第9話 騎士との遭遇

(ここが 地下9階層か)


魔王チュートリアルの説明では、このダンジョンは全10階層


通常のダンジョンは地上に入り口があり、階層が深くなる毎に強い魔物が徘徊し、仕掛けられている罠も危険度が増す


しかし、魔王が実験場『蟲毒の壺』として用意したこのダンジョンは、趣が全く異なっている


最下層が一番安全度が高く、階層が地上に近づくほど強力な魔物が徘徊し、危険度が増すのだ


しかも戦うのは、冒険者と魔物ではなく、魔物同士


魔物同士を殺し合わせるのが目的の為、罠の類は仕掛けられていないのが唯一の救いか


その一番安全度が高いはずの最下層で死にかけたワタル


そこは最弱モンスターであるゴブリンの身体にされてしまったのだ


仕方がない・・・と思いたい


ワタルが目覚めたのは最下層の地下10階層


つまり『上層』である9階層は、今まで戦ってきたアルミラージやコボルト以上に強いモンスターが存在しているという事だ


(気を引き締めて行かないと)


『嗅覚強化』を発動し周囲を警戒しながら通路を進んでいく


通路の材質は石材、壁が仄かに光っているところも通路の幅も高さも、今のところ地下10階層と変わらない


どれくらい進んだだろう


嗅覚センサーに反応があった


今まで嗅いだことの無い臭い


(む!『オーク・スレイヤー』が反応している!? オークか?)


『オーク・スレイヤー』にそのような機能はもちろん無い


ただワタルの感は外れてはいなかった


臭いの元を辿って目標へ近づいていくと、にわかに騒がしくなる


激しく金属がぶつかり合う音


(お! やり合ってるな!)


アルミラージとコボルトの時のように漁夫の利が狙えるかもと、足音を忍ばせ剣戟が鳴り響いているその場所へと近づいていく




そこにはオークがいた、そしてもう一体


緑色をした魔物


(うわぁ! ゴブリンだ!)


喜んでから、はたと気づいた


ゴブリンは同族だが、このダンジョン内はバトルロイヤル


出会う者、全てが殺し合う敵


しかもワタルは頭の中身は人である


(あれ? 俺もうゴブリンになりかけてた?)


昔見たアニメのワンシーンみたいだわぁ、と思いながら、息を殺して注意深く戦いを見守る


気づかれれば自分が先に、二体の標的になりかねない


どうやらオークが優勢のようだ、それもそのはず、まず装備に差がある


オークは鎖帷子を身に着けており、金属で補強された盾 そして大きな戦斧


かたやゴブリンの方は皮鎧に木製の盾に、剣だけは鋼で出来ているようで唯一対等に渡り合える装備のようだ


体格はオークが頭一つ高いがゴブリンも人の大人と同じ程度の高さがありガタイがいい


(ホブゴブリンかよ!)


しかも、なんだかゴブリンの癖に何だかカッコいいのだ


特に顔


悔しいくらいに精悍な顔立ちだ


(ん? 何だろう誰かに似てるような気が)


精悍な顔立ち、盾を構える立ち振る舞い、劣勢にもかかわらず勇敢に立ち向かうその背中を眺めていると、彼の事を思い出す




気が付いたら叫んでいた


かつて共に戦った仲間の名前を


「ウオオィ! ヅヨシッ! オバエ ヅヨシダドウ!?」


激しく打ち合っていた二体が思いがけない叫び声に応えて同時に振り向く


間違いかもしれない、そうなればホブゴブリンとオーク二体に襲われて自分は死ぬかもしれない


それでも何故か叫ばずにはいられなかった


オークの方は、戦いの邪魔をされたのが不愉快とでも言うように、敵対の視線をワタルに向けて咆哮をあげた


しかしホブゴブリンの方は、まるで今までの戦いが嘘だったかのように、満面の笑みを浮かべてこう言った


「おおお! ワタル! そうか! やっぱり生きてたんだな!」


(えっ!? アイツめっちゃ流ちょうにしゃべってんぞ! てか、一瞬で俺だって分かったの?)


刹那に気付いてくれたのは嬉しい反面


(俺って元々ゴブリンっぽい顔だったっけ?)


ツヨシと違い、思いっきりゴブリン顔の自分なのに、とちょっとショックだった


(っと、そんな悠長なこと考えてる場合じゃねぇな!)


ツヨシの声を耳にした時、手にはすでにスリングが握られていた


慣れた手つきで鉄球を装填、頭上で力強く振り回しをオークめがけて放つ


鉄球は強烈な勢いで飛び、オークに回避の行動をとる隙も与えず、片目へとめり込んだ


コボルトの頭を吹き飛ばした鉄球も、オークを即死させるには至らない


流石は、熟練の冒険者でさえ警戒するほどの生命力の高さ


それでも怒りの矛先を、ワタルに向けるくらいには効果があった


「ふんっ!」


まるでその行動が分かっていたかのように、ツヨシはいつの間にか盾を手放しており、両手で構えた剣を大きく振りかぶって、全力でオークへと刃を叩き込んだ


オークは首を斬り飛ばされその場に倒れこむ


まさに阿吽の呼吸




二人は、再会を喜び合った


姿こそ魔物の姿に変わってしまったが、いや外見こそ変わってしまっても、その心の中はちっとも変わっていない


「情けないところを見せてしまったな くっ! 」


痛みにうめくツヨシは、まさに満身創痍と言った状態


オークとの激闘で多くの傷を負い、装備もボロボロ


(良くこの装備でオークとやり合えたな)


流石はツヨシ、と感心しながら、先ずはやらなければならない仕事を片付ける


オークの装備をはがし、その体内から『核』を取り出し


「スグオバル マバリヲ ゲイカイ シデイデクレ」


そう、たどたどしくツヨシに告げオークの『核』を『走査』する


「おお! なんだその眼は!? おおお! なんだその赤い光!? さすがワタルだな!」


(あ! うん 俺もビックリした 最初)


かつての自分を思い出し懐かしんでいると


(『固有スキル』『斧技』『盾防御』『耐久性強化』が手に入りました やりましたね!)


(おお! 『固有スキル』3つ持ちかよ すげぇな! ツヨシにうってつけのスキルじゃん! ん!? やりましたね?)


疑問がよぎったが、緊急にやっておかないといけないことがあるので、今はスルーして


「コレ スグニ キュウシュウ シトケ」


ツヨシに『核』を投げて渡す


投げたのはそうしないと「これはツヨシのものだ」とか言って彼が受け取らないからだ


「うっ! すまないな」


おっかなびっくり『核』を受け取り、吸収するとツヨシの傷は急速に癒されてた


次は、と皮鎧を『修理 リペア』で修理し


「ゲンド ダデハ コデヲ ヅカガエ」


予備としてアイテムボックスに入れておいたコボルトの剣と鋼で強化した盾を手渡す


「おお! 装備の修理も出来るのか凄いな! それにこの盾は鋼か? さすがワタル!」


「さすがワタル!」を連呼されなんだか照れくさい


それよりも今は、一旦体勢を立て直したいところ


「ドゴガ アンデンナ バジョハ アドゥガ?」


「それなら俺が目覚めた部屋がある そこなら安全だ」


急いで倒したオークの死体と装備をアイテムボックスに格納してその場を離れる


騒ぎを聞きつけて、他の魔物が現れたら面倒だ


ツヨシに部屋へと案内してもらい、お互いのこれまでを報告し合う


何かあったら直ぐに報告、連絡、相談


報連相これは大事!


ツヨシの話によると、この部屋で目覚め、探索を開始した


「他の仲間もいるんじゃないかと思って、戦闘はなるべく避けて捜索してたんだ」


自分は、生きることで必死になっていた頃、ツヨシは仲間を思って駆けずり回っていたのだ


(やっぱり、こいつはすごい奴だ)


しかし長期間『核』を補給していなかった為、体力が低下し始めたので、やむなく戦うことにしたらしい


「いやぁ ツヨシが来てくれなかったら危なかった! アハハハハ!」


(あれだけの死闘を繰り広げておいて笑えるって どんだけの胆力だよ!)


「まぁ お前が来てくれたから、もう安心だ!」


(しかし、やけに俺への信頼度が高いんだが、そんなに俺頼りにならないよ?)


(まぁ今なら、前よりは役に立てるようになれたかな)


もう仲間に頼りっぱなしの『能無し勇者』では無い・・・と思いたい


それにしても驚いたのは、ツヨシは目覚めた時からホブゴブリンだったらしい


(マジかよ! 俺あんなに苦労して 失神するほど痛い目にあってやっと『進化』したのに)


だが、地下9階層から、装備はワタルと同クオリティーでスタートとは、イージーなのかハードモードなのかよく分からない




ツヨシが思いついたように、他の仲間もこの階層にいる可能性が高い


(だが、ツヨシのように戦闘力がある、シノブとアオイはいいとして)


(ユウジとマコは心配だな・・・早く見つけないと)


取りあえずツヨシの装備を強化することに全力を挙げた


予備の強化済み鎧と兜を『錬成』して、ツヨシの体形に合わせて『変形』を行い微調整を行った


武器は、オークの斧を『錬成』して、少し『変形』でサイズダウンして何度も素振りしてもらいバランス調整


盾は手渡した盾を『錬成』して、彼が以前愛用していた大楯と同じ形状とサイズに『変形』させた


最前衛のツヨシには使用頻度は低そうだが、スリングと鉄球も手渡しておく


光り輝く鋼の鎧と大楯装備し、手になじむ大きさと重さに調節された戦斧を手にして、満足げにほほ笑むツヨシ


その精悍な顔立ち


同じホブゴブリンとは思えない


(何故だ・・・納得がいかない)


「ギニイッデ ヨガッダ」


(しかも、なんで俺だけまともにしゃべれないんだよ! 納得いかない!)


(魔王マジ殺す!)


この光景を眺めて笑い転げている魔王の幻影が見えた気がして殺意が沸いてくる


納得はいかないが、頼もしい仲間が一人増えて、2倍どころではない戦力アップ


しかも、他の仲間とも合流できれば、さらに戦力は増す


「ヨジ! デハ ホガノヤヅラヲ ザガジニ ジュッパヅ ジヨウ!」


「頼もしいな! さすがワタル!」


殺気で戦闘力がアップしたワタル


『固有スキル』取得にパワー補給、更に、装備が一新され闘志が漲るツヨシ


ホブゴブリン二体の快進撃が始まる!



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