第2話

「零音は悠也君と分かれて、来月から此処に通いなさい」



 ある日、突然母から告げられた言葉は、まだ幼かった私が受け入れるには重すぎるものだった。


「...え...?」

「良いじゃない、来週から水鏡みかがみさんもアメリカに転勤みたいだし。...それに零音だって、本当はもっと強い仲間と一緒になりたいでしょ?ここには全国から選りすぐりの選手達が集まるから、きっと零音ももっともっと上手くなるわよ」

 一方的に話を終えると、母は私に書類を押し付けて部屋を出て行った。母の後ろ姿をぼんやりと見つめていた私は、何も言わずに手元に視線を落とす。

 ...私立桜楼学園。初等部から高等部までの一貫校で、学業面や部活動面でも生徒の成長著しい進学校。

 そして...いつか悠也君と行きたいと思っていた、全国屈指のバスケの強豪校。

「...一人なんてやだよぉ、悠也君と一緒にいたいよぉ...」

 ぼやける視界。

 漏れる嗚咽。

 頬を伝う液体。

 そして、くしゃり、と音を立てる手の中の書類。


 ...思い返せば、この時からだったのかもしれない。




 いつの間にか、自分の中で『悠也君』の存在を否定し始めていたのは。


 そして、「結局私は一人なんだ」と、自分の殻に閉じ篭り始めたのは。

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