失った禁じ手

エリー.ファー

失った禁じ手

 魔力を体の中にためて開放することで、一瞬、失禁しているように見えるが。

 周辺の魔物を一掃する技がある。

 あたしはその技を知っているし、使うことができるが、絶対にパーティの仲間には言わない。

 口が裂けても言わない。

 絶対、言わない。

 人として使うのはどうかと思うし。

 絶対、言わない。

 このことを知っているのは、あたしと。

 七人の賢者。

 八人の里中さん。

 八幡八幡宮で出店をしているあたしのおじいちゃん。

 そして、リリコス。

 たったそれだけの人にしか知られていない大事な大事な秘密だから。

 絶対に言ったりはしない。

 たとえ、今現在の状況のように、ハルクヴェルに囲まれていて、うちのパーティは、勇者が死亡、三人の騎士が死亡。盗賊と盗賊と魔術師であるあたしだけになったけど。

 この技は絶対に使わない。

 元魔術師のお母さんが冒険中に使い、それがきっかけでお父さんと出会って最終的に結婚にまで至った、あたしの一族に伝わる由緒正しき幸せを運ぶ技であると信じられているけれど、絶対に使わない。

 本当に、使わない。

「す、すまない。」

 今、盗賊のうちの一人がコマンドミスで、逃げられない系のバトルなのに、逃げるを選択してターンを無駄にして、死んだけど。

 自業自得だから使わない。

 もう一人の盗賊は結構あたしのことを好きみたいだから死ぬ気で守ってくれるだろうし、何とか生き残って見せる。最悪、このパーティが全滅したとして、あたしは他の勇者が作ったパーティに入って魔王討伐を成し遂げる予定だから問題はない。

 あたしのレベルは結構高い。

 そこらにいるモンスターなら魔法ではなく、蹴りで殺せる。

 潰す、ではなく、砕くとか、破裂させて殺すタイプの蹴りだ。

 蹴り技の威力はあたしの一番弱い魔法よりも強いけれど、靴が汚れてしまうし、余り可愛く見えないから絶対にしない。

 そう言って、昨日、声を殺して寝室に入ってきた勇者の股間を蹴り潰したけど。

 あれは。

 あれは、そういうあれじゃない。

 そういうあれじゃないから、セーフだ。

 だって、蹴り潰したあとに、回復魔法で治してあげたし、勇者も感謝してくれたし。

 男の子だし、そういう気持ちになることもあるよねって言ったら、なんか、丸く収まって良かったって顔してたから、帰り際に気づかない程度に毒魔法をかけて、こっちの気持ちもすっきりしたし。

 もう。大丈夫。

 それは解決したこと。

 でも、今はそれどころじゃない。

 二人目の盗賊もやられて。

 とうとう、あたし一人。

 根性出せよ、盗賊。

 そんなことを思ってると、死んでしまった二人目の盗賊の手の中からペンダントが見える。

 なんと、そこにはメスとガキの笑顔の写真がはめこまれている。

 こいつ、妻子持ち。

 妻子持ちの空気出してなかったくせに。

 早く言えよ。

 逆に燃えたのに。

 どうしよう。

 とりあえず、持っているアイテムの脱出ウィングを使ってみたほうがいいかもしれない。効果はパーティ全体で、強制的なイベントバトルであっても関係なく、一番最後にいた街の宿屋までワープすることができるというもの。

 ただ、高い。

 これは、売るといいお金になる。

 持って帰りたい。

 見つけたとき、勇者にも報告しなかったこのアイテム。

 持って帰りたい。

 切実に。

 親の作った借金が三千万ジュエルもあって、正直首が回らない。というような状況でもなんでもないけど、ただ、お金が好きなので持って帰りたい。

「どうにかなんないかな。」

 ハルクヴェルが雄たけびを上げて、こちらに向かって指をさす。

「それ、データ更新で禁止アイテムになってるよ。」

「え。嘘。」

 その瞬間。ハルクヴェルが隙をついてあたしのアイテムボックスを遥か遠くへ弾き飛ばす。

「うん、嘘。」

 覚悟を決めてパンツをおろす。

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