8月 全中準々決勝 ー城開墾対徳沢ー 後編
やがて第2Qも終わると、会場中がようやく「城開墾5番の決定率…」と聖の能力に気付き始めた。
現在、徳沢38点対城開墾57点。序盤とは打って変わった、城開墾の優勢。
「…水島、聖の対策、見付けた?」
「何となくな。ただ…アイツの弱点を突いただけじゃ、城開墾には勝てねえ。…城開墾は他の学校よりも圧倒的に情報が少ねえ。傾向とか強みもまだ未知数だけどな…」
「…うん。私にも、これだけは分かる。能力値が桁違い。徳沢には悪いけど、凡人相手には到底…」
水島の言葉に続くように呟くと、静かに目下のコートを…ベンチに座る少年達を見下ろした。
城開墾も徳沢も、それぞれただならぬ雰囲気を漂わせて監督の話に耳を傾けているけど…無言で水分を補給する覚の口元には、戦況とは裏腹に小さな笑みが浮かべられている。
(…あの笑顔…)
それは、まだ大阪にいた頃…自分よりも格上の相手に挑む時の覚と同じ表情で。
…覚は、この状況を楽しんでいる。もしかしたら負けてしまうかもしれない、中学最後になってしまうかもしれないこの試合を。
「…アイツも、結局は俺達と一緒なんだな」
ふと、水島の隣で、神嶋がポツリと呟いた。
「怪童だの天才だの謳われても、絶対に妥協しないで…むしろ上だけを見て練習を積んで来た。5月の練習試合でもかなり厄介だったのに、今では桁違いに強くなってるからな…。…それに、今のアイツは絶対に海皇と戦いたいんだろ。3年ぶりに再会した幼馴染に、『全国大会でリベンジする』って約束したからな」
「あ…」
頭の片隅を何かがよぎって、私は弾かれたようにベンチの覚を見た。
客席とコートを通して、確かに絡み合う私達の視線。…目が合った事に驚く私に、怪童は昔と変わらない笑顔でニッと笑いかけた。
「…絶対、勝ってね。覚」
祈るような小さな呟きは、試合開始を告げる観衆の声に溶けて消えた。
第3Qは、53対72と徳沢がリードを許す形で幕を閉じた。
そして、第4Qが始まろうとした時…コートに入った城開墾のSGを見て、観客席が一瞬だけざわめいた。
「あれ…?」
「…桜里か…」
「もう第4Qだぞ…今更何で出て来たんだよ」
水島の舌打ちを横目に流して、私はコートを駆ける城開墾の4番をじっと見つめた。
第3Qまで暴れ回っていた聖と入れ替わりに、突如現れた新鋭の主将。涼しげな表情からは何も読み取れないけど、その真っ直ぐな瞳は、敵を…覚を、ただ睨んでいる。
「煉!」
ゴール下のCが彼にパスを回すと、その前に立ちはだかるのは徳沢の4番。
桜里は少しの間レッグスルーで対峙していたけど…素早く3度フェイクを掛けて覚を抜き去り、ハーフコートライン上で高く跳び上がった。
高い天井に、半円をなぞって飛ぶボール。綺麗に描かれた弧を辿って行けば、その先で待ち構えているのは…。
「…蘭堂、この事知ってたのか?」
「…黙っててごめん。でも…私だって信じられなかったから。開校2年目の新鋭校が、公立最強校に匹敵する力を持ってたのは気付いてた。そして去年、アメリカ仕込みのPFが加入して…。…聖は全てのシュートを決めるエースだけど、彼は、桜里は…」
私が言葉を切ったその直後、それまで宙を舞っていたボールが音も無くネットに吸い込まれた。
「…ハーフコート。その中に限るけど、どこからでもシュートを決める事が出来る」
海皇中学バスケ部日誌 槻坂凪桜 @CalmCherry
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。海皇中学バスケ部日誌の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます