第7話

「泪衣はさ、本当に紫織に会った事は無いの?」



 夏休みのある日...弓道場に遊びに来てくれた魁斗先輩が、唐突にそんな事を問うて来た。


「...えっ」

「いやね、泪衣、紫織に会った事無いって言ってたから。紫織さ...中学の時から結構ここに遊びに来てるし、試合とかだと応援にも来てくれたりしてたし...他の二年達はみんな知ってたのにな...って」

「...昨年の今頃...俺は、あんまり部活に顔出してませんでした。だから...」

「...まあ、そうなんだけどね。それでも、紫織ってかなり有名人らしいよ。兄の僕が言うのもなんだけど、御厨ちゃんとか陸上部MGと並んで『三大美人』て言われてるみたいだし」

「......」

「...実はね、あの子...中学の頃はかなり荒れてたんだ。家には帰って来ないし暴言吐きまくってたし...。意外でしょ。今ではかなり大人しいんだから」

「...えっ」

「それでもね、去年の秋...地区総体で泪衣に会ってから、段々と角がとれてって...。...紫織が今あんな子なのは、泪衣のお陰って言っても過言じゃないんだよ」

 俺の肩にポン、と手を置くと、魁斗先輩は「有難ね、泪衣」と優しく笑う。俺より僅かに低いその瞳は、現役の頃のような柔らかい光を映していて。



「...こちらこそ、有難うございます」



 ...ああ、やっぱりこの人はいつだって俺の憧れだ。



 悶々と悩んでいた事を見透かして、一番欲しかった答えを教えてくれる。



 ...だからなのだろうか。そんな魁斗先輩と...そして碧と話して確信した事が一つある。













 俺は、紫織が...。

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