5月7日 徳沢中学校大体育館
そして遂に迎えた5月7日、練習試合当日。徳沢中学校大体育館にて、海皇選手達は緊張した面持ちで自らの身体を温めていた。覚を初めとする徳沢の選手達は、まだ姿を現していない。試合開始まであと20分だが、いないとなるとどこか別の場所でアップをとっているのか…。
「蘭堂、来たぞ」
声を掛けられてふと振り向くと、目に入って来たのは、徳沢のユニフォームに身を包んだ大柄な少年がちょうど体育館に入って来る姿。…徳沢が擁する怪童、我妻覚だ。噂で聞いていたよりもずっと威圧感があって、異形のようにも見える。
「…お前は……」
海皇の面々を見渡していた視線を私に向けると、彼はどこか驚いたように零す。…そうだ、この表情も変わっていない。意識して見ると、表情は全て幼い頃のまま。…でも。
「…蘭堂藍。海皇中学校のチーフマネージャーや。そして、昔の名だと『紫藤藍』。…覚、久しぶりやな」
…そう。今の私は、海皇中学校側の一人。徳沢の覚とはもう敵で、昔のように一緒にいる事は出来ない。
「…お前やないかとは思うとった。せやけど、ほんまに藍やってん…。信じられへん」
「せやね、ウチもやわ。…そして、今は敵やで。覚、悪いけど…今回勝つのは海皇や」
私の掲げた宣戦布告に、覚は「…やれるもんならな」と口先だけで笑う。やがて、覚が徳沢側のベンチに戻ると、私も駆け足で海皇陣営に戻った。
「徳沢は、190cmのC、187cmのPFを中心にOFとDFを展開して来る。で、一番厄介なのは、徳沢は敵の主力に対して執拗にDFを展開するってトコ。まあ誰を主力って見るのかは分かんねえけど、DFには注意な」
水島の簡潔な指示にコクリと頷くと、メンバー達は直後に流れた『整列して下さい』のアナウンスを聞いてコート中央へと歩いて行った。
ハーフコートラインを挟んで、10人の猛者たちが対峙する。
…両者とも、顔を合わせるのは今日が初めて。全国王者と公立最強、どちらも生半可な相手ではないはず、なのに…。選手達は戦意を喪失させるどころか、待ち望むような薄ら笑いすら浮かべていた。
「これから、海皇中学校対徳沢中学校の練習試合を始めます」
『宜しくお願いします!』
重なった力強い声が、広い体育館に残響を残す。
この戦いを制するのは、黄宮率いる全国王者か。それとも、怪童・我妻率いる公立最強か。
バスケットボールが宙を舞い、最強の矛の激突を告げた。
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