第2話 取り敢えず、この世界のドレスを見繕います
「お嬢様、ウーロ商会の者がドレスを仕立てに参りました」
待ちに待った1時間。
商人が来るのを今か今かと待ちきれなかったよ。おかげで、待ち時間に行ったマナー講座に身が入らずメリーに幾度となく注意されてしまった。
だが、それも今となっては詮無き事。元コンビニ店長の鼓動が早まる。
――さーて、この世界の商人のお手並み拝見と行きますか。
「メルリア・イル・マークル様。私はウーロ商会頭のウーロと申します。本日は私どもウーロ商会にご用命頂き誠にありがとうございます。メルリア様の模擬社交界成功のため、全力で取り組まさせて頂きます」
「宜しくお願いしますわ」
「ははっ。本日は、選りすぐりの布をご用意させて頂きました。どうぞご覧くださいませ」
白髪にキリリとした顔だちをしたウーロ商会の商人がテキパキとした指示を飛ばしながら他の従業員たちにドレス用の生地を持ってこさせる。
彼らの貴族相手の商売にこなれている感が伝わってくる。
それに、持ってくる生地はどれも精錬された生地ばかりであり、これは貴族にしか手を出せないような高価な代物であろうことが解る。
どれも目移りしてしまうなあ……。とはいえ、どれが良いのか全く見当がつかぬが。
そりゃ、貴族の着るドレスだもの生地から選んだオーダーメイドだよねぇ、と既製品しか購入したことのない私は途方に暮れる。
せめてコンビニチキンの味の良しあしなら解るのになぁ……などと困惑していると見かねたメリーが「お嬢様、こちらの水色の生地など映えるのではないでしょうか」と助け舟を出してくれる。ナイス、メリー!
「では、その生地でお願いしようかしら」
「ははっ。かしこまりました」
こうしてメリーの助けもあって、恙無く私のドレス生地選びは終了した。
生地選びはしたものの、結局のところそれでその日はお終いで特にデザインについての話などはでなかった。貴族はそういったものは全てお任せということなのだろうか? せっかくだから、この世界特有のデザインなどがあるのかチェックしたかったのになあ……。
そんな惜しい気持ちも抱いていたのも束の間、私はその後に待ち構えるダンスのレッスンのことで頭がいっぱいになり、そんなことも頭から離れて行ってしまった。
ちなみに、完成は1か月後であり、ひと月半後の模擬社交界には十分間に合う。
完成まで待つ楽しみというのもオーダーメイドの醍醐味なのだろうと初めてのオーダーメイドドレスに胸躍らせるのだった。
◆◇◆
1か月後、待ちに待ったオーダーメイドドレスが届けられた。
それはもう水色の映える美しい出来のドレスだった。
「やはり、お嬢様には水色がお似合いで」
メリーらもそれを着た私を見て喜んでくれたのだが……。
正直言って、思ったよりも地味だった。
別段元おっさんの私がおしゃれに目覚めたとかそういうわけではないんだけども! もっとフリフリとかリボンとかが付いているイメージを私が勝手に持っていただけなんだけど!
「ねぇ、メリー。もっとこれフリフリとかリボンとかついてた方が可愛くないかしら?」
「? ふりふり? りぼん? はて」
聞いたこともない言葉といった表情で首をかしげるメリー。
よくよく考えてみると、ここに来てから会った人々が着るものって単色かつシンプルなデザインのものしか無かった気がする。
そもそも装飾とかワンポイントとかいった認識があまりないのかもしれない。
だが、せっかくのドレスなんだから、そこまでこだわらなきゃね!
まだ模擬社交界まで半月は猶予がある。その間に仕上げてもらえばOKでしょ。
というわけで、私は首をかしげる商人たちに身振り手振りにイラストなどで説明しながらこだわりの逸品に仕上げるべく奔走するのであった。
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