5月7日 3
48対51。
…前半が、終わった。
歓喜の声を上げる徳沢とは対称的に、コートから戻って来た5人は、誰も何も言葉を発さなかった。
こちらの予想通り、怪童は第2Qで終始暴れまくり、遂には残り数秒で海皇の得点を上回った。そして、向こうの5番がジャンプシュートでブザービーターを決め、前半戦は幕を閉じた。
…久しぶりに感じた、敗北の危機。王者としての威厳が、公立最強校によって崩されようとしている。
海皇側に流れる気まずい沈黙を打ち破ったのは、不動の発した「水島」の一言だった。
「徳沢の傾向と我妻攻略、掴めて来ただろ?」
「…ああ。最初に話した通り、徳沢は基本的に我妻を主軸にOFとDFを展開してる。OFの時は、特に5番…さっきブザービーター決めたSFとの速攻、DFの時は8番のCと主力を抑える事が多い、ってとこか。攻略手段なあ…まあ、ボールを持たせないのが一番だろ。もしくはパスしか出来なくなるように追い込むとか。…正直、向こうの決定率は、我妻が優れているだけだ。それ以外はほかの学校と同じくらいだけどな…いや、やっぱりDFは侮れねえから注意ってとこだな」
水島の手短な説明に頷くと、メンバーは控え部員の差し出したドリンクを各自喉に流し込んだ。回復に努める彼らを見渡すと、私は徳沢のベンチに黙って目を移す。
…ふと、こちらを見た覚と目が合った。
驚いて少し目を見開いたけど、ぶつかった視線は一瞬で逸らされてしまう。
「心配すんな」と、水島が言った。
「俺達は絶対負けねえ、何たって全国最強だからな。…何が何でも、他の学校には負けれねえよ」
こちらを見る事の無い彼の言葉に、私は少しだけ笑って頷いた。
…思い返せば、どんなに苦しい試合でも彼らは勝って来ていた。大差をつけられたり、天才的な選手を前にしても、彼らは怯む事無く攻め続け、幾度となく逆転を飾った。
相手が強豪だとか弱小だとか、そんなの関係ない。ただ自分たちのバスケを突き詰めて、その上で『勝つ』ための強さを探しているんだから。
『これより、第3Qを始めます』
アナウンスに呼ばれて、10人はゆっくりとコートへと歩んで行く。ちらり、と覚の顔を見やると、彼はまるで好敵手に出会ったような、楽し気な笑みを浮かべていた。
…そうだ。彼は、自分より強い相手との対戦が昔から大好きだった。
目を輝かせて、楽しそうに笑って、夢中でボールを追って…。…そう、今みたいに。
ボールがコートに放たれ、第3Qの幕開けを告げた。
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