第4話

「泪衣、最近調子良いよね。何かあった?」


 長かった梅雨も明け、初夏を迎えた弓道場で、スコアを見ていたマネージャーが不思議そうに問うて来た。

「…は?それ、どういう事だよ」

「…だからさあ…最近、的中率とかかなり上がったし、射形だって綺麗になったし…って事。…どうしたの?」

「…別に。新人戦近くなって来たからだと思う」

「そっか。泪衣が任されたの、夜桜先輩と同じ立だもんね。試合に先輩が来てくれるの、そんなに楽しみかぁ」

 マネージャーは納得したように頷いていたけど、きっと俺は、心のどこかで魁斗先輩以外の誰かに会える事を期待していたんだと思う。

 最近、無意識のうちに考えているのは、いつか見た緩い黒髪の少女の事。移動教室の時も部活中も、いつの間にか目で探しているのは、あの穏やかな黒い瞳。


 つい最近まで何とも無かったはずなのに。

 名前さえも知らなかったのに。

 …いつの間にか脳裏に浮かぶ彼女の姿を、俺は今日も頭を振って否定する。




 それなのに……何で、俺はまた「彼女に会いたい」と思ってしまうんだろう。

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