第3話
…いつからかなんて覚えていない。物心ついた時から、私の傍にはいつも剣道があったから。
友達なんてろくにいなくて。家族以外の誰かと遊んだ事も無くて。他の子達が無邪気に笑っている間にも、私は剣道場でひたすら竹刀を振るっていて。
嫌だなんて思った事は無い。どれだけ怪我を負っても、どれだけ涙を流しても、剣道場だけが私の居場所だったから。己を磨き、相手を敬い、自他共に精進できる事が何より幸せだったから。
…剣道が、大好きだったから。
だから、中学に進級して、所属する部活動を決める事になっても、私は迷わず剣道を選んだ。弱小が故に部員数は少なかったけれど、私はただ竹刀を振るえる事だけが楽しくて。
そして…一年の夏、初めて出場した全国大会で。決勝まで残った私は、偶然『彼』の実力を目の当たりにした。
「面ッッッ!」
それは、丁度隣で行われていた男子の決勝だった。見上げるほどもある大柄な相手に、『彼』は面を打ち込んで華々しく勝利を飾った。
一礼を終えて面を取った『彼』の剣道着に刻まれていたのは、『桜楼学園 佐伯』という白い文字。…偶然だが、その名前には聞き覚えがあった。
私立桜楼学園。学業面、部活動面共に生徒の成長著しく、全国屈指の名門校として名高い中高一貫校。
そして…そんな猛者達を束ねる主将の
…初めて目にした『彼』は、真っ直ぐな黒髪に鋭い目つきと、その異名に相応しい、飄々とした佇まいで。
それは、準優勝という結果で終わってしまった私に憧れを抱かせるには十分すぎるものだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます