第3話
翌朝、ケリーは灯台守が吹くラッパの音で目を覚ました。
ベッドから降りると、顔を洗ってまだ寝ぼけていた頭を起こした。お母さんはすでに仕事に行ってしまったらしく、家の中は静かだった。でも、代わりにテーブルの上には朝食と置き手紙が置いてあった。
『ケリーへ
おはよう。よく眠れた? 大佐の家までは遠いから、気をつけて行くのよ。無理はしなくていいから、あなたのやりたいようになさい。朝ごはん、ちゃんと食べてね。愛してる。
お母さんより』
手紙を読むと、ケリーの顔は自然とほころんだ。
朝食を食べると、ケリーはきれいに折りたたまれた黒いズボンと、真っ白のシャツを広げた。昨日、おとなりにもらった新しい服だ。
おとなりのおばさんは、昔からケリーのことをよく可愛がってくれた。お父さんが死んだあとも、こうしてケリーの服をくれたりして、なにかと世話を焼いてくれていた。
「うーん、やっぱりちょっと恥ずかしいな」
服を着替えたケリーは、ひびの入った鏡の前でくるくる回りながら言った。
シャツはサイズが大きくて、袖で手が半分隠れてしまっていた。きれいで真新しい服を着ていると、いつも汚れた服を着ているケリーには、まるで自分じゃないように思えた。
でも、せっかくもらったものだし、ケリーには他に穴も汚れもない服なんてなかったから、この服を着るしかなかった。
着替え終わったケリーは、部屋にあるシミができた古い木箱から、あの珊醐のネックレスを大事に取り出して首に巻いた。
そして、箱の中にあるもう一つのものを、真剣な目で見つめながら取り出した。
黄ばんだ布に包まれたそれを、ケリーは静かにポケットに入れた。少し息が荒くなっていたことに、本人も気づいていなかった。
「ケリー! ちゃんと起きてるー?」
玄関の扉を叩く音に、ケリーは驚いて飛び上った。
ドキドキした胸を押さえながら、ケリーは扉を開けに向かった。声の主はよく知っている。今着ている服をくれた人だ。
「おはよう、おばさん。大丈夫、起きてるよ」
「おはよう、ケリー。お母さんから頼まれてあなたを起こしに来たんだけど、その必要はなかったみたいね。偉いわ」
おばさんは、ニコニコして言った。
「まぁ、ケリー。その服、とても似合ってるわ~」
ケリーの服に気づいたおばさんは、嬉しくて目をキラキラさせた。
すると、おもむろにケリーをぎゅっと抱きしめた。ふくよかな体のおばさんは、パンみたいに柔らかくて、ケリーの顔はおばさんのお腹に埋もれてしまった。朝ごはんだったのだろうか、エプロンからほのかにバターのにおいがした。
「は、はずかしいよ、おばさん。でも、ちょっと大きいんだ」
ケリーはおばさんから離れると、照れながら袖を見せて言った。
「あら、いいじゃない。そのほうが、これからあなたが大きくなっても着られるから、新しく買わなくていいでしょう? さぁ、ケリー。朝ごはんは食べた? 準備はできたの?」
「うん、おかあさんが作ってくれたから。準備は見ての通りさ」
ケリーは、へへっと笑ってみせた。
「あぁ、ケリー。その服を着て大佐のところに行くなんて嬉しいわ。頑張るのよ。一緒に行ってはあげられないけど、おばさんも応援してるからね」
「ありがとう、おばさん。いってきます」
ケリーはおばさんに手を振って、丘の上を目指して歩き出した。
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