




彼女の戦闘力なら、オークでも仕留められそうなものだが、如何せん装備が無ければそれも叶わず


『核』の吸収もできなかったので、随分と衰弱している


ワタルは、アイテムボックスから、取り置きしていた『核』を取り出して、急いでシノブに吸収させた


元気を取り戻した彼女に、体格に合わせ『変形』させたオークの鎖帷子を渡してやると、大はしゃぎして喜んでくれた


やはり忍者は鎖帷子が必須要素のようだ


忍者装束は作れないので申し訳なかったが、鎧の表面が光ると『隠形』に支障が出るので、皮鎧をサイズダウンして、鎖帷子の上から装備してもらった


短刀は、ゴブリンの小剣をさらにサイズダウンして、彼女の手に合うように修正したものを使ってもらうことにした


遠距離武器は、スリングの代わりに、剣を分割して『変形』させた特製の手裏剣を献上したところ、これも大層喜んでいただけた


勇者の一行として旅をしていた頃、彼女は滅多に表情を表に出さなかった


こんなにも笑顔が零れるのはやはり、気づけば魔物の姿にされ、戦うすべもない孤独との闘いから解放された喜びからだろう


そう思うと、他の仲間とも早く合流せねばと、3人で捜索を再開することにした

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