第5話

 そして、桐崎さんの…碧の彼女になって、三ヶ月が経とうとしたある日。


「零音」

 突如私を呼び止めた、いつもより不愛想な碧の声。

「…碧、どうしたの?」

と問うてみれば、彼はくしゃりと茶髪を掻き撫ぜて

「…訊きたい事あるんだけど」

とぶっきらぼうに零した。

「今日から推薦の一年が部活入ったじゃん。零音もいただろ?隣のコートで女バスやってたし」

「……うん」

「それでよ、そん中に一人だけ、どっかで聞いた事ある名前の奴がいたんだよ。どこだかは忘れたんだけど、確か全国大会に出てたよーな気が……」

「…碧がそこまで気にするなんて珍しいね。何て人?」

「ああ…零音、知らねえ?多分零音も聞いた事あると思うんだけど……」



「城開墾中学校のPFの、水鏡悠也みかがみゆうやって奴なんだけど」



 その名前を聞いて、身体中の筋肉が一気に強張ったのが分かった。背中を伝う嫌な汗が、硬直した私の意識を辛うじて繋ぎ止めている。


 まさか、こんな所で彼の名を聞くなんて…。




「…零音?」

 碧が、心配そうに私の顔を覗き込む。

 ああ、そうか。私は今、碧と付き合ってるんだ。

 碧の目をしっかり見つめると、私は小さく息を吸った。



「…知ってるよ。だって…水鏡・・は私の幼馴染だもん」

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