第3話

 立ち塞がるダブルチーム。

 交錯する視線。

 緊迫する空気。

「ラスト15秒!」という誰かの叫び。


 DFの向こうから、パスを呼ぶ仲間が垣間見える。

「零音!」と私を呼ぶ主将の声が聞こえる。

 ...普通なら、パス、だ。それでも、私はその声を無視し、DFの綻びが生じた瞬間に3度のフェイントで彼らを抜き去る。

 スリーポイントラインで悠々と跳び上がると、最高地点で手から離れて行くボール。それは、私が宙にいる間、天井に緩やかな弧を描き、着地と同時に静かにネットをくぐり抜ける。

「零音ナイス!」

 瞬間、聞こえる主将の声と、けたたましく鳴り響く試合終了の合図。

 新たに3枚めくられた得点板は、整列が完了した時には『94:32』の数字を示していた。




 母の言った通り、桜楼には全国よりすぐりの選手達が沢山いた。でも、私にワン・オン・ワンで勝った相手は誰一人としていなくて。

 そして、いつの間にか『桜楼のエース』とか謳われ始めて、いつの間にか8年間が過ぎ去っていた。

「零音ならどんな状況でも決めてくれる」

「零音ならどんな相手でも倒してくれる」

 というレッテルまで貼られて。



「零音は強いね!いつも1人で勝ってくれるもん!」




 ...「1人で」?...違う。


 私は1人じゃ...私は、私には、私のバスケには...






「水鏡悠也」っていう、最高の相棒が必要なのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る