『首を切り離されても生きていられるか?』
地獄で見いだした希望
自分の選択が間違いだったと思ったことはない。正確には思いたくなかっただけなのだけれど、過去の自分を肯定していたかった。神楽を取り込んだ事実を否定したくはなかった。
ただの一度でも否定してしまったなら、私は鬼に成り果てていただろうから。
私が求めていたものは称賛だったのだと、蔑視を向けられて初めて気付いた。それは、お腹の中にいる神楽に対して言い様のない恐怖と嫌悪を抱いたときであり、私の選択は、生半可な思いでは到底覆い切れるものではないことを理解したときでもあった。
――神楽め。
――バケモノ! ケダモノ!
――妖がヒトを名乗るとは、それほどまでに命が惜しいのか。
――卑しい奴だ。
人間でなくなったその日から、私は人間として扱われなくなった。
親を奪われた苦痛、きょうだいを奪われた悲哀、伴侶を奪われた寂寞。留まるところを知らない神楽への怨嗟は宿主である私へと向けられ、不死身であることを悪用した虐待へと繋がった。心臓を串刺しにされ、熱した油を浴びせられ、酸で焼かれ、皮を剥がれ、毒を盛られ、首を絞められ、殴打され、切り刻まれ、飢えと渇きによって私は死に――神楽によって生き返る。
裂傷も、爛れも、欠損も、果ては視力や臓器の機能に至るまで、全てが元通りとなる。
どうして不死身なのに痛覚は存在したのだろう。痛覚とは、死の危険を知らせるための
そんなもの、殺される苦しみをいたずらに駆り立てるだけなんだから。
そう、痛いんだ。人間扱いされないよりも、殺されることには堪えられない。
お願い。私を罵って。詰り、嘲笑を浴びせていいから、殺すことだけはやめて。
心が傷付くよりも、体が傷付く方が痛いの。
このまま、眠れてしまえたら。この痛みを最後に、解き放たれたなら。
痛みとともに終わり、繰り返される痛みを予見して絶望する目覚めから切り離されたなら。
《死にたい》
忌避するべき死が安寧へと挿げ変わるのはあっという間だった。
それだけが、そんなものが、地獄で見いだした希望だった。
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